野球選手にとってケガはつきものですが、できる限りならないように日々努力されていると思います。特に、腰痛を発症するとさまざまなプレーに影響を及ぼします。
今回は野球で起こりやすい腰痛について、野球による腰痛の原因や症状についても詳しく解説していきます。
目次
野球で起こりやすい腰痛
野球のケガというと、肩や肘のケガを想像する方が多いです。しかし、野球は体幹もよく使うスポーツで、ピッチングやバッティングでも体の捻りを使い、ボールを投げたり打ったりしています。よって、腰痛が発生することがあります。ここでは、野球で起こりやすい代表的な腰痛をご紹介します。
筋・筋膜性腰痛
腰の筋肉や筋肉を包んでいる膜(筋膜)が痛んでいる場合は、筋・筋膜性腰痛といいます。腰の筋肉はたくさん種類がありますが、主に姿勢を維持している脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)があります。
この筋肉は、腰を反らしたり捻ったりする時に働きますので、とても痛めやすいです。背骨ではなく、腰の筋肉の盛り上がっている部分が痛い場合は、筋・筋膜性腰痛が考えられます。
腰椎分離症(ようついぶんりしょう)
腰には疲労骨折があって、その病名を腰椎分離症といいます。腰の骨の関節に近い部分が骨折により分離してしまう状態です。腰痛が発生し、なかなか治らない場合はこの病気を考えなければなりません。
放っておくと、疲労骨折した部分はくっ付かずに、離れたままになってしまいます。離れたままで正常な位置に腰の骨があれば大丈夫ですが、ほとんどは正常な位置からズレてしまいます。ズレると、今度は腰の神経を圧迫して足の痛みやシビレが発生するのです。この状態になると「腰椎すべり症」といわれます。腰椎すべり症になってしまうと、腰痛は生涯残ってしまい、スポーツ生命に影響を及ぼします。
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは、腰の骨と骨の間にある椎間板(ついかんばん)というクッションが、急な動作や無理な体勢などにより、正常な位置から脱出し腰の神経を圧迫している状態です。神経を圧迫しているため、腰痛とともにお尻から太ももの裏、ふくらはぎにかけて痛みやシビレが発生します。
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野球で発生する腰痛の原因は?
では、野球でどんな時に腰痛が発生するのでしょうか?腰痛になりやすい原因と、原因から考えられる病気をそれぞれ紹介していきます。
筋肉の疲労・柔軟性の低下
日々の厳しい練習で、どうしても身体は疲労しますので、筋肉も疲労しています。筋肉が疲労すると、血流が悪くなり硬くなってしまいます。硬くなると、筋肉の柔軟性が低下して、思わぬところでケガをしています。
柔軟性があれば無理な体勢をしても筋肉は耐えられますが、疲労して柔軟性が低下していると、筋肉を痛めやすいため筋・筋膜性腰痛になりやすいです。
毎日できるだけ練習の前後でストレッチを行い、家に帰ったらお風呂にゆっくり浸かったり、よく寝たりして疲労回復に努めましょう。
練習量が多い・過度のトレーニング
野球の練習は、他のスポーツと違い練習時間が長いです。打撃・守備・走塁と分けて1つ1つ練習を行うため、どうしても長くなってしまいます。実戦形式のようにまとめて練習をしようとすると、全員ができない練習項目が出てきてしまいます。サッカーのように、ディフェンスとオフェンスに綺麗に分かれて行えることができないのです。
よって、1日の練習時間が休日であれば、6時間を超えてくることも多々あります。また、それ以外にも筋力トレーニングもしなければなりませんので、更に身体に負荷が掛かります。
このような状態が毎日続けば、筋肉が疲労して筋・筋膜性腰痛になったり、腰の骨が疲労骨折を起こして腰椎分離症になったりします。練習メニューやトレーニング時のフォームの見直しを行うなどして、腰への負担をできる限り減らしましょう。
一発外力によるケガ
ボールを打った時やスライディングした時、ボールを投げた時などの大きな力が働いた瞬間は、腰のケガに繋がりやすいです。筋肉を痛めた場合は急性の筋・筋膜性腰痛ですし、椎間板が脱出した場合は、腰椎椎間板ヘルニアになります。
精神的な要因
実は、精神的な要因でも腰痛は発症しやすいです。腰椎分離症は疲労骨折ですので、精神的なことは関係ありません。しかし、筋・筋膜性腰痛や腰椎椎間板ヘルニアは、少なからず関係しています。
野球チームの中でなかなか結果出ず悩んでいたり、レギュラーになれずに悔しい思いをしていたりしていると、自律神経が乱れ痛みを引き起こすのです。
野球による腰痛の症状から、考えられる病気とは?
