腰椎の圧迫骨折は高齢者に多いのですが、手術をせず痛み止めの内服薬とコルセットによる固定で自宅療養しながら、骨が付くのを待つ(保存的治療)形で対処する場合がほとんどです。
確かに腰椎圧迫骨折は慢性腰痛の原因の一つであり、寝たきりになってしまう危険性もあります。ですがほとんどの場合、圧迫骨折は数週間で治るものです。
たまになかなか痛みが引かなかったり、足先まで痺れがあったりする場合があります。そうしたケースでは入院して手術することも。
どちらにしても、骨折を起こした直後や手術後の急性期から回復期に向けてリハビリが必要になります。若くても圧迫骨折後に脊椎の変形が起こり、背中が曲がったりしてその後の生活に支障をきたすこともあります。
この記事では、腰椎圧迫骨折の急性期から回復期にかけてのリハビリについてまとめました。
目次
腰椎圧迫骨折の治療
保存的治療の場合
腰椎圧迫骨折の治療は、そのほとんどがコルセットを付けて安静にするという保存的治療です。痛み止めの内服薬、湿布などを使い自宅療養する人が少なくありません。
入院をした患者さんも、1カ月もすれば歩いて退院できるようになります。
骨粗しょう症による圧迫骨折の場合には、他の腰椎も連鎖反応的につぶれることがあるので、骨粗しょう症の治療が必要です。
手術療法の場合
手術療法としては脊椎固定術と椎体形成術があります。
脊椎固定術は、背骨(椎骨)を金属の棒やねじなどで固定する手術です。数週間の入院が必要です。リハビリも行うことになります。
椎体形成術は、椎骨の骨折した部位に骨セメントを充てんして安定化させる手術です。最近ではBKPという、バルーンを使って骨セメントを注入する手術がよく行われるようになってきました。この椎体形成術は入院期間も数日なので、リハビリの必要がありません。
腰椎圧迫骨折の経過とリハビリ
保存的治療の場合
腰椎圧迫骨折の急性期(骨折してすぐの時期)はまず激しい腰痛がおこります。病院へ行くと痛み止めの薬、湿布薬が処方されます。寝返りを打っても痛いことがあるので、コルセットを装着して安静にします。
寝た状態から起き上がる時は痛みが強いのですが、一旦立ち上がると動けますので、トイレなどは行くようにしましょう。この時に転倒しないよう杖や手すりがあると便利です。
痛みはありますが、1週間もすると動けるようになります。
手術療法の場合
脊椎固定術(脊椎を金属のねじや棒で固定する観血的手術)の場合、4週間程度の入院が必要です。術後は腰椎が固定されているので、筋力低下や肺炎、高齢者の認知症など安静によって生じる問題を予防するためにリハビリが行われます。
術後1日目には、下肢筋力強化のトレーニングをします。2日目には起き上がりや座位保持訓練で、座っている時間を少しずつ長くしていきます。
3日目からは歩行器を使った歩行を少しずつ行っていき、5日目以降は自立歩行が出来るようにしていきます。
また、肺炎予防と血流の増加のために呼吸訓練をします。
呼吸訓練では、寝ている状態で背中をベッドに押し付けるように力を入れて呼吸をします。鼻から吸って口をすぼめるようにして吐き出します。
腰椎圧迫骨折のリハビリのポイント
保存的治療でも手術治療でも、基本的には足の運動機能の維持(ROM訓練など)を目指します。筋力の低下を防いだり、骨折治癒後の日常生活を送るための基本的機能の維持と姿勢を保ったりするための筋力トレーニングが主な目的です。
急性期のまだ痛みが強い時期でも、足首の運動や足の筋トレ、深呼吸はできます。
ROM訓練
ROMとは関節可動域のことで、体の関節が動く範囲を大きくするための訓練です。
寝たままでもできる訓練には以下のようなものがあります。
肩関節ー手を伸ばして頭の上に上げたり体側に下ろしたりする。
肘ーーー両手を体の前で天井に向けて伸ばし、握った手を胸につけるように肘を曲げる。
