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スポーツ選手にとって健康な体は良いプレーをするための基本です。しかし繰り返しの過酷な練習がどこまでが必要でどこからがやりすぎなのかを判断したり、また成長期の体の変化に伴い練習メニューを一人一人に合わせて変えたりすることはプロのトレーナーでもなかなか難しいです。

特に野球は中腰でプレーすることが多く、腰痛になりやすいスポーツの1つです。今回は野球をプレーする人のために、腰痛が起こってしまう原因と腰痛予防のポイントを紹介したいと思います。

野球は腰痛になりやすいスポーツか?

野球はひざを曲げて中腰でプレーすることが多く、姿勢をキープするだけでも腹筋や背筋が十分についていないと腰への負担となります。

さらに手や腕でボールを打ったり、投げたりすることで腰には捻る動作が加わります。姿勢保持の筋力が弱く、さらに肩や腕、腰の柔軟性がないと動作時の負担はダイレクトに腰にかかります。筋力の強さや関節の柔軟性は腰を守る働きをしますが、それらが不十分だとその負担は骨、関節へとかかり、腰痛を引き起こしてしまうのです。

腰に負担がかかる姿勢に注意!

守備中の中腰でやや前かがみな姿勢

守備に付いている時、中腰でやや前かがみな姿勢をとります。中腰姿勢で使う主な筋肉は、大腿四頭筋(太ももの前部分)やハムストリングス(太ももの裏)、大殿筋(お尻の筋肉)、大腰筋(背骨と骨盤をつなぐ筋肉)、脊柱起立筋、腹筋などです。

実は中腰姿勢は立った姿勢の約3倍の負担が腰にかかると言われています。中腰姿勢を長く続けると腰に大きな負担がかかり、腰痛を引き起こします。

さらに、捕球する時は中腰からより前かがみになり、その後に投球するなど多くの動作が加わります。その際に腰回りの柔軟性があれば負担は軽減できますが、そうでない場合はスムーズな動きができず、無理な姿勢になりやすいです。無理な姿勢はさらに腰回りに負担をかけます。

特に、野球はランナーがベースにたどり着く前に投球しなければならないので「早くしなくては。」という気持ちで、無理な姿勢で投げる場面もあるかと思います。その時に負担がかからないように、普段から柔軟性を身につけていく必要があります。

バッティング時の回旋運動

バッティング時は腰を回旋させる動きをします。腰を回旋させる時は下半身、背中、胸など全身の筋肉を使います。体幹が弱かったり、柔軟性が足りなかったりすると腰にも負担がかかり、腰痛の原因になります。

ランナー時の中腰とスライディング

ランナーとして塁に出ている時、牽制が来たときや盗塁のためなど、すぐに動けるよう中腰でいることが多いと思います。

しかし、守備と同様に中腰の姿勢は腰にかなりの負担が掛かっている状態です。そして、タイミングが来たら素早く動くことから無理に腰を回すこともあります。中腰ですでに負担が掛かっている腰部にさらに力を加えることになり、腰痛につながる可能性があります。

野球でなりやすい腰痛の種類

腰椎分離症

腰椎分離症は、過度のトレーニングや新しいトレーニングメニュ―が体に合っていないときに起こりやすい、腰椎の後方部分が疲労骨折してしまう疾患です。初期は軽度のひび割れなどからスタートし、悪化すると骨が完全に断裂してしまいます。

この疾患は早期発見が非常に大切です。まだ骨折が早期の状態で発見することができれば、手術をしない保存療法で治療を進めていくことができます。早期発見し、コルセットの着用など安静が正しく守れれば、骨は自然と癒合していきます。

しかし骨折の発見が遅れたり、初期の安静が正しく守れず癒合が安定して進まないまま発症から1~3カ月の初期の期間を経過したりしてしまうと、その後の自然な癒合は期待できない可能性が高いです。分離した腰椎が正しい位置から外れて滑った状態となったり、骨折後の癒合が正しく進まず周辺組織が神経に触ったりする場合、足の痺れなどの神経症状が出ることもあります。

骨折の癒合が認められない場合や、状態が悪化し神経障害が出ている場合は手術に至るケースもあり、その場合長期野球がプレーできなくなるだけでなく、将来的に腰痛と付き合っていく必要性が予測されます。

椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアは背骨と背骨の間を繋ぐ椎間板と呼ばれるクッションの内部が後方に押し出されてしまう疾患を指します。急に重たいものを持ったり、負荷の高い運動、体を前屈したりするタイミングなどで起こります。

椎間板が後方に出ることで腰痛を引き起こしますが、程度が悪化すると神経を圧迫するため腰椎分離症と同様に足の痺れや筋力低下を引き起こします。椎間板ヘルニアも早期発見による安静の維持が非常に大切で、正しく初期対応ができれば80%のヘルニアは1~3カ月で自然治癒していきます。

初期の段階で正しく安静が守られておらず症状が改善されない場合や、神経症状として痺れや筋力低下、失禁してしまうなどの排尿障害がある場合は手術に至るケースもあります。

腰痛が起こった時の初期対応

腰痛は初期対応が正しく、迅速に行われていれば早期回復、早期スポーツ復帰が見込めます。また、反対に早期の対応が間違ったままプレーを続けてしまったり、対応が遅れることで手術が必要になるケースや、野球をプレーできるようになるまで年単位の時間がかかったり、もしくは復帰できないケースもあります。

それだけでなく、腰痛を生涯的に付き合っていかなければならないケースにも発展する可能性があるので、初期対応は非常に大切です。

安静

腰痛で一番大切な初期対応は安静です。どの腰痛疾患であっても、腰痛初期の安楽姿勢での安静は必須です。特に腰痛が起こった直後、またはその後数日間は安静にしていましょう。痛みの程度によっては運動量の軽減など、状態に応じて対応しましょう。

また、安静後運動量を元に戻していく時期は、腰痛を再発させないためにもゆっくりと進めていくのが望ましいです。

冷却

腰痛の原因が筋肉の場合だけでなく、関節や骨が原因で痛みが出ている場合も、初期対応は炎症部位に対する冷却が理想的です。タオルに包んだ氷枕でアイシングをする、または抗炎症作用のある湿布などを活用するといいでしょう。

練習メニューの改善

中学生、高校生などの成長期のタイミングは筋肉だけでなく骨や関節にも痛みが出やすいので、成長痛なのか過負荷な運動による痛みなのかが判断しにくいですが、過度な練習による負担が原因で痛みを感じる場合は、そのまま同じ練習メニューを続けるのではなく、体の状態に合った練習メニューを検討しましょう。

成長期の体の状態は一人一人違い、そのタイミングもバラバラです。大切な時期に体を壊してしまわないように気を付けましょう。

受診するべきタイミング

腰痛は早期発見がとにかく大切です。もちろん些細な痛みでも早期に受診しておくことが一番理想的ですが、特に痛みが強く日常生活にも支障がある場合や、痛みが1~3日以上続く場合、筋肉痛ではないような痛みと感じる場合、神経障害が出ている場合は特に注意して早期受診が必要です。

野球選手の腰痛予防方法

野球選手なら腰痛が起こる前に、安全にプレーできるように自分の体をメンテナンスしておく必要があります。これはプロでもアマチュアでも同じです。どれもすぐに定着するものではないので、時間をかけて自分の体を整えていきましょう。

ストレッチ

野球では中腰の姿勢で捻る動作をするため、柔軟性が非常に大切です。プロ野球選手でも特に力を入れているのがストレッチです。特に腰痛予防を意識するのであれば、腰の前屈、進展、回旋などの体幹の柔軟性に加えて、足、特に太ももの後ろのハムストリングスや太ももの前の大腿四頭筋のストレッチを重点的に行いましょう。

腰背部のストレッチ

①座った姿勢で膝を手前に軽く曲げ、足を開きます。
②両足のつま先をつかみ、曲げている膝をゆっくり伸ばしていきます。
③深呼吸をしながら30秒キープしましょう。
④そのまま背中を床につけ、右膝を上に持ち上げます。
⑤左側に倒していきます。
⑥深呼吸をしながら30秒キープしましょう。
⑦左膝も同様に行います。

