目次
はじめに
トライアスロンでは水泳、自転車、マラソンの3種目を一人で連続して行います。別々の競技を続けて行うことや、それぞれの競技で腰にかかる負担が異なるため、腰痛を訴えるトライアスロン選手も少なくありません。
今回はトライアスロンで腰痛になりやすい原因とその解決策を紹介したいと思います。
トライアスロンとは
トライアスロンとは、水泳(スイム)、自転車(バイク)、ランニング(ラン)の3種目から成り立つスポーツの一つで、オリンピックにも正式種目として挙げられています。スイムの距離は3.8km、バイクの距離は180km、ランの距離は42.195kmがよく知られていますが、トライアスロンはこれ以外の競技距離のスプリントディスタンスやショートディスタンス、ハーフディスタンス、ミドルディスタンス、ロングディスタンスなどさまざまな距離設定で行われています。
トライアスロンは腰痛になりやすい?
まず、結論から言うと、トライアスロンは腰痛になりやすいです。腰の筋肉には、主に背筋である「脊柱起立筋」という筋肉があります。この筋肉は、首から腰まで全体に存在し、主に姿勢を維持するために働いています。
姿勢を維持しているのであれば、あまりトライアスロンに関係ないかというと、そうではありません。水泳(スイム)でも自転車(バイク)でも、長距離走(ラン)でも正しい姿勢で運動するためには脊柱起立筋の働きは不可欠です。よって、脊柱起立筋はトライアスロン中、常に働き続けているため、疲労がたまりやすく腰痛が発生するのです。脊柱起立筋による腰痛は「筋・筋膜性腰痛」といい、スポーツ選手や一般人でも起こる、代表的な腰痛です。
スイムによる原因
スイムでは1.5kmの距離を泳ぎます。1.5kmは一般的に長距離水泳と言われる距離ですが、長時間自身の体温よりも低い温度の水の中にいることで身体が冷えてこわばり腰痛を発症しやすくなります。
またスイムで選択されることの多いクロールをする際、スピードを出すために上半身がぶれないように体幹を固定して泳ぎます。このようにすることで水への抵抗がなくなるのですが、同じ姿勢をし続けることで腰への負担が大きくなります。
トライアスロンに限らずこれは水泳全般に言えることなのですが、ターンをする際に腰に衝撃が加わります。そのため、壁を強く蹴った時に腰に違和感を覚えた方は注意が必要かもしれません。
バイクによる原因
準備運動をあまりせずに重いギアでバイクを漕ぎ始めると腰に大きな負荷がかかり、ぎっくり腰のような状態になることがあります。特に寒い時期には筋肉がこわばりやすくなっているため、特に注意が必要です。
また、トライアスロン中にバイクに乗る時の姿勢は普通の自転車に乗る時と少し異なります。空気抵抗を減らしてスピードを上げるために、シートの真上に重心がくるように姿勢を保っています。
しかしレース中に疲れてくるとハンドルの上に重心が移動し、腰回りの筋肉が疲れやすくなるとともに腰に大きな負担がかかってしまうのです。
バイクはスイムやランのように腰を捻るような動作は少ないですが、上半身を支えるために姿勢を固定し続けるため腰への負担がかかりすぎてしまうことも。
ランによる原因
トライアスロンのランは10kmなのでマラソンほどの長距離ではありませんが、ランによって腰痛を起こす方は多いと言われています。
ランで腰痛を引き起こす方は、普段の姿勢が悪かったり身体が硬かったりすることが多いです。走っている最中に突然痛みが現れることもあるので、腰に負担がかからないような走り方をすることが重要です。
トライアスロンの腰痛の原因は使い過ぎ
過酷なトライアスロンの腰痛の原因は過剰な負担
過酷なトライアスロンにおける腰痛の原因は過剰な腰への負担であることが考えられます。そのため、腰痛になった場合は、トライアスロンを休むようにしないと、改善するのは難しいでしょう。
とはいえ、適切にケアを行うことで、腰痛の改善を早めたり、予防したりするのは可能です。
腰痛改善のために、どの競技で腰が痛くなるかを把握する
トライアスロンの腰痛を適切にケアする場合、はじめに確認したいのが3種類の競技中のどれで腰が痛くなるかです。
なぜなら、どの競技で腰が痛くなるかが分かれば、腰痛の原因にコミットしてアプローチすることが可能だからです。以降で、競技ごとのセルフケア方法について解説するので、それぞれの競技について適切なセルフケアを実践してください。
トライアスロンで腰痛になりやすい種目は?
