高齢になると長年使ってきた骨はすり減り、骨粗しょう症などが原因で容易に骨折しやすい状態です。「年を取ったら転んではいけない」といわれますが、骨折のリスクがとても高いことからいわれています。
転倒すると大体の方はしりもちをついたり、腰や背中を地面に打ち付けることが多く、この時に脊椎の骨、特に腰部の骨がぐしゃっと潰れてしまうことで急性の腰痛を発症し動けなくなってしまいます。これを腰椎圧迫骨折といいます。ここでは、腰椎圧迫骨折やそれに伴う急性腰痛について紹介していきたいと思います。
目次
1. 腰椎圧迫骨折とは?
腰椎圧迫骨折は、腰部の椎体(脊椎の一部)にしりもちなどの外部からの衝撃で圧力がかかることにより、生じる骨折のことをいいます。
2. 腰椎圧迫骨折の原因とは
腰椎圧迫骨折は、骨密度の低下つまり骨粗しょう症により、骨の強度が弱くなることで発症しやすくなります。特に女性の場合、加齢とともに骨密度が低下します。これは、女性ホルモンの分泌が減少することに加え、腸管からのカルシウムの吸収が低下・カルシウムの吸収を助けるビタミンDを生成する作用も衰えていくことなどの理由により起こります。また、若い頃の食生活や運動量などの生活習慣によっても変わるといわれています。これらの理由から加齢とともに骨粗しょう症は起こります。
また重度の骨粗しょう症になると、転倒などしていないにも関わらず、日常の些細な生活動作だけでも脊椎が変形してしまったり、容易に骨折しやすくなります。
また転倒でしりもちや背中を打つなど外部からの衝撃や無理な姿勢の持続により、椎体に大きな負担となってしまうため、腰椎圧迫骨折を起こす原因になります。
👉腰椎圧迫骨折を起こす3つの原因とその対処方法について |
3. 圧迫骨折の好発部位
背骨は椎骨(ついこつ)という骨が積み重なって出来ています。この椎骨が加齢による骨粗しょう症により骨が脆くなってしまい、脆くなった骨は荷重がかかることに耐えられなくなり、潰れてしまいます。この骨が潰れてしまうことを脊椎圧迫骨折といいます。
脊椎圧迫骨折は70歳以上になると約3割に起こっているといわれています。
荷重のかかりやすい胸椎下部から腰椎上部に好発します。
4. 腰椎圧迫骨折で起こる症状
腰痛
自然発生の腰椎圧迫骨折の場合、軽度の腰痛が出ることもありますが、無症状なことも多く気づかないうちに骨折していたということもあります。
しかし、転倒などによって起こる腰椎圧迫骨折の場合、動けないほどの腰痛が起こります。これは、自然発生の圧迫骨折のようにじわじわと荷重がかかり骨折するのではなく、急激に骨折するために強い腰痛が起こるのです。痛みが強すぎるため、自分では身動きが取れなくなってしまい、救急車で運ばれてくることが多いです。
多発性の圧迫骨折
一度圧迫骨折した場所を治すことは難しく、好発部位の他の場所の骨が骨折してしまうこともあります。圧迫骨折の場所が複数になると、背骨が丸くなる円背になります。よく腰が曲がった高齢者を見かけますが、圧迫骨折が複数の個所に起こっていることが原因です。
円背(えんぱい)が起こると身長が低くなってしまったり、前が見えにくくなったりします。円背になると多くの症状が起こりやすくなります。
立ち上がり時にバランスが取りにくくなったり、歩行困難にもなります。また、内臓的な問題も出現し、逆流性食道炎による胸焼けや呼吸機能に問題が起きることもあります。
さらに、圧迫骨折を起こした場所の骨がうまく固まらなかった場合に腰痛や背部痛が慢性化し残ることがあります。
しびれや痛み、麻痺
圧迫骨折が進行し、破裂骨折になってしまうことがあります。破裂骨折になり、破裂した骨の一部が神経を圧迫したり傷つけてしまうことで下肢のしびれや痛み、ひどい場合には麻痺を引き起こしてしまうこともあります。
5. 治療方法
保存的治療
圧迫骨折の治療方法は基本的には、「保存的治療」つまり痛みのコントロールと安静を保つことです。
安静を保つことで骨は自然とくっつき固定されます。無理に動いたりすることで変形に繋がってしまうため安静が第一です。変形を防ぐためにもコルセットの装着は必須です。
「動きにくい」や「締め付けられるのが嫌」とコルセットをしない高齢者も多いですが、円背(えんぱい)になったり、神経症状が出現したりしないように気をつける必要があります。
手術療法
十分な保存的治療(2週間から3か月程度)を行っても痛みが取れない場合、バルーン椎体形成術という手術を行う場合があります。バルーン椎体形成術は、簡単にいうと圧迫骨折で潰れてしまった椎体にバルーン(風船)を入れて膨らませ、専用の骨セメントを入れて安定させるという方法です。これにより骨折した部位を広げ、腰痛を緩和させます。
痛みを緩和させることによりQOLを高めます。
6. 圧迫骨折しないためには
圧迫骨折を起こさないためには、若い頃からの運動量や食生活、日光を浴びることがとても大切です。
運動
人間の体は合理的に作られています。使わなければ、委縮したり脆くなってしまいます。
人により運動量はそれぞれ違いますが、適度な運動を若い頃から行うことで筋肉や骨は劣化しにくくなります。また、運動により身のこなしも軽くなるため、転倒するリスクも運動しない方に比べると格段に減ります。腰痛体操としてストレッチや筋トレを行うようにしましょう。
食生活
食事においても気をつけなくてはいけません。骨折しないためには、皆さんもご存じのようにカルシウムを多く摂取することが大切です。しかし、カルシウムだけでは吸収されにくいため、カルシウムの吸収を高めるビタミンDやビタミンKを摂取することで、骨代謝を盛んにし骨形成を促してくれる働きがあります。これらの食品を多く摂取することが大切です。しかし、カルシウムが骨にはいいと聞くとそればかり摂取する方もいますが、カルシウムを摂り過ぎると高カルシウム血症という状態になってしまうため注意が必要です。
日光を浴びる
日焼けするのが嫌と特に若い女性はいいがちですが、日光はビタミンDを活性化する作用があるため、日光に当たることはとても重要です。しかし、長時間浴びればいいというものではなく、30分から1時間程度毎日外に出て日光を浴びれば十分といわれています。
転倒しないために
若いうちから食生活や運動に気をつけてなかったからダメというわけではありません。
高齢になってからでもこれらを気をつけることはとても大切です。
過度の運動は骨折の原因になりますが、転倒しないために足をしっかりあげて歩くことなどに気をつけ日々体を動かす努力が必要です。そうすることで、転倒リスクは下がり骨折しづらくなります。
体幹や足の筋力トレーニングを行い、転倒予防を図りましょう。
7. まとめ
高齢になると転倒し、圧迫骨折を引き起こし腰痛が治らず、安静にしないといけないため運動量が減り、さらに足腰が弱るという悪循環が引き起こります。知らないうちに骨折したり、転倒してからでは遅いため、日々気をつけておくことが重要です。
<参考文献>
・病気がみえる 運動器・整形外科 メディックメディア
・整形外科疾患ビジュアルブック 学研メディカル秀潤社
・これならわかる!整形外科の看護ケア ナツメ社
・救急整形外傷レジデントマニュアル 医学書院
<参考>
日本整形外科学会