お尻周りのストレッチ

①座った姿勢で右膝を立てます。
②右膝に左肘を当て、そのまま後方に振り向きます。
③左肘で右膝を軽く押していきます。
④深呼吸をしながら30秒キープしましょう。
⑤反対側も同様に行います。

大腿四頭筋のストレッチ

①立った姿勢で右足を背中側で持ちます。
②かかとをお尻に近づけていきます。
③深呼吸を30秒キープしましょう。
④左足も同様に行います。

ハムストリングのストレッチ

①立った姿勢で膝を伸ばしたまま前屈します。
②顔は正面を見るよう意識して、手を床に近づけていきましょう。
③床に座った姿勢になり、足をまっすぐ前方に伸ばします。
④つま先に向けて体を倒していきましょう。

筋力トレーニング

筋肉は自分で鍛えることができて、関節や靭帯、骨を保護する働きをしてくれます。筋力は1日ですぐにつくものではなく、繰り返しのトレーニングで強化できます。筋力トレーニングとストレッチを合わせて行えば、腰痛になりにくい体づくりができます。

筋力トレーニングは翌日に筋肉痛が残らない程度で、毎日繰り返して行くことが大切です。また、食事内容やたんぱく質の摂取のタイミングも筋力強化に影響します。

ドローイン

①仰向けの姿勢で膝を立てます。
②大きく息を吸いながら、お腹を膨らませます。
③息を吐きながら、お腹を凹ませましょう。この時、腹式呼吸を意識します。
④③の状態を30秒キープします。
⑤これを3セット行いましょう。

フロントブリッジ

①うつ伏せになります。
②両前腕と足のつま先だけで体を支えながら、身体を床から離していきます。
③身体の軸は真っ直ぐにしたまま、30秒キープします。
④これを3セット行いましょう。

自転車こぎの動作

①仰向けの姿勢で足を軽く上げます。バランスを崩さないように、手は腰の横に置きます。
②足を自転車のペダルをこぐように動かします。この時、大きく弧を描くように回します。
③1分間を1セットとし、3セット行いましょう。

身体が慣れていない状態でトレーニングをしすぎると、筋肉に大きな負担がかかってしまいます。最初は無理をせず、慣れてきたら回数や時間を増やしていくようにしましょう。

コルセットの利用やテーピングの利用

コルセットやテーピングは、腰にかかる負担を軽減する役割があります。コルセットには硬い素材でできた硬性コルセットと、柔らかい素材でできた軟性コルセットがあります。使うシーンに分けてうまく使い分けることで、腰への負担が軽減されます。

また、テーピングも同様に腰を保護する役割を果たしてくれます。痛みの出やすい姿勢やポジションを考慮して、筋の走行に沿って貼るといいでしょう。テーピングを貼る位置がわからない場合は、医師など専門家の支持を仰いで活用しましょう。

スポーツ選手としてやってはいけないこと

中学生、高校生などの学生時代のスポーツ活動は、生活の中心となることがあるくらい大切な場合があります。怪我や痛みでスポーツをしない期間ができることで、周囲から遅れをとったり、大事な場面で本領発揮できなかったりなどさまざまなトラブルを招きます。

しかし体は他の何かと置き換えることができず、正しい処置を怠ってしまうことで野球が二度とプレーできない体になってしまうこともよくあります。初期対応のタイミングを間違えないよう、プレーヤー本人とトレーナー、医療者のアドバイスを上手くバランスをとって汲み取りながら練習を進めていきましょう。

さいごに

野球選手と腰痛は切っても切れない関係にあります。基本的には予防が大切ですが、すでに腰痛になってしまった場合はその後の初期対応が非常に大切です。プレーで高いパフォーマンスを発揮するためにもセルフケアを怠らず、自分の腰の状態や健康状態にしっかりと目を向けて取り組んでいきましょう。また、自分の状態がわからない場合は、早めに医師またはトレーナーに相談しましょう。

参考文献、参考サイト
野球選手が腰を壊してしまう原因とケア方法
腰痛にならないために
野球選手が腰を壊してしまう原因とケア方法
腰椎分離症・分離すべり症|日本整形外科学会
腰椎分離症|村山医療センター
腰椎分離症|北千葉整形外科
野球における腰痛について

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

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