目次
脊柱側弯症とは
脊椎は7個の頚椎(首の部分の背骨)、12個の胸椎(胸の部分の背骨)、そして5個の腰椎(腰の部分の背骨)から構成されます。正常な状態ではこの脊椎は正面から見ると真っ直ぐです。
一方脊柱側弯症の場合、正面から見た時に椎体のねじれ(回旋)を伴いながら、脊椎が左右に曲がっている状態(側弯)です。
脊柱側弯症の種類
脊柱側弯症には、「機能性脊柱側弯症」と「構築性脊柱側弯症」の2つに分類されます。
機能性脊柱側弯症とは、背骨自体に原因はなく、背骨以外の原因を除去することにより軽減できる側弯症のことです。例えば、習慣的に姿勢が不良であったり、腰椎椎間板ヘルニアなどの痛みによるもの、骨盤の傾きによるものが含まれます。
一方、構築性脊柱側弯症は、脊椎のねじれを伴った脊柱の側方への弯曲であり、もとの正常の状態に戻らなくなった状態です。 このなかにはいまだ原因がわかっていない側弯症と、原因である病気がわかっている側弯症があります。
構築性側弯症の代表症例
特発性脊柱側弯症
脊柱側弯症のうち80%前後を占めますが、その原因はいまだ不明です。家族内発生が多いことから遺伝の関与が考えられますが、いまだ特定の遺伝子は明らかになっておりません。
発症年齢により乳幼児期側弯症(3歳以前に発症)、学童期側弯症(4歳から9歳に発症)、思春期側弯症(10歳以降に発症)にわけられ、それぞれに特徴があります。乳幼児期側弯症には自然治癒する傾向にあるものと、強い進行を有するものがあります。最も高率にみられる思春期側弯症は圧倒的に女子に多く、側弯の型も共通性があります。
特発性側弯症が進行するかどうかを予測することは難しい点もありますが、年齢や弯曲の型、程度などが参考になります。一般には、年齢が若く、女子では初潮前や骨の成熟が未熟な例は進行しやすいと考えられます。
先天性脊柱側弯症
脊椎などに生まれつきの形の異常があるために、成長期に左右の成長に差が出ることから側弯症に進展します。泌尿器系や心臓などの他の多臓器にわたって生まれつきの異常がある場合があり、どの治療を優先する必要があるのか考える必要があります。
神経原性脊柱側弯症
神経が障害されたことによって、背部や側腹部の筋肉が麻痺したために脊柱を支える力が失われ、曲がってきたものです。
筋原性脊柱側弯症
筋肉が萎縮する病気で代表される筋ジストロフィーなどの筋肉の病気による側弯症です。
間葉系疾患による脊柱側弯症
マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群などの血管や結合組織の生まれつきの病気による側弯症です。
その他の脊柱側弯症
小児期の病気や外傷後の脊髄麻痺後や放射線治療後、やけどなどのケロイド、くる病などの代謝疾患などの様々な原因により側弯症が起こります。
脊柱側弯症の変形のパターン
脊柱側弯症の変形のパターンは主に、3つに分けられます。
1つは胸椎が中心に曲がってくる胸椎カーブ、腰椎が中心に曲がってくる腰椎カーブ。そして、胸椎と腰椎の間で曲がる胸腰椎カーブです。カーブの位置、大きさなどにより治療の方法が変わってくる場合があります。
脊柱カーブの測定の仕方
脊柱側弯症ではカーブの大きさをコブ角という角度で表します。目的とするカーブの椎体が一番傾いている椎体と椎体の間の角度を測定します。
側弯症は前方から見て脊椎がコブ角で10度以上曲がる病態です。側弯症の発生頻度(特発性側弯症の場合)は、報告者によってその頻度に多少の違いはありますが、装具治療の対象となる20-30度以上の側弯症は0.3~0.5%、すなわち1,000人に3-5人いることになります。手術が必要な可能性が出てくる40度以上の側弯は0.1%以下です。
脊柱側弯症の身体特長
脊柱が曲がってくるため、以下のような体表面の変化が生じる場合があります。
肩の高さが非対称
腰のくびれが非対称
体幹バランス不良
骨盤の傾き
肩甲骨部の出っ張り などが特徴的です。
一番特徴的なのは、「ハンプ」です。体を前にかがめた時、背中、または腰の部分が盛り上がってきます。これを「ハンプ」と呼びます。一般的にはこの「ハンプ」の大きさは側弯のカーブが重度になっていくほど大きく目立ってくるようになります。
脊柱側弯症の治療の必要性
背骨が大きく曲がると容姿に問題が起きます。見た目や姿勢が悪い、進行すると身体のバランスが崩れて歩行する時に身体を曲げて歩くことになります。
そして、精神的にもうつ状態に陥ったり、コンプレックスを感じるようになる場合があります。
