椎間板ヘルニアは、腰痛の原因のうちでもっとも多いものだと言われています。しかし、腰の痛みを感じたとき、それが疲れや炎症からくるものなのか、椎間板ヘルニアの兆候なのか、判断するのは難しいですよね。
この記事では、椎間板ヘルニアの兆候となる症状と、重症化した場合の症状の進み方、治るまでの期間をまとめました。椎間板ヘルニアの兆候を見逃さず、適切に医師の診断を受けましょう。
目次
椎間板ヘルニアの兆候とは
椎間板ヘルニアには、兆候となる特徴的な症状があります。
腰の痛みだけでなく、次の症状があらわれたときは要注意です。
・下肢痛
・しびれ
下肢痛とは、おしりからふともも、ふくらはぎ、そして足先にかけて生じる痛みをいいます。神経が圧迫されるため、腰から離れたところにも痛みが現れます。
このため椎間板ヘルニアの痛みは、「おしりが痛い」「ふとももの裏が痛い」と表現されることがあります。
もうひとつ、椎間板ヘルニアのチェックポイントとして見逃せない兆候が、下肢のしびれです。これもやはり、おしりから足先にかけての部分に生じます。正座したあとのようなじんじんとしたしびれが持続します。
どちらの症状も、左右片側だけに生じることが多いようです。
椎間板ヘルニアの原因
椎間板の中にはゼリー状の髄核という組織があり、その周りを軟骨組織である線維輪が取り囲んでいます。椎間板において、この二重構造が腰にかかる圧力を分散させて衝撃を和らげる役割を果たしているのです。
しかし、加齢によって椎間板が老化すると髄核を取り囲む線維輪が弾力を失い、髄核の一部が外に飛び出しやすくなってしまいます。最終的にその飛び出した髄核が神経を圧迫し、腰痛の症状が現れます。
椎間板の老化は10代から始まるとされていますが、その老化の過程で急に重いものを持ち上げたり腰をひねったりすることがトリガーとなって椎間板ヘルニアを発症することが多いです。それだけでなく、長時間の悪い姿勢や喫煙なども椎間板ヘルニアの原因になると言われているので、心当たりのある方は気をつけてください。
椎間板ヘルニアの検査
椎間板ヘルニアの検査には、SLRテスト・FNSテストやレントゲン、MRI検査が一般的に用いられています。
SLRテストとFNSテストは、下肢を動かしたとき、椎間板ヘルニアに特徴的な痛みが出るかどうかを調べるものです。
SLRテスト
SLRテストは、下肢伸展挙上テストとも呼ばれます。腰椎の中でも下のほうにある、4番・5番腰椎にヘルニアがあるかどうかを調べるテストです。なお、4番・5番腰椎は、椎間板ヘルニアが起こりやすい部分です。
SLRテストでは、患者さんはあおむけに横たわり、足を伸ばしたまま、医師が上に持ち上げていきます。4番・5番腰椎に椎間板ヘルニアがある場合、持ち上げるとおしりやふとももの裏、ふくらはぎに痛みが出ます。重症になると、痛みでほとんど足が上がらない方もいます。
FNSテスト
FNSテストは、大腿神経伸展テストともいわれます。上のほうにある2番・3番腰椎にヘルニアがあると、特徴的な痛みが出ます。
患者さんはうつ伏せになり、膝を曲げた状態で医師が足首を持ち、股関節を伸ばすように引っ張ります。2番・3番腰椎に椎間板ヘルニアがある場合、ふとももに痛みが出ます。
腰痛の患者さんが、SLRテストやFNSテストで痛みを訴える場合、椎間板ヘルニアが疑われます。ただし、ヘルニアがあっても、必ずSLRテスト・FNSテストで痛みが出るとは限りません。高齢の患者さんでは、ヘルニアがあるにも関わらず、どちらのテストでも痛みを感じないこともあります。自宅で足を上げてみて、痛くないから大丈夫かな?と、自己判断してしまうのは禁物です。
より正確に椎間板ヘルニアの有無を検査するには、レントゲンやMRI検査を使います。レントゲンやMRI検査では、椎間板を撮影して、ヘルニアがあるかどうかをしっかりチェックできます。手術前など、椎間板の状態をより詳しく確認する必要がある場合には、CT検査が行われることもあります。
椎間板ヘルニアの症状はこう進行する
椎間板ヘルニアが進行すると、どんな症状が出るのでしょうか。段階を追ってまとめてみました。
① 腰痛
椎間板ヘルニアの初期症状は、腰痛です。はっきりした痛みでなく、違和感を覚える方もいます。
② 下肢痛・しびれ
椎間板ヘルニアが進行すると、下肢痛やしびれなど、明らかな兆候があらわれてきます。下肢痛の範囲も、おしりから足先へと、ヘルニアが重度になるにつれてだんだん広がっていきます。
③ 腰の曲げ伸ばしができなくなる
腰の痛みが特に強まる時期(急性期)には、からだをまっすぐ保ったり、いつもどおりに動かしたりすることが難しくなり、次のような症状が出ます。
