野球による繰り返しのピッチングやバッティングにより、腰痛を引き起こしてしまうケースは多いです。
腰痛が慢性化すると、プレーを長時間続けられなくなったり、思うようなプレーができなくなったりしてしまいます。
しかし、野球による腰痛は、適切な痛みの評価と対策を行うことで、軽減することが可能です。
この記事では、野球による腰痛を抱える方のお悩みを解決するために、特徴的な症状と原因、対策について解説します。
目次
野球による腰痛の特徴と原因
ピッチングの場合
ピッチングサイクル中、片足立ちの横向きから正面に向かって投げる際、腰→背中の順でねじれが加わります。
そのねじれのバランスが崩れてしまうと、背中、仙腸関節(腰とお尻の間の関節)、椎間板(腰の骨と骨の間のクッション)に痛みが生じます。
投球力の50%は腰、骨盤の動きであると言われています。
バッティングの場合
バッティングでは、下半身の動きに伴い激しく腰が回転し、その際、腰椎に大きな回転圧力が加わります。
打撃のタイミングがずれると、腰椎に強い圧力が加わり、痛みが生じます。
その圧力は、体重の6倍を超えると言われています。
このように野球は、下半身から上半身へと力を伝達する連続的な動きが基本となっています。下半身と上半身をつなぐ部分、つまり支点として最も負担が大きい部分が「腰」なのです。
野球による腰痛の原因6つ
長時間の練習
野球の練習時間は長時間に及ぶため、筋肉に疲労を溜めやすくなります。
平成28年に発表された中学野球の実態調査によると、平日の練習時間は2~3時間、休日はなんと7時間以上も練習しているチームが多いことが明らかになりました。
長時間の練習は筋肉に疲労を溜めやすく、腰痛の原因になりやすいと言えるでしょう。
体幹と腰の動的な安定性の低下
野球の動きの支点となる腰や骨盤の安定性はとても重要です。
バッティングの場合、スイング→ボールの接触→フォロースルーの時、腰を高速回転します。その高速回転により、腰椎の軟部組織(筋膜、靭帯、椎間板など)に強い負荷がかかります。腰や骨盤周りの筋肉が不十分だと、この回転を制御できず、軟部組織に小さな傷ができます。これが腰痛の原因となります。
ピッチングとバッティングにおける不適切なタイミング
ピッチングとバッティングにおいて、動作中に発生する腰のねじれと回転力が最も強い瞬間があります。
ピッチングの場合は、先導する足が地面に接触する時、バッティングの場合はボールがバッドに接触した後です。
この最も腰への負荷が強い瞬間に、適切なタイミングで腰・骨盤回りの筋肉を最大に活動する必要があります。
このタイミングが遅れたり早まったりすることで、結果的に腰椎の軟部組織を傷つけ、腰痛に繋がります。
中腰の姿勢
中腰の姿勢は、腰に負担が掛かりやすい動作です。
内野手の守備やキャッチャーの練習は中腰の姿勢を維持したまま、機敏に動くことが求められます。
中腰の姿勢を続けることで、腰に疲労が蓄積し、急に動いたときにぎっくり腰を発症する場合もあります。
関節可動域と柔軟性の低下
ヒトの腰椎の動きは、屈曲(前に曲がる)、伸展(後ろに曲がる)、側屈(横に曲がる)、回旋(回る)の4種類があります。
野球において、腰椎の側屈と回旋の動く範囲(関節可動域)が狭いと、パフォーマンスが低下すると言われています。
この関節可動域が狭い状態(つまり、体が固い状態)で高速な回転が加わると、腰周りの筋肉に余計な力が入り、筋肉に痛みが生じます。
前屈み
前に屈む姿勢も腰に負担が掛かりやすい姿勢です。野球は転がってきたボールを捕球する動作で、前屈みになります。その際、腰に負担がかかり、腰痛を発症しやすくなります。
さらにボールを取ってから、体を素早く起こしてボールを投げるため、腰に掛かる負担も大きくなりやすいので、急激な腰痛に注意が必要です。
腰痛を予防する方法!
