陸上競技には、「走」「跳」「投」を争う特性があり、幅広い種目があります。
この記事では、陸上競技の中の「跳」である棒高跳びについて解説致します。
「跳」を特徴とする陸上競技は、長時間争う競技とは違い、一瞬の瞬発力やスピードが求められます。
そのため、陸上競技の中でも棒高跳びは、競技の特性上、身体部位に大きな負担がかかりやすいスポーツであると言われています。
身体部位の中でも特に、腰痛を引き起こす選手が多いのが現状です。
この記事では、陸上競技(棒高跳び)による腰痛の原因や対処法について、動作分析の研究結果を元に、詳しく説明していきます。
目次
陸上競技(棒高跳び)の特徴
棒高跳びは、助走で獲得した運動エネルギーを踏切動作、棒に伝え、位置エネルギーへと変換する競技です。
棒高跳びは、棒を持って助走する「助走動作」から棒をボックスに突き刺して踏切を行う「踏切動作」があり、棒を曲げて身体を抱え込む「棒曲げ動作」、バーを超える「バー超え動作」で構成されています。
そのため、エネルギーを変換する踏切動作には地面からの反力に加え、棒を持っている手からも衝撃が加わり、身体各部位に大きな負担がかかります。
陸上競技(棒高跳び)における最も腰痛が発生しやすい動作
アメリカの大学生棒高跳び選手における研究では、腰椎に最も障害が多く、その83%かつ障害全体の30%は棒高跳びの踏切の場面で発生していたという報告があります。
また、踏切時に踏切足が棒を持っている上の手に対して前方にあること(いわゆる踏切が近い状態)で脊柱が強制的に伸展することが腰痛の発生と関連していると言われています。
このように、踏切動作による腰椎過伸展が腰痛を引き起こす動作と言えます。
陸上競技(棒高跳び)による腰痛の原因
棒高跳びによる腰痛の原因を2つ挙げます。
1つ目は肩関節、2つ目は股関節です。
原因1:肩関節屈曲の可動域不足
腰椎の過伸展を誘発する原因として、肩関節屈曲の可動域不足による腰椎の代償動作が考えられます。
ある研究では、飛び込み選手の肩関節屈曲の柔軟性が腰痛と関連していることを報告しており、その研究では、肩関節屈曲制限が腰椎過伸展を誘発していると考察しています。
原因2:股関節伸展の可動域不足
腰痛をもつ棒高跳び選手は、腰痛のない選手と比べて股関節伸展の可動域が小さいことも報告されています。
股関節伸展の可動性が小さいことで、腰椎や骨盤による代償動作が生じます。
その腰椎や骨盤の代償動作が過負荷となり、腰痛につながります。
陸上競技(棒高跳び)による腰痛はパフォーマンスを低下させる
腰痛のある棒高跳び選手の動作を繰り返し分析すると、動作に一貫性がなく、ばらつきが生じていたことも判明しました。
ばらつきが生じた背景に、慢性腰痛による避難行動によって、無意識的にパフォーマンスへの悪影響を及ぼしている可能性が考えられます。
慢性腰痛があると自覚していても競技を続行している選手が多くいます。
パフォーマンスへの影響や、それによる障害発生を考えると、慢性腰痛の解決策や予防策を講じることは強く勧められています。
陸上競技(棒高跳び)による腰痛の対処法
ここからは、棒高跳びによる腰痛の対処法についてご紹介します。
棒高跳び動作の特徴を分析した研究結果を元に推奨された方法です。
肩関節屈曲と股関節伸展の可動域拡大
棒高跳び選手の腰痛において、肩関節屈曲と股関節伸展の可動域不足が原因となることを前項にて説明してきました。
よって、肩関節屈曲と股関節伸展の可動域拡大を目指すことは、棒高跳びによる腰痛を改善することに繋がります。
要するにストレッチ、筋膜リリースが大切です。
練習の前にストレッチを行うのは基本ですが、特に肩関節屈曲、股関節伸展方向への伸張運動を入念に行うことが効果的であると言えます。
体幹の強化
アスリートにおける慢性腰痛に対して、体幹強化が有効であるという報告は多々存在します。
腰部と腹部に対する強化運動や、腹横筋や多裂筋を共収縮させるための運動などが有効であると言われています。
また、四肢の十分な動作発現の間に、脊柱の基本的なアライメントおよび体幹部の筋力や持久力を維持し続けることができる能力が、最も重要な体幹筋群の機能であるとされています。
つまり、体の軸を安定させるための体幹筋力の強化が重要ということです。
これらのことから、棒高跳び選手においても、体幹強化を行うことにより、体幹部の安定性を獲得することで慢性腰痛の予防や改善に効果的であると言えるでしょう。
ここで、体幹筋強化のトレーニングを1つご紹介します。
四つ這いになり、肩関節、股関節、膝関節の屈曲角度は90°を意識します。
背骨が曲がったり反ったりせず、地面と平行になるようにしましょう。
次に、この状態から右手と左足を、地面と平行にまっすぐ挙げます。
この姿勢を10秒間キープし、元の状態に戻りましょう。
さらに、左手と右足を同様に挙げて10秒キープし、戻ります。
注意点は、体幹が地面と並行の状態を維持することです。
回旋したり、曲がったり反ったりしないよう、腹筋群と背筋群を同時に収縮し続けることが大切です。
陸上競技(棒高跳び)のパフォーマンス向上と腰痛軽減を両立する方法
棒高跳びの競技動作指導において提唱されている理論があります。
棒高跳びの踏切時にスイング動作開始のタイミングを遅らせることがパフォーマンス向上に有効であり、身体がスイング方向に回転してしまうのを防ぐため、一時的に踏切離地時の姿勢を維持することを提唱しています。
そのためには、踏切離地後に身体を大きく後方に反らし、能動的にスイング動作を行うイメージが役立つとされています。
しかし、体幹部の力が抜けた状態で踏切離地時の姿勢維持を意識してしまうと、代償的に腰椎が伸展してしまい、その動作を繰り返し行うことによって、慢性的な腰痛に至る可能性が考えられます。
そのため、腰椎伸展の代償動作を起こさないよう、最適な筋活動様式を行わせる運動コントロールに対するトレーニングや、関節可動域の獲得、体幹強化により、競技動作においても体幹部が安定した状態を獲得することが腰痛発生のリスク軽減に繋がります。
まとめ
陸上競技(棒高跳び)による腰痛の原因、対処法についてご紹介してきました。
棒高跳び選手にとって、腰痛を改善するだけでなく、パフォーマンス向上に繋げることが目標であると思います。
この記事でご紹介させて頂いた内容は、2020年の研究報告を元に執筆しており、最新の情報であると言えます。
是非、明日からの練習の参考にしましょう。
(参考文献)
1) 榎将太,他.大学生男子棒高跳選手における慢性腰痛の有無による踏切動作時の関節角度の比較−肩関節屈曲と股関節伸展に着目して−.日本アスレティックトレーニング学会誌第5巻第2号141-149(2020)
参考:日本陸上競技連盟