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呼吸器や消化器という言葉は広く知れ渡っており、この言葉を聞いて身体のどこの臓器なのかイメージできる人は多いでしょう。

しかし運動器という言葉を聞いても、いまいちピンとこないのではないでしょうか。それもそのはずで、日本では2011年に日本整形外科学会を中心に「運動器の10年」日本委員会が設立され、今日までの間に「運動器」という言葉を定着する取り組みが行われてきました。しかしながらまだまだ聞きなれない方が多くいるのも現状です。
この「運動器」は私たちが自分の意志で動かすことのできる唯一の組織・臓器なのです。立つ、歩く、座る、物をつかんで食べ物を口に運ぶなど人が生活するのに欠かせない動作は、「運動器」の働きのおかげです。
私たちの生活の質をいつまでも自然なものにするため、この記事で「運動器」について正しく理解し、「運動器」を大切に使い続けることで「運動器の機能」を維持していきましょう。

運動器とは?

「運動器の働き」により、私たちは普段自由に体を動かすことができます。

「運動器」とは、骨・筋肉・軟骨・関節・靭帯・腱・神経などの組織がそれぞれ連携し、身体を支えたり動かしたりするために働いています。これらの組織は主にコラーゲンと呼ばれるたんぱく質で作られています。

どれか一つでも悪くなると、体はうまく動かなくなります。また、同時にいくつかの運動器が障害を受けることもあります。

「運動器」が障害されると、仕事や日常生活動作、スポーツ動作などが困難になり、私たちの生活の質が大きく低下します。そして私たちが歳を取ったとき、寝たきりになるリスクを高める大きな要因の一つでもあります。
「運動器」に関する症状としては、腰痛、肩こり、頚部痛、膝痛などで、先ほど説明した運動器の組織に、負担が加わり続けることで起こります。

運動器に多い障害

厚生労働省の調査によると、日本の国民がもっとも多く抱えている体の悩みには、運動器の障害が上位を占めています。

    • 頻度の高い自覚症状(人口1000人に対する有訴者率)

男性 1位:腰痛 / 2位:肩こり/ 3位:咳や痰

女性 1位:肩こり / 2位:腰痛 / 3位:手足の関節痛

そして要介護になる原因として運動器の障害が大きな要因となっています。

    • 要介護となる原因

1位:骨折・転倒・関節疾患・脊髄損傷 / 2位:認知症 / 3位:脳血管疾患/ 4位:老衰 / 5位: その他

厚生労働省2019年国民生活基礎調査より抜粋

ロコモティブシンドローム

突然ですが、「ロコモティブシンドローム」という言葉を聞いたことありますか?
疑問に思う女性のイラスト

ロコモティブシンドロームは将来介護が必要になるリスクを高める要因となっています。さきほど要介護となる原因について触れましたが、トップリスクであるのにも関わらず、あまり知れ渡っていないのです。
しかし最近では、高齢化社会により体の加齢性変化に伴う運動器の障害が問題となり「ロコモティブシンドローム」として取り上げられることが多くなってきました。

ロコモティブシンドロームとは

「運動器」の障害の中で、体を動かすための能力が低下したり衰えたりした状態を「ロコモティブシンドローム」あるいは「運動器症候群」といいます。
加齢に伴って運動器の機能が低下すると、動きの可動域が制限され、バランス能力や歩行能力が低下します。自然と生活範囲が狭くなり、生活の質の低下といった問題が起こります。特に足の筋力の低下や筋量の低下がロコモティブシンドロームの原因になることから、予防のため足の運動が推奨されています。

気づかないうちに進行するロコモティブシンドローム

私たちの生活は、ネット一つで仕事や勉強、ショッピングなど多くのことが外出せずに可能になった一方で身体を動かす機会が減ってしまいました。私たちが生活する環境が便利になればなるほど、筋肉の機能やバランスの能力が衰え、運動器の障害を増加させています。

自分は日常生活に支障はないと思っていても、実はロコモティブシンドロームになっていたり、すでに進行したりしている場合が多くあることを知っておきましょう。
そして高血圧糖尿病などの生活習慣病のある人は比較的若い頃からロコモティブシンドロームの原因となる病気にかかりやすいことも分かってきています。

ロコモティブシンドローム度テストで自分がロコモティブシンドロームかどうか簡単に診断することができます。
以下の画像にある質問に答えて自分の体の状態を知っておきましょう。

ロコモティブシンドローム度テスト

ロコモティブシンドロームは回復が可能??

もしロコモティブシンドロームになっていたとしても、心配したり不安になったりする必要はありません。きちんと適切な対処ができれば、不安や不自由なく再び「運動器の機能」が向上します。

ロコモティブシンドロームは、疾患や身体の機能、痛みの有無など様々な要因があるのが特徴です。そのため原因が何かを見極め、あなたの状態に合わせた対処が必要となってきます。

まずは「ロコモドクター」に相談してみましょう。日本整形外科学会所属の専門医の方々が正しい知識を持って対処方法を探します。

毎日たった3分の運動でロコモティブシンドロームを予防しよう!

      1. 片脚立ち
      2. スクワット
      3. ヒールレイズ

①片脚立ち

②スクワット

③ヒールレイズ

筋力トレーニングやバランス力を鍛えるトレーニングに加え、睡眠や栄養状態の改善を併せて行うことで生活習慣病の予防にもつながります。
運動習慣は体力に大きな影響を及ぼしていることは明らになっています。普段からの身体づくりや、転倒を予防・防止することで、私たちの生活の質と尊厳を維持することは可能です。
毎日の適度な運動習慣を身につけ「運動器」を大切に使い続けることで、「運動器」の機能を維持していきましょう。

著者情報

金岡 恒治(かねおか・こうじ)MD,PhD
金岡 恒治(かねおか・こうじ)MD,PhD

早稲田大学スポーツ科学学術院教授

日本整形外科学会専門医・脊椎脊髄病医

日本スポーツ協会認定スポーツドクター

日本水泳連盟理事・医事委員長 ほか

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