野球の練習は腰痛になりやすいので、日頃から腰痛のケアが必要です。
ここではハードな野球の練習にも耐えられる、おすすめの腰痛予防を4つ紹介します。
練習を休む
体を休めることで、練習で溜まった疲れを抜く効果があります。
休みなく練習を続けていると、筋肉に疲労が溜まり、腰痛を発症しやすくなります。
また疲労が溜まったまま練習をしても、集中力を欠いてしまい、練習に身が入りません。練習中の集中力の低下は、大きなケガに繋がる恐れもあるのです。
時には練習を休んで、体を休めることも必要と言えるでしょう。
アフターケアを行う
練習後に、体のケアをすることで体に溜まった疲労や熱を取り除くことができます。
アイシングをして体を冷やすことで炎症を抑えたり、筋肉の疲労を取り除く効果が期待できます。特に、腰に違和感や熱感がある方は、アイシングをしてケアをするようにしましょう。
アイシングのやり方
1.氷袋を用意します。ない場合は、ビニール袋をタオル用意します。
2.氷袋に水と氷を入れます。ビニール袋の場合は、水と氷をビニール袋に入れてタオルで包みます。
3.20分腰に当てて冷やします。
なお以下に該当する方は、アイシングを控えるようにしましょう。
1.心臓が悪い
2.手先、足先が冷たくなる(レイノー現象)
3.患部に傷がある場合
4.途中で具合が悪くなったり、痛みが強くなった
ベルトを使う
腰をサポートするベルトを着用することで、腰痛を和らげることができるでしょう。自分にあったベルトを選んで、腰痛予防に役立てましょう。
ベルト選びのポイント
1.ウエストにあったものを着ける
2.強度が調整できる
3.幅が広い、しっかりしたものを選ぶ
4.動いて邪魔にならないものを選ぶ
4つの点を踏まえたうえで、実際に着用して、フィットしたものを選ぶとよいでしょう。
ストレッチを行う
ストレッチを行うことで、練習で硬くなった筋肉を柔らかくすることができます。硬い筋肉のままでは、腰痛やけがの原因になるので、しっかりとほぐすようにしましょう。
腰痛予防におすすめなのは、以下の3つのストレッチです。詳しいストレッチ方法も解説するので、練習後に取り組んでみましょう。
ハムストリングス
1.膝を伸ばして座す
2.息を吐きながら体を前に倒す。腰を曲げないように注意しましょう。
3.そのまま10秒静止する。反対も同じように行う。
大腿四頭筋
1.片足を曲げて座る
2.ゆっくりと後ろに倒れる
3.そのまま10秒静止。反対も同じように行う。
腸腰筋
1.前後に幅を広く取り、片膝を曲げて床につく
2.前を向いたまま、前の膝を曲げる。腰を曲げないように注意する。
3.そのまま10秒。反対も同じように行う。
野球のポジションの違いによる腰痛
大学の野球選手を対象に、野球の腰痛に関するアンケートを実施した研究があります。ポジションで比較すると、投手より野手の方が痛み発生率が多かったと報告しており、これは野手が行う頻度の高いバッティングが影響していると推察されています。
さらに、痛みを誘発する動きは、バッティング(171例、29.4%)、走る(141例、24.2%)、ピッチング(140例、24.1%)、グラウンダーをキャッチする(87例、14.9%)、滑る(43例、7.4%)であったと報告されています。
つまり、野球のポジジョンにおいて、最も腰痛を発生しやすいのはバッティングであると言えます。
野球による腰痛の評価と対策
それでは、野球による腰痛の適切な評価と対策をお伝えします。
今すぐできる方法もお伝えしますので、実際にやってみましょう。
評価
適切な評価、それはやはり、病院で診察してもらうことです。
未治療のまま慢性化してしまい、手遅れにならないように注意が必要です。
プレーを撮影して動作を解析する方法もありますが、これは特殊な機械が必要であり、簡単に今すぐできる評価ではありません。
ここからは、今すぐできる評価を2つご紹介します。
片足挙げテスト
鏡の前で真っ直ぐ正面を向いて立ち、片足を挙げます。その際、骨盤を水平に保つことができるかどうかを評価します。これは主に中殿筋という骨盤周りの重要な筋肉の力を評価できます。骨盤がどちらかに傾く、またはグラグラして不安定な場合、骨盤周りの筋肉が不十分なので、腰痛に繋がるリスクがあります。
片足スクワット