足首ーー足を伸ばしたまま、足の指を上に向けたり前に向けたりする。足首を回す。
股間節ー膝を曲げて足を立てたら、左右に膝を倒す。
(腰痛が強くなるようであれば中止します)
下肢の筋力強化
急性期(骨折直後~3日目くらいまで)は無理をしないでいいのですが、1日寝こむと衰えた筋力が戻るのに3日かかると言われるように、筋肉の力は衰えていきます。
日常生活を早く取り戻すためには足の筋力を落とさないことが大事です。
下肢の筋力を保つために、以下のような運動が効果的です。
・寝たままの状態で膝を立てます。
片方のひざ下の足を上げていきます。膝の高さまで上がるといいでしょう。
足を下ろしたら反対側のひざ下の足を上げます(交互に10回程度)。
・膝の下に4つに折りたたんだタオルを敷いて、それを足で押すように足に力を入れます。
ゆっくりと足に力を入れるだけで筋力アップになります。
・膝を立て、両膝の間にクッションやバスタオルを折りたたんだものを入れて、力を入れてつぶれるように両膝で挟み込みます。
椅子に座れるようになったら
・足の裏が全部床につくように座ります。背中を伸ばして片方の足を上げていきます。
不安な人は椅子の座面を持ったり、つえを使ったりするといいでしょう。
5秒から10秒くらい上げて下ろします。両方の足を交互に行いましょう。
・椅子に座ったままクッションを膝に挟み、ギューッと力を入れます。次にクッションを挟んだまま足を上げます。
簡単な運動ですが、腰痛がある時にはかなりハードです。
年齢によって回数や頻度を変えましょう。
高齢の方(70歳以上)でこれまで運動されていない人の場合は、1日おきで十分な効果が得られます。
3週間くらい経過すると、1人で杖も持たずに歩けるようになるケースが多いでしょう。
この時期は座っている時間を伸ばしたり、立っている時間を長くしたりしていきましょう。
リハビリ中に気を付ける注意点と禁忌について
・前かがみの姿勢を避ける
圧迫骨折は脊椎の前方に起こります。ですから前かがみの姿勢はできるだけ避けましょう。前かがみの姿勢を避けるにはコルセットの装着が効果的ですが、落ちたものを拾ったりお辞儀をしたりすることは避けてください。
・重い荷物は持たない
骨折からしばらくは重いものや大きな荷物、お布団などを持ち上げることを避けましょう。痛みが和らいでも完全に骨折が治っていないことがあります。重いものを持つのは医師の指示に従ってください。
・しりもちをつかない
腰椎の圧迫骨折は強い衝撃で起こる骨折です。椅子に座る時やベッドに寝る時は気を付けてゆっくりと腰を下ろしましょう。万が一しりもちをついて痛みが増した時は、整形外科を受診しましょう。
まとめ
腰椎圧迫骨折後のリハビリと注意点について説明しました。圧迫骨折後は筋力を落とさないためや、筋力をアップさせるためにリハビリをします。一般的には高齢になるにつれて筋力が低下していきます。健康的な生活を営むための筋力トレーニングは高齢になるほど有効ですから、少しづつでも続けて欲しいと思います。
医師や理学療法士の指導を受けながら筋力アップのためのトレーニングや腰痛体操、ストレッチを取り入れて、日々を健やかに楽しく過ごしてください。
参考文献
老人のリハビリテーション
原著 福井邦彦 著 前田真治 株式会社医学書院
椅子に座ってできるシニアの1,2分間筋トレ体操55
株式会社 黎明書房
参考URL
ベネッセの介護相談室
知っておきたい高齢者の病気 第7回圧迫骨折
https://kaigo-sodanshitsu.jp/usefulinfo/disease/07/
LIFULL介護
https://kaigo.homes.co.jp/manual/healthcare/kaigoyobo/shisei/
https://yotsu-doctor.zenplace.co.jp/media/cause_list/3302/