スポーツや運動で腰を痛めたことはありますか?
していない人でも多くの人は腰に痛みを覚えたことがあると思います。
整形外科を受診しても「レントゲンでは異常がないね、はい痛み止め」なんてことを経験したことが多いのではないでしょうか?
これは診断をする上での材料がレントゲンなどの画像であることが多いためです。骨が折れている、関節に異常があるなどの異常が画像で確認できればそこが原因だ!と診断に至ります。
しかし腰痛に関してははっきりと画像でわかることの方が少ないです。画像でわからない腰痛は実に80%と言われています。
そんな80%の腰痛のことを非特異的腰痛と言います。
スポーツや運動、生活で起こる非特異的腰痛について解説していきます。
目次
1:組織障害の進行
スポーツや運動で腰椎(腰の骨)に負荷がかかり続けることにより、椎間版、椎間関節、仙腸関節、筋肉などの組織にごくわずかな傷がつき、その修復過程として「違和感」程度の炎症が起きます。
炎症が起きた組織への負担を減らすことができれば自然と治っていきますが、傷ついた組織に負荷がかかり続けると炎症は続き、組織を治そうと血管や神経が通り、傷ついた組織の状態を「痛み」として認識します。そのため違和感程度だった炎症がある組織は特定の動きによる痛みを感じるようになります。
そこからさらにスポーツや運動を続けることで、傷ついている組織は骨棘(骨にとげのようなもの)や疲労骨折(骨に負担がかかり続けることで起こります)や軟骨の変性などが起こりレントゲンで変化が見つけられるぐらいに傷がついてしまいます。
このようにスポーツや運動で起こる障害の進行には段階(Stage)があります。その段階に応じて最適な対処方法が必要です。
段階(Stage)は以下の通りです。
Stage1:組織への負荷によって運動時の違和感を感じ始めた初期の段階
Stage2:組織にごくわずかな損傷が生じ、運動時に疼痛を感じる段階
Stage3:炎症が生じ、運動後も疼痛が生じるようになり、MRI画像等で変化が確認される場合もある段階
Stage4:骨棘形成、疲労骨折、椎間板の変性による関節の狭小化などの、レントゲン画像でもわかるような変化が認められます。スポーツや運動だけでなく日常生活動作でも痛みを認めるようになります。
Stage5:最終的に関節の変形や、椎間板ヘルニアなどに進んだ段階です。症状の出現の有無や痛みの程度には様々な要素が関連するため、個人差が大きいと考えられます。
以上が段階です。
Stage1~3まではレントゲン画像には変化を認められません。
Stage4以上は日常生活での痛み、レントゲンやMRI画像で変化が認められ、骨や椎間板などに異常が見つかる段階のため、整形外科への受診し治療を受けることが勧められます。症状によっては手術を行うことも考えられる状態です。
2:本当に腰を痛めていても原因がはっきりしないの?
ここまでの説明ではStage1~3の腰痛ではレントゲンなどでは原因がはっきりしない状態です。しかし、スポーツや運動で腰を痛めている人は、痛みのない人に比べると身体機能が低下していることがよく認められます。対処方法として身体機能の向上を目指したリハビリが必要になります。そのためStage3までの症状を把握し正しい対処方法をとることが大切です。
3:腰痛の症状を把握しよう
まずStage3までで起きやすい症状は以下の通りです。
椎間板(背骨の関節を支えているもの)障害
椎間関節(背骨の関節)障害
仙腸関節(骨盤にある関節)
筋筋膜性腰痛(筋肉による障害)
以上が起きやすい症状です。
椎間板障害
ジャンプの着地や腰を丸めた状態での重い物を持ち上げる動作、くしゃみなどの椎間板に負荷のかかるスポーツや運動、動作を繰り返すことにより、椎間板の変性が起きます。変性により運動時に椎間板への負荷が増し、微細損傷が生じ、炎症を伴うと修復のため血管が増え、同時に神経組織も増えるため腰に痛みを感じるようになります。
椎間板の修復が行われても、再度椎間板へのストレスにより損傷が生じることにより激しい腰痛になることもあります。椎間板の中にある髄核が損傷した部位を移動するようになると「椎間板ヘルニア」となります。
