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内臓疾患の可能性も?血尿と腰痛がある場合に考えられる内臓疾患とは
普段、腰痛があっても「いつものこと」と気にしない方も、突然血尿が出たら内臓疾患ではないかと不安になるはずです。
血尿と腰痛があらわれた場合に考えられる内臓疾患について解説していきます。
血尿とは?血尿がでるのはどういうとき?
血尿とは、「尿に赤血球が混入した状態」と定義づけられています。注1
尿に血が混じることを目で見て判断できる肉眼的血尿と、目で見て尿の色の変化はわからないものの尿検査にて血が混じっている状態を顕微鏡的血尿と呼びます。
血尿といっても、目で見てわかるものとそうでないものがあるということなのです。
血尿診断ガイドラインによると、「尿潜血検査などでわかる顕微鏡的血尿は、加齢とともに増加し 男性に比較して女性に多くみられる、顕微鏡的血尿がある場合に考えられる主な疾患としては 糸球体疾患、 尿路上皮がん、腎がん、前立腺がん、尿路結石症、膀胱炎、前立腺肥大症、腎動静脈奇形、腎嚢胞などがある」と記載されています。注2
糸球体疾患、 尿路上皮癌、腎癌、尿路結石症、膀胱炎、腎動静脈奇形、腎嚢胞、これらは、腎臓と尿が通る場所である尿管や膀胱などの病気です。
前立腺がんと前立腺肥大症は、男性特有の病気ですので今回は触れません。
これらの中で血尿と腰痛の両方がある女性に多いとされる代表的な内臓疾患について解説していきます。
血尿と腰痛がある女性に多い内臓疾患とは
血尿と腰痛の両方があるときに考えられる代表的な内臓疾患は、腎盂腎炎、尿路結石、腎がんです。
それぞれについて、詳しく解説します。
腎盂腎炎の症状と治療
腎盂腎炎の症状は、高熱、全身のだるさ、腰痛、背部痛、血尿などが代表的なものです。
尿路から感染して膀胱炎になり、膀胱炎から尿管、腎盂と感染が進んでいった場合には、膀胱炎の症状も伴います。
膀胱炎の症状とは、排尿時の痛み、血尿、残尿感、下腹部痛などです。
腎盂腎炎の原因は、尿路からの感染だけでなく、血液やリンパ管経由で発症することもあります。
女性は男性よりも尿道が短いため、膀胱炎などの尿路感染症にかかりやすいのです。
膀胱炎が進行すると腎盂腎炎になってしまうことがあります。
腎盂腎炎は、「急性」とつく場合が多いことからもわかるように、高熱や腰痛、背部痛など急激に激しい症状が出るのが特徴です。
血尿も、尿検査で判明する顕微鏡的血尿の場合もありますが、目で見て血尿とわかる肉眼的血尿のこともあります。
腎盂腎炎は、細菌感染によるものですので、治療には抗菌剤を使用します。
症状が軽い場合には、内服薬による治療でよいですが、症状が重い場合には、入院して点滴治療を行うこともあります。
点滴治療を行うことにより、水分で尿量を増やし、排尿することで細菌を体外に流す作用も期待できるのです。
また、抗菌剤は、中途半端に使うと耐性菌という抗菌剤が効かない菌ができてしまう恐れがありますので、医師から指示された期間、しっかりと飲み切らなければなりません。
尿の