トライアスロンの3つの種目の中でも特に腰痛が起こりやすい種目がバイクです。バイクではエアロポジションと呼ばれる空気抵抗を減らした、体を前に傾けた姿勢で長時間時自転車をこぐ動作を続けます。バイク競技中は姿勢を変えることができず、腰は長時間同じポジションをとり続けなければなりません。
また、同じ姿勢を一定時間強いられるだけでなく、体の前傾を支える腰部には競技時間の間ストレスがかかりやすい状態になります。十分な柔軟性と筋力が備わっていない状態でバイクにチャレンジすると、簡単に腰痛を発症してしまいます。
バイクで腰痛を予防する方法
バイク競技で腰痛を予防する方法は、腰の位置を決めるサドルや腕の位置を決めるダウンヒルバー(DHバー)などの自転車側を調節してエアロポジションを改善する方法と、エアロポジションをとっても負担がかからない体の柔軟性と筋力をつける必要があります。
自分に合ったサドルを選ぶ
サドルは長時間運転するので、とても大切です。腰痛のことを考えると、できるだけクッション性がある方が良いです。しかし、あまりクッション性を重視しすぎてしまうと、ペダリングが重くなってしまうので、自分自身が納得できるサドルを選択しましょう。
ペダル選びに気を付ける
トライアスロンにおいて、ペダルは2種類使われていて、フラッドペダルとビンティングペダルがあります。選手により、どちらのペダルを使うかは分かれます。今回、腰の負担や腰痛予防を考えるのであれば、ビンティングペダルをおすすめします。なぜなら、足が固定されている分、ペダリングに余計な力が必要なくなりますので、体の負担は少なくなるためです。
しかし、ビンティングペダルにすれば、足が固定されているため事故の可能性が高まったり、トランジジョンの所要時間が多くなったりします。メリットとデメリットを考えて検討してみてください。
エアロポジションの姿勢をチェック
トライアスロンのバイクのエアロポジションでは、DHバーを使ってロードバイクのエアロポジションよりもさらに体を前傾した姿勢にします。それにより足を上げるためのスペースすなわち股関節を曲げる分のスペースはより狭くなります。背中や腰の柔軟性が乏しい人にとってはすでに保持が厳しい姿勢なのですが、バイクをこぐ場合筋力の働きでさらに腰に負担がかかります。
この姿勢で腰痛が出る場合、サドルの位置をやや前方に移動させて股関節を少しだけ曲げやすい姿勢にしてあげることで腰への負担は軽減します。また、サドルの高さを高くして、前側に傾けることでより腰への負担は軽減します。股関節の位置を調節することで重心はより前方へ移行するため、DHバーの高さや傾きを調節して自分が一番楽な姿勢を探すといいでしょう。
エアロポジションの設定方法は、ひざの曲がる角度や上体のかがむ角度などさまざまな設定方法があります。必ずしも一般的なベストポジションが自分の身体機能にマッチしてるとは限らないため、専門家の意見も取り入れつつ自分の乗り心地も評価しながらベストポジションを決めていくといいでしょう。
背中、腰の柔軟性をつける
腰に負担をかけずに楽にエアロポジションをキープするためには、背中から腰にかけての筋肉や関節の柔軟性が必要になります。柔軟性はストレッチを継続することで改善します。もともと体が硬いタイプの人は特に、時間をかけてストレッチすることで腰痛予防になります。
背中から腰にかけてのストレッチ方法その1
1. 四つ這いの状態で、背中を高く上にあげるようにゆっくりと体を丸めます。
2. 次におへそをなるべく床に近づけるように体を反らします。
3. 同じ動作を5回繰り返します。
背中から腰にかけてのストレッチ方法その2
1. 両手を外に開いた状態で仰向けに寝ます。
2. 右ひざを曲げて左足に乗せます。
3. 頭は天井を向いたまま、右足を左側に倒して腰を捻ります。