大きく曲がると胸郭や肋骨の変形がおこりその中にある肺の存在するスペースが狭く、胸郭は硬くなり呼吸機能に影響を及ぼします。そうなると心臓の働きにも悪影響を及ぼすことになり、特に幼少期より進行する場合には肺胞の成長に発育の障害が起こる可能性があります。
また大きく曲がると背部痛や腰痛を生じることがあります。青年期には訴えは少ないですが、脊椎の老化が進行してくる(背骨の老化や骨粗しょう症が起こってくる)40~50 歳代に、正常な背骨の人に比べてより痛みを訴えることが多いです。
上記の3つに共通しているのは“大きく曲がること”です。ここに早期に発見し治療しなければならない理由があります。そして早期に発見して早期に治療(時には経過観察)を開始する事によって手術に至る例をなるべく少なくすることが目標となります。
一般的に年齢が小さい時期(10 歳以下)に発症した場合は、進行しだすと急激に側弯が強くなりますので早期から治療が必要です。
また、第二次成長期の前後、女子では初潮発来の前後。男子では声変わりの時期が最も成長が大きい時期であり注意を要します。
側弯は学校健診により脊柱側弯症検診が義務づけられていますが、内科医師が検診する事が多く発見が遅れる場合もあります。家庭でも比較的簡単に判別する方法は前屈テストであり、入浴時などに試して見る方法です。
脊柱側弯を早期発見するには
ご家庭でも簡単な知識さえあれば早期発見が可能です。早期発見には、肩の高さの左右差、肩甲骨の出っ張り、ウェストラインの非対称など先ほど上げた身体的特徴を確認することですが、一番重要なのは前屈テストです。
前屈テストとは
子どもを起立させ両足を 40-50cm 程度開かせ両手を前方に組ませそのまま約90度前屈させます。このとき、自分のおへそを見るようにと説明すると、肋骨隆起がより明確になります。
側弯がある場合は肋骨隆起(右に背中が出っ張ることが多い)、腰部隆起(腰部の出っ張りで左右どちらの場合もある)、あるいはその両方が確認できます。
特発性脊柱側弯症の場合、学校での検診で見つかることが多いです。学校検診の際に、学校医によって側弯症の検診が義務付けられているからです。また地域によっては予防医学協会などに検診を委託している場合があります。
次に家族(主に母親)により発見される場合があります。一緒に入浴中に発見される場合が多いようです。また、風邪などで小児科を訪れて胸部のレントゲン写真で側弯が発見される場合も多いです。
また、患者さん本人が鏡の前でスカートの丈に左右差があったりする場合や、歩き格好を友人に指摘される場合も多いようです。
検診によって脊柱側弯症を疑われたら整形外科を受診し単純 X 線検査を受ける必要があります。検診のみでは本当に側弯症なのかどうかはっきりしない場合もありますので、疑われた場合は必ず整形外科を受診してください。これは側弯症の早期発見につながり治療も早期に開始することができ、側弯の進行防止にもつながります。
脊柱側弯症と診断されたら
診断された時点での脊柱側弯のタイプ(先天性、症候群性(二次性)、特発性、機能性)、側弯の程度、成長の度合い、その他によって治療が異なります。
最も頻度が高い特発性側弯症の治療の方法には大きく3つあります。
1.経過観察
側弯の程度が軽い時(側弯角 20゜以下)、特に第二次成長が完了していない場合には長期の休み(春、夏、冬休み)毎か、定期的(3~
4ヵ月、6ヵ月、1年毎)に受診し必要に応じてレントゲン検査をします。経過観察は重要でありこれにより早期に装具、手術の計画をたてることが可能となります。
2.装具療法
コブ角が 25゜以上(特に若年者の場合はコブ角 20°以上)になっていて、かつ第二次成長が始まっていない、進行中、終わって間もないか、などの場合、装具療法をおこないます。
3.手術療法
コブ角が 45゜以上の高度の側弯の場合は手術療法が行われる場合があります。
これらは大まかな目安であって必ずしもすべてに当てはまりませんが患者さん個々の例についてその都度、最適な方法が選択されます。
脊柱側弯症の診断がついている方は、医師や理学療法士、作業療法士の指導をしっかりと守り、ストレッチや筋力トレーニングを中心とした運動を行うようにください。
参考:日本整形外科学会https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/scoliosis.html