評価として簡便なのが前屈動作になります。前屈により椎間板へのストレスがかかり腰痛が再現されます。
補助診断としてMRIで椎間板の変性などの所見を認めることがあります。
治療としては除痛・抗炎症治療を行い、繊維輪の自然修復を待つことになります。症状を軽減させるために骨盤の前傾運動を促すために太もも裏の筋肉(ハムストリングス)ストレッチ、体幹のインナーマッスルや臀部筋の機能向上を目指します。
椎間関節障害
腰は捻る動作が得意ではありません。そのためスイング動作やランニング・キック動作などによって、腰椎に繰り返しの伸展(反りすぎる)・回旋(ひねる)動作によって椎間関節(背骨同士の関節)に負荷が加わります。その結果として関節周囲の組織に微細損傷が生じ、障害となります。
これらは腰椎に隣接する関節の股関節や胸椎・胸郭の伸展可動性が高ければ腰椎への局所的なストレスは軽減していきます。例えば野球のバットスイング動作では股関節を回す動作ができず、腰を回すことでしかスイング動作ができない場合は腰椎に負担がかかり痛みを引き起こす原因になります。
評価として、kemp手技があり腰を伸展(反る)+回旋(ひねる)動作で痛みが誘発される場合は椎間関節障害を疑います。
レントゲン画像では通常異常な所見は認めませんが、CT画像で椎間関節に骨棘(とげ)を形成することが認められます。しかし画像所見では異常がない場合が多いため前述したkemp手技を用いてチェックする。症状が強い場合は障害されていると疑われる椎間関節にブロック注射を行い、痛みが著明に軽減する場合は椎間関節の障害が考えられます。
治療としては安静や痛みの出る動作の制限、コルセットの装着、投薬、ブロック注射が行われます。疼痛が軽減後は痛みの出た動作で再度痛める場合があるため身体機能の改善が必要です。股関節の伸展可動域改善(太もも前や股関節前面のストレッチ)、胸椎や胸郭(肋骨周り)の改善。腰を反る動作で腰の筋肉が働きやすくなるようなトレーニングが必要です。
仙腸関節障害
仙腸関節は骨盤にある仙骨と腸骨がつながっている関節です。関節と言いますが、関節周りは非常に強固な靭帯に覆われているためほとんど動かない関節です。そんな仙腸関節ですが痛みを感知するセンサーが豊富に存在するため少しの変化でも痛みを感じてしまいます。
痛みの誘発動作は前屈や反る両者である場合もあり一定ではありません。
診断するには仙腸関節周囲へのブロック注射で多くの人は痛みが軽減します。痛みが軽減する場合は何らかのストレスが仙腸関節にかかっているため原因部位と考えられます。
筋筋膜性腰痛
腰椎は多くの筋肉に支えられています。腰部筋群が適切な緊張を保つことで安定しています。スポーツ動作や運動で繰り返し使い続けることで筋肉へのストレスが原因で起こります。脊柱を支えている脊柱起立筋がついている腸骨(骨盤)へ牽引力が加わり起こる障害です。筋肉と筋膜との間で亀裂が入るような肉離れのような状態です。
障害されている筋に伸ばされるようなストレスで痛みが誘発され、立ち上がる時や寝返りなどでも様々な動作で痛みが出現します。圧痛がある部位へのブロック注射が診断する上で用いられます。
いかがでしたでしょうか?非特異的腰痛だけでも4つの病態が考えられます。
自分の症状にあった治療を行うことで腰痛改善につながります。
金岡 恒治氏
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 整形外科医1988年筑波大学を卒業した脊椎専門の整形外科医師。筑波大学整形外科講師を務めた後に、2007年から早稲田大学でスポーツ医学、運動療法の教育・研究に携わる。シドニー、アテネ、北京五輪の水泳チームドクターを務め、ロンドン五輪にはJOC本部ドクターとして帯同。アスリートの障害予防研究に従事しており、体幹深部筋研究の第一人者。また、「腰痛のプライマリ・ケア」「一生痛まない強い腰をつくる」「金岡・成田式 腰痛さよなら体操(TJMOOK)」等の本も多数、執筆。
参考:腰痛 日本整形外科学会