4. 足を元に戻して反対側も同じように行います。
5. この運動を左右5回ずつ行います。
コアスタビリティの改善
エアロポジションでいい姿勢をキープするためには、体幹深層筋のコアスタビリティが鍵となってきます。体幹深層の筋は強化されることで浅層筋への負担を軽減します。また、コアスタビリティが強化されることで腹圧が上がり、上体を支える安定感が増し、バイクをこぐ力にも持久力がつきます。
コアスタビリティのトレーニング
コアスタビリティのトレーニング方法はさまざまですが、今回はバイクのエアロポジションにも近いプランクを紹介したいと思います。
1. つま先と前腕(肘から手)をついた状態でうつふせになり、体を持ち上げて支えます。
2. 腰が丸まらないようにおなかに力を入れ、また反りすぎないように意識します。
3. プランク中はおなかの深くから深呼吸することを心がけましょう。
4. プランクの姿勢が崩れてきたら終わりです。
5. 1日1回ずつでも効果があるので、休まず毎日継続しましょう。
スイムで腰痛を予防する方法
スイムでは不安定な水の中で姿勢保持のために過度に腰に力が入り、腰が反った姿勢になっている人も少なくありません。間違った姿勢のまま練習を継続すると腰痛を起こすことがあります。腰に力が入りすぎてしまう人は、その拮抗筋である腹筋のトレーニングを意識的に行うといいでしょう。
水泳は水の浮力と抵抗により、他の競技よりも腰に負担がかかりにくいといえます。しかし腰痛があるときに無理に練習を重ねてしまうと間違った姿勢が身に付いてしまう可能性があるため、練習負荷は下げるのが望ましいです。
耐水テーピングを使う
筋肉をサポートするには、テーピングが有効です。しかし、海の中を泳ぐとなると、普通のテーピングではすぐに剥がれてしまい、使い物になりません。そこで、水の中でも剥がれにくい耐水テーピングがおすすめです。これであれば、泳いでいても剥がれにくく、絶えず筋肉をサポートしてくれますので、脊柱起立筋の疲労速度を軽減してくれます。
貼付方法は、背骨の両側にある筋肉の盛り上がりに沿って、肩甲骨から骨盤までテーピングを引っ張り過ぎないように貼ってください。引っ張ってテーピングを貼ってしまうと、背中がつっぱり前屈できなくなりますので、気を付けましょう。
カッピング両方を受ける
カッピングとは施術方法のことで、アイテムではありませんが、水泳(スイム)にとても有効ですので紹介します。正式にはカッピング療法といい、別名では吸い玉療法とも呼ばれています。ガラス製のカップを体に当て、真空状態にすることで当てた部分の血流を増大させることができます。内出血の跡ができますが、1週間程度で消えます。これを運動前にしておくと、筋肉の血流は増大しているため、酸素が筋肉に行き渡り、疲れにくくなったり腰痛が軽減されたりします。
最近では、プラスチック製の真空カップも発売されていて、セルフでカッピングができるような商品が発売されていますので、ぜひ試してみてください。水泳(スイム)のようなサポーターができない競技にはピッタリです。
ランで腰痛を予防する方法
ランニングでは骨盤周囲の柔軟性と体幹のコアスタビリティが腰痛予防のポイントとなってきます。走るときに手の振りと足の振り出しが交互になり、自然と体は回旋します。この自然な回旋運動により、床からの衝撃はうまく動作の中で吸収されていきます。
しかし骨盤周囲の柔軟性が乏しいとその自然な回旋動作の妨げとなり、動作を安定させるために腰部に過度に力が入った状態となります。体幹のコアスタビリティはこの骨盤周囲の安定性に関わっており、ランニングではコアスタビリティがしっかりとしていることでランニング動作のパフォーマンスが向上します。