野球の練習や試合中の動作で腰痛がある場合、どんな病気が考えられるのでしょうか?野球で痛む動作から病気を紹介していきます。
前傾姿勢が痛い
何か下にある物を取ったり、守備練習中に姿勢を低くしたりした時に腰痛がある場合は「筋・筋膜性腰痛」か「腰椎椎間板ヘルニア」が考えられます。筋・筋膜性腰痛は前傾姿勢になると、脊柱起立筋が伸ばされるため痛みが起こります。
腰椎椎間板ヘルニアでは、前傾姿勢になると椎間板が後ろに押し出されるため、余計に神経を圧迫し症状が悪化してしまいます。症状が強い場合は、咳やくしゃみでも痛みが増強してしまうことがあります。
身体を捻ると痛い
野球はスポーツの中でも、身体の捻りが多いです。バットを振ったりボールを投げたりする時も、必ず身体の捻りが加わります。そんな時に腰痛がある場合、3種類の腰痛の全てが考えられます。
身体を捻るということは、腰の骨・椎間板・腰の筋肉の全てに負担が掛かるのです。
よって、野球は腰に負担が掛かりやすいスポーツです。身体のバランスや負荷を考えると、同じ方向ばかりに捻るのでなく、反対の方向にも捻ることをおすすめします。プロ野球選手も右バッターなのに左で打ったり、右ピッチャーなのに左で投げたりしています。
後屈すると痛い
フライを捕ろうと身体を反らしたり、頭の上の打球をキャッチしたりする時に腰痛がある場合は「筋・筋膜性腰痛」か「腰椎分離症」が考えられます。筋・筋膜性腰痛は身体を反らす脊柱起立筋が関係していますので、後屈すると痛いのです。
腰椎分離症は、後屈すると疲労骨折部が圧迫されて痛みを感じやすくなります。特に、身体を左右どちらかに捻った状態で後屈すると、余計に痛みが増強します。
腰痛と足のシビレがある
腰痛と共に足のシビレがある場合は、「腰椎椎間板ヘルニア」しか考えられません。しかし、それは上記の3種類の中でのことです。他に考えられる腰痛もあります。
例えば、若い方にはありませんが、年齢を重ねると腰の骨や周りの組織が変性して、神経を圧迫することがあります。また、腰痛ではありませんが、お尻の筋肉が硬くなることで坐骨神経を圧迫して、坐骨神経痛を引き起こす病気もあります。
腰痛だけでなく足のシビレがあるものは、ただの腰痛ではありませんので、早めに医療機関を受診して検査を受けてください。
まとめ
野球によって起こる代表的な腰痛をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?腰痛といってもいろいろな種類があります。腰痛の根本的な治療には、筋力トレーニングやストレッチ、有酸素運動などの運動療法が推奨されています。
今回の記事はあくまで参考程度にしていただき、自分だけで絶対に判断せず、あまり治らない場合は早めに医療機関を受診しましょう。
<参考文献>
〇「東洋医学臨床論〈はりきゅう編〉」 教科書執筆小委員会 医道の日本社
〇「標準整形外科学 第10版」 国分正一・鳥巣岳彦 医学書院
<参考>日本整形外科学会