先程ご紹介した片足挙げテストの状態で、スクワットをします。これは、動的な安定性を評価するテストで、中殿筋だけでなく足や体幹の筋肉がさらに必要です。片足挙げテストと同様、骨盤の傾きやバランスが不安定な場合は腰痛のリスクがあります。
対策
対策は、体幹、腰・骨盤周りの筋力強化、そして柔軟性の向上です。
野球による腰痛の原因は、体幹と腰の動的な安定性の低下や柔軟性低下であることを解説してきました。これらの強化こそが対策です。
野球による腰痛をお持ちの方に特化した、「基本的な運動から始めて野球の動きで終わる」という順序に則った効果的なアプローチ方法をご紹介します。
プログレッシブリハビリテーションアプローチ
手順1:腹横筋の強化(声での合図)
いわゆる一般的な腹筋トレーニングの方法です。
仰向けの状態で両膝を立て、両手を頭の後ろに回します。
ゆっくり5秒かけて上半身を持ち上げます。この時、息を吐きます。
ゆっくり5秒かけて元の状態に戻ります。この時、息を吸います。
この運動は1人で行うよりも、声かけ(1、2、3というように)の元で行うと、より効果を発揮できます。
手順2:仰向けや横向きで寝て行うトレーニング
レッグリフト
仰向けになり、両手を頭の後ろに回します。
両足を伸ばし揃えた状態で踵を床から浮かせます。
ブリッジ
ブリッジの体勢が難しい場合は、ハーフブリッジがオススメです。
仰向けで両膝を立て、手の平を床についた状態でお尻を持ち上げます。
ヒールスライド
仰向けになり、踵を床にスライドさせながら膝を曲げます。
この時、腰が反らないようにお腹を締めることが大切です。
両足交互に行います。
プランク(上と横)
両肘を床につけて、うつ伏せの状態になります。
この状態で腰を浮かせ、頭、腰、踵が一直線になるようにキープします。
同様に横向きも行います。
股関節内転筋・外転筋の運動
横向きに寝た状態で、膝を伸ばしたまま足を天井に向かって挙げ下ろしします。
左右ともに、ゆっくり挙げ下ろしを行いましょう。
手順3:抗重力下で行うトレーニング
片足・両足のスクワット
先程ご紹介した、今すぐできる評価の片足スクワットと同様です。
両足と片足の両方でスクワットを行います。
回転体幹運動
足は肩幅より広めに開き、少し膝を曲げて立ちます。
5kgのボールを体の近くで持ち、左右に動かします。
腹筋・腰・骨盤周りの筋肉を意識してリズムよく行います。
バランス練習
バランスボートの上に立ち、体幹を意識して体を安定させます。
余裕のある場合は、この状態で重りを持つことも効果的です。
手順4:野球特有のトレーニング
ピッチング、バッティングの技術練習
運動の回数は、10回×3セットを基本として行います。
腰の痛みがある場合、手順1から順番に行うことが大切です。
動作を達成することだけを意識せず、正しい動作で行うことが重要です。
まとめ
野球による腰痛の症状と原因、対策について解説してきました。
痛みが慢性化しないよう、適切な痛みの評価と対策を行うことが大切です。
お伝えさせて頂いた方法を今すぐ実践し、野球による腰痛を改善しましょう。
(参考文献)
1)Joseph G.Wasser,Jason L.Zaremski,Daniel C.Herman,and Herther K.Vincent.Prevalence and proposed mechanisms of chronic low back pain in baseball:partⅰ.Res Sports Med.2017;25(2):219-230
2) Joseph G.Wasser,Jason L.Zaremski,Daniel C.Herman,and Herther K.Assessment and rehabilitation of chronic low back pain in baseball:partⅡ. Res Sports Med.2017;25(2):231-243
3) Tomoki Oshikawa,Yasuhiro Morimoto,and Koji Kaneoka.Unilateral rotation in baseball fielder causes low back pain contralaral to the hitting side.The Journal of Medical Investigation Val.65 2018