また、トライアスロンの場合特に前の競技で酷使した筋力が疲労している状態となるため、姿勢が崩れやすくなります。バイクやスイムで疲れやすい筋肉に着目してトレーニングすることで、ランの腰痛予防にもつながります。
自分に合ったインソールを使う
体の負担を軽減させるためにまず思い付きやすいのは、インソールですよね。インソールは、体に掛かる衝撃を吸収するアイテムですので、とても重要です。しかし、しっかり足にフィットしておかないと、効果は半減してしまいます。そのため、おすすめはオーダーメイドです。自分だけの世界に一つだけのインソールを作るのです。お金はかかりますが、腰痛対策・体の負担軽減には最適です。
軽くてクッション性のあるシューズを選ぶ
シューズは、決して軽量であれば良いという訳ではありません。短距離走であれば、軽量なほど良いですが、長距離走の場合はそうとも限りません。それは、シューズが軽いということは、クッション性が失われていることになるからです。特に踵からの衝撃は、腰にも影響を及ぼしますので、シューズはできるだけ軽量かつ踵にクッション性があるものを選んでみてください。
腰痛対策しても効果がない場合は?
トライアスロン中の腰痛対策をしても、あまり効果がない場合、ただの腰痛ではない可能性があります。脊柱起立筋による「筋・筋膜性腰痛」であれば、上記のような対策アイテムを用いると、完全に痛みがなくなるわけではありませんが、ある程度マシになるはずです。効果がみられないとなると、筋肉以外の問題も考えられます。
例えば、腰の部分で神経を圧迫していると、腰痛とともに坐骨神経痛の症状が現れてきます。トライアスロン中に腰痛だけでなく、足に痛みやシビレがある場合は、早めに医療機関を受診して、精密検査をしましょう。放っておいても、良くなることはあまりありません。逆に悪化していくことが多いので、無理をせずにトレーニングも休みましょう。
腰痛が出たら練習はしないほうがいいのか
トライアスロンの練習中に腰痛が出てしまった場合、腰痛の状態に合わせて正しい初期対応をしましょう。痛みの部位が熱っていたり、炎症が疑われる場合は、アイシングや湿布などを活用して炎症を抑えるようにしましょう。
腰痛が急になった場合は少なくても数日間は痛みの出る動作は避けたほうが無難です。腰痛は初期対応を間違えてしまうと治りが遅くなったり、状態をさらに悪化させてしまう可能性があります。腰痛の原因がわからない場合や、対処法がわからない場合は早めに専門家に相談するようにしましょう。
おわりに
トライアスロンは年齢に関わらず、生涯的に楽しむことのできるスポーツのひとつです。しかしその分自己管理能力も問われるスポーツので、一度腰痛を起こしてしまうと思うように練習できなくなってしまったり、本来の力を発揮できなくなってしまいます。腰痛は早い段階での対処が早期回復のポイントなので、腰痛が出た場合何が原因で腰痛になってしまっているのかよく精査してトレーニングを進めていきましょう。
【参考文献】
トライアスロン種目であるバイクで腰痛が起こる理由
https://www.triathlon-win.com/bike/post-109
ハルさんの「目指せ水陸両用!」
https://ameblo.jp/halchuma/entry-12388386543.html
エアロポジションとは?
https://howtotriathlon.com/aeroform
腰痛とランニングの関係
水泳によるスポーツ障害
http://www.dodo2.net/orth/sprts/No26.htm
ロードバイクでの腰痛の原因
https://tential.jp/journals/waist/backache/042
「標準整形外科学 第10版」 国分正一・鳥巣岳彦 医学書院
「柔道整復学・理論編改訂第6版」 公益社団法人全国柔道整復学校協会 南江堂