・からだが片側に傾く
まっすぐ立っていることができず、どちらか一方に傾いた姿勢になります。
・腰を曲げられない
腰を前方に曲げる(前屈)ことができなくなります。また、腰の自然な反りがなくなり、からだが全体としてフラットな状態になります。
・腰を伸ばせない
症状が進行すると、反対に腰を伸ばすことができなくなり、からだが丸まった状態になります。
④ 筋力低下
椎間板ヘルニアがさらに進行すると、神経の圧迫による影響(神経症状)が出てきます。足をさわってもあまりさわられた感覚がしなくなったり、足に力が入らなくなったりします。足の筋力が低下すると、とっさに踏ん張ることができず転びやすくなるので、高齢の方は特にご注意ください。
⑤ 排泄障害
椎間板ヘルニアによる神経症状の中でも、重度のものが、膀胱直腸障害です。ヘルニアが腰椎の「馬尾(ばび)」と呼ばれる部分を圧迫すると、尿が出にくくなったり、逆に尿漏れを起こしたりして、排泄がうまくできなくなります。
なお、椎間板ヘルニアは、必ずしも段階を追って進行するとは限りません。兆候に気づく間もなく、突然強い痛みにおそわれたり、腰痛とともに足がしびれたりする場合もあります。ヘルニアの兆候を感じた場合には、すぐ医師の診断を受けるなど、早めの対応をこころがけてください。
椎間板ヘルニアが治るまでの期間
椎間板ヘルニアが生じても、全員が手術を受けなければならないわけではありません。椎間板ヘルニアは、腰椎の間にある椎間板の髄核が飛び出して神経を圧迫することが原因であると言われています。手術する場合はこの髄核を切除するわけですが、人のからだが持っている自然治癒力によって髄核が吸収されてしまい、自然に症状がなくなることも少なくありません。
これには、数週間から2~3ヶ月かかるといわれています。その間は薬で痛みをおさえ、できるだけ安静にして様子を見ます。痛みやしびれがおさまってきたら、徐々に通常の生活に復帰できます。
手術する場合には、手術方法にもよりますが、2泊~7泊程度の入院が必要です。手術したあと、あまり早く動き回ると再発の危険性が高くなりますので、じっくりリハビリを行う必要があります。かんたんな仕事なら手術後2週間~1ヶ月程度、力仕事の場合は1~2ヶ月程度で復帰できます。手術後2~3ヶ月程度で、スポーツもできるようになります。
椎間板ヘルニアの治療
椎間板ヘルニアの治療には、大きく分けて保存療法と手術療法があります。それぞれのメリットとデメリットがあるため、詳しく紹介していきます。
保存療法
椎間板ヘルニアの場合、程度にもよりますがまず保存療法が治療の第一選択になることが多いです。保存療法の場合は、痛みの原因となる神経の圧迫を直接取り除くわけではなく、どちらかというと瞬間的な痛みに対する対処療法となります。
痛みが強い時期は安静にした上で、まず消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などを使用する薬物療法や神経ブロック等で痛みを取り除きます。
痛みがある程度落ち着いたら、牽引やストレッチなどの理学療法やマッサージなどを行い、腰痛の軽減を図っていきます。その他にも温熱療法や低周波療法などの多くの治療方法がありますが、医師や療法士などの専門家と相談した上で自分の身体に合うものを選択するようにしてくださいね。
また、腰痛がひどい際にはコルセットを使用することも可能ですが、あまりに長期間着用してしまうと筋力低下の原因となるため気をつけましょう。
手術療法
症状が3カ月以上続く場合や痛みやしびれで日常生活に支障をきたす場合には、手術を検討します。また、椎間板ヘルニアによって排尿・排便障害がある場合には、48時間以内に緊急手術を受けるように厚生労働省のガイドラインにて推奨されているので、早めに医師に相談するようにしてください。
これらの症状を放っておくと、慢性的に悩まされるだけでなく後遺症が残ってしまう場合もあるため、出来るだけ早めに医師の診察を受けてくださいね。手術に対して恐怖感を覚える方も少なくないと思いますが、現在は内視鏡を使用した低侵襲の手術を受けることができる病院も増えています。
手術にはいくつか種類があり、それぞれの病院で可能な方法も限られてくると思うため医師と相談した上で手術方法を決定しましょう。ここでは、低侵襲な手術方法をいくつか紹介します。
MED(内視鏡下腰椎椎間板摘出術)
MEDは内視鏡下で椎間板ヘルニアを摘出する手術で、通常術後5〜6日で退院可能です。内視鏡下で行う手術であるため従来の切開法よりも傷跡が小さく、術後の回復が早いのが特徴。
