巷で耳にする「腰痛」にはさまざまな種類があることをご存じでしょうか?有名な疾患としては変形性脊椎症、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間関節症、筋膜性腰椎症、腰椎変性すべり症、腰椎分離症、側弯症などが挙げられます。
腰痛を治療する際には、患者様がこれらのどの腰痛に当てはまるのかを鑑別することが重要になってきます。
目次
腰痛の鑑別診断について
私たち治療者は、患者様の腰痛が上記のどの腰痛に当てはまるのかを鑑別診断する際に、以下の評価を行います。
① 前に屈む動作
② 後ろに反る動作
③ 左右に回旋する動作
④ 左右に体を倒す動作
これらのどの動作で痛みが誘発されるのか、またこれらのどの複合動作での痛みが誘発されるのかを評価し、この評価内容から腰痛の原因により近いものを鑑別診断していきます。
腰を反ると痛い「腰椎椎間関節腰痛」とは
腰椎椎間関節由来の腰痛は非常に多く、全腰痛症の70~80%を占めているといわれています。腰椎椎間関節腰痛は「腰を反った状態での回旋動作での痛み」が誘発されるのが特徴です。よって屈む動作ではなく、腰を反る動作で腰痛が出現する方は腰椎椎間関節腰痛の疑いが高いといえます。
日常動作の例としては
① うがいの際に痛い
② 物を持ち上げる動作で痛い
③ 立った状態で後ろに振り向く動作で痛い
などがこの腰痛の患者様が訴えることが多い特徴として挙げられます。また「腰を反ると痛い」ことがキーワードであることから、腰を曲げる動作(屈み動作)にて症状が軽減するとの訴えも特徴の一つです。
腰椎椎間関節腰痛の痛む場所の特徴は
腰椎椎間関節腰痛の痛みの特徴としては
① 腰部の片側の痛み
② 臀部の痛み
③ 脚の痛み
が挙げられます。これらは単独で誘発されるケースと、複合的に誘発されるケースに分かれます。上記でご紹介した「腰を反ると痛い」という動作時にこれらの痛みが出現した場合は、腰椎椎間関節腰痛の可能性が高いです。
腰椎椎間関節腰痛の病態について
腰の椎間関節には「侵害受容器」という「痛みを感じるセンサー」が多く分布し、体の負担となる力学的なストレスを感知した際に痛みを発生させる機能が備わっています。
また、関連神経の影響によって腰の深層にある筋肉に過緊張状態が引き起こされ、筋・筋膜性腰痛を発生させることも報告されています。さらに、椎間関節に炎症が発生した場合には神経に炎症が波及し、神経障害性疼痛をきたす可能性が指摘されており、臀部や脚への痛みが誘発されることがあります。
よって、腰を反る動作時の腰痛だけではなく、臀部や脚への痛みの波及の有無は椎間関節由来の状態把握のために重要な情報です。
腰椎椎間関節腰痛の診断について
腰痛の原因には多様性があり、個人の簡易検査による鑑別は非常に難しいです。確実な鑑別診断を行うには医療機関を必ず受診してください。
医療機関にてレントゲン、CT、MRI検査や動作等の身体的検査、神経学的検査等を必要に応じて複合的に行い、腰痛の原因についての診断を行ってもらいましょう。また、早期回復のためには症状を長期化させることなく早めに医療機関を受診する必要がありますので、無理に我慢をしないように心掛けましょう。
腰椎椎間関節腰痛の治療と運動療法について
腰椎椎間関節腰痛では以下の3つが原因となっていることが多くみられます。
① 胸椎の伸展(反る)可動性低下
② 体幹の安定性低下
③ 股関節の可動性低下
これらの影響によって腰椎椎間関節に力学的ストレスが加わり、負担が掛かっていることが考えられます。よって治療のポイントとしては以下の3つの改善を目的に理学療法や運動療法を行います。
① 胸椎の可動性
② 体幹の安定性
③ 股関節の可動性
整形外科病院での理学療法士の治療では、ベッド上での徒手療法やマッサージ、バランスボールなどの道具を使用した治療等が症状や状態に合わせて行われることでしょう。その際には、必ず家で行えるホームエクササイズを2つ、3つ程指導してくれますので、しっかりと覚えてご自宅で行うようにしてください。
では先ほど記載した①~③の3つの改善に必要な家で行えるホームエクササイズの一部をご紹介します。
腰椎椎間関節腰痛に効果的な運動療法のご紹介
胸椎の可動性改善
① バスタオルを折りたたんだ状態から筒状に丸め、これを横向きで床に置く
② タオルが背中の部分(肩甲骨付近)にくるように仰向けで膝を立てた状態で寝る
③ その状態で両方の手のひらをお腹の上においてゆっくりと呼吸を行う
これを3~5分間かけて行い、胸椎を反るように伸ばしていきます。タオルを背中に当てることで胸椎を反る状態を作れ、猫背のように丸まった胸椎の可動域を改善することができます。なるべく脱力し、リラックスした状態で行うようにしましょう。
注意点として、痛みがある方は直ぐに中止してください。また反る姿勢が苦しい方は、筒状にしたタオルを小さくし、タオルの高さを調整してみましょう。
体幹の安定性改善
① 四つ這いの姿勢をとる
② 肩の真下に両手のひら、股関節の真下に膝がくるようにする
③ 背中~腰が反り過ぎたり丸まり過ぎたりしないよう真っすぐキープする
④ この四つ這い姿勢で少しお腹を締めるようにキュッと力をいれる(呼吸は止めない)
⑤ この状態から体幹部がぶれないように注意しながら、片手を真っ直ぐに上げて下ろす動作と、片足を伸ばしながら上げて下ろす動作をゆっくりと繰り返す
これを5回×2~3セットや10回×2セット程度、ご自身の体力に合わせて行いましょう。
注意点としては、動作を繰り返している最中に体幹部が反ることや、丸くなることがないように1回1回注意しながら行うようにしましょう。
股関節前面の可動性改善
① 両膝立ちの状態から片足を前に出した膝立ち姿勢をとる
② 両手を前脚の膝に置き
③ 骨盤を前方に移動させながら体重を前脚にかけていく
④ この状態で後ろ脚の股関節前面のストレッチを行う
30秒×4セット行いましょう。また反動をつけず、深呼吸をしながらゆっくりと行いましょう。
注意点としては痛いほど無理に伸ばさないように、心地いい伸張感を感じながら行いましょう。
自宅での運動療法の継続が非常に重要
整形外科を受診し理学療法士の治療を受けた際には、必ず家で行うホームエクササイズを指導されます。私は整形外科病院で理学療法士を11年間行っており、さまざまな患者様へホームエクササイズを指導させて頂きましたが、家でしっかりと行ってくれる方と、全く行ってくれない方とでは治療の効果や完治への期間がかなり違ってくることを実感しています。
リハビリテーションにおいても、受動的な治療(ベッド上で寝転んでマッサージだけを受けるなど)ではなく、患者様が自ら身体を動かす「参加型の治療」が推奨されています。理学療法士からホームエクササイズを指導された際には、自宅でしっかりと継続し、自分の身体と向き合うように心掛けましょう。
椎間関節腰痛って何?診断方法や治療法、腰椎椎間関節症を改善するストレッチについても解説
腰痛椎間関節腰痛はどんな病院を受診すればよいのか
腰椎椎間関節腰痛の治療については、医師の診断後に理学療法士へリハビリ内容のオーダーが出され治療が開始されます。病院探しとしてはまず、理学療法士が在籍し、リハビリテーション科がある整形外科を探すようにしてください。
よくある失敗のパターンとしては、理学療法士が在籍していない整形外科を受診し、電気、薬、湿布のみの治療を繰り返すだけで症状が改善しないことです。整形外科領域の治療においては、理学療法士によるリハビリテーションの介入が推奨されていますので、病院選びの際には参考にしてみてください。
まとめ
今回は腰椎椎間関節腰痛について原因と対策についてご紹介しました。
まずは病態を正しく理解し、医療機関での医師の診断や理学療法士による治療が腰椎椎間関節腰痛には非常に重要です。
その際にはあなた自身も体を動かし、治療に参加することや、指導されたホームエクササイズをご自宅で継続することを心掛けましょう。
今回の記事で自分自身の腰痛が気になった方は「自動問診」「腰痛ドクターアプリ」を活用してみてはいかがでしょうか。
1)松村 将司,三木 貴弘(2020年9月3日刊行)『適切な判断を導くための整形外科徒手検査法』メジカルビュー社
2)成田 崇矢(2019年2月3日刊行)『脊柱理学療法マネジメント』メジカルビュー社