FED(完全内視鏡下腰椎椎間板摘出術)
FEDは、MEDで使用するものよりもさらに小さな「微小内視鏡下」で椎間板ヘルニアを摘出する手術です。全身麻酔で行い最小限の筋肉の剥離ですむため回復が早く、多くの場合術後2〜3日で退院することができます。一方で、非常に高度な技術を要するために実施可能な医師が少ないというデメリットも。
PLDD(経皮的レーザー椎間板減圧術)
PLDDは椎間板に局所麻酔下で針を刺し、そこからレーザーを照射しヘルニア部を熱凝固させます。そうすることで神経を圧迫するヘルニアの圧が下がり、痛みが軽減します。この方法は傷跡が目立ちにくく、日帰り〜1泊2日程度で退院が可能というメリットがありますが、健康保険適用外の治療であるため注意が必要です。
椎間板ヘルニアの手術が必要な場合
先ほども述べたとおり、椎間板ヘルニアが見つかったとしても、即手術になるわけではありません。椎間板ヘルニアで手術が必要になる場合をまとめました。
1ヵ月ほど様子を見ても、症状が改善されないとき
椎間板ヘルニアが発症してから1ヶ月程度が経過しても症状がおさまらず、むしろ悪化するような場合には、自然治癒する見込みが少ないため、手術が必要となります。
すぐに仕事に戻らなければならない事情があるとき
自然に治癒するとはいっても、数週間から2~3ヶ月の間、仕事を休んで安静にしているのが困難な方は多いですよね。また、大事な会議がひかえているため休むわけにはいかないなど、人によって事情もあります。このように、できるだけ早く仕事に復帰したい場合に、手術が選択されることがあります。
神経麻痺や排泄障害があるとき
足の神経麻痺が著しい場合や排泄障害がある場合には、緊急手術が必要です。神経が圧迫され、深刻なダメージをこうむってしまうと、回復するのが難しくなるためです。人によっては後遺症が残ることがあるので要注意です。
特に排尿・排便障害は深刻です。早めに手術しないと深刻な排泄障害が残ってしまうため、尿が出にくい、または漏れに気づかないといった症状がある場合には、すぐに専門医を受診してください。
足の神経麻痺、それにともなう筋力低下も、進行すると回復までに時間がかかります。足に力が入らない、つま先立ちができない、足の指が動かせない、といった症状が見られた場合には、手術を検討することになります。両足でしっかり立てないと、日常生活を送るのも大変ですよね。
椎間板ヘルニアにならないために
椎間板ヘルニアじゃないと分かったとしても、油断しないでしっかり予防してください。予防するためには、常日頃から意識して行動することが重要です。では、どのようなことに気をつけて生活すれば良いのでしょうか?
椎間板ヘルニアにならないために、まず「適度な運動」「正しい食生活」「正しい姿勢」の3つを意識するようにしましょう。これらに気を付けるだけで、ある程度は予防することが可能です。
適度な運動
まず、椎間板ヘルニアを予防するために重要なものは適度な運動。筋肉が無いと、身体を動かす際に椎間板に過度な負担がかかってしまいます。この場合激しい運動は必要なく、ウォーキングや水泳などを無理の無い範囲で継続することが重要です。また、寝る前の少しの時間でも良いので、ストレッチを行うことも効果的であると言われています。
正しい食生活
食生活の見直しは、椎間板ヘルニアの予防に非常に効果的です。この場合、「食べない」という選択はおすすめしません。食べないことで体重は落ちるかもしれませんが、それは実は筋肉が落ちてしまっているのです。
筋肉が落ちると代謝も悪くなり、余計に痩せにくい身体が出来てしまいます。そのため、「食べない」のではなく栄養バランスを考えた食事をとるようにしてくださいね。
正しい姿勢
デスクワークが多く、パソコンやスマートフォンに向かう時間が多いという方もいるのではないでしょうか。知らず知らずの場合、長時間同じ姿勢を続けていたり前かがみになってしまったりする方もいらっしゃると思いますが、意識して姿勢を変えたり途中で立ち上がるなどして正しい姿勢を保つようにしましょうね。
まとめ
椎間板ヘルニアは、自然治癒することの多い疾患ではありますが、治癒には時間がかかり、悪化すると後遺症が残る危険性もあります。兆候を早めにキャッチして、医師の診断を受けてください。また治療中も、筋力の低下が進んでいたり、排尿・排便に支障が生じたりしていないか、チェックしておいてくださいね。
◆参考著書
近籐 泰児,腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症 正しい治療がわかる本,法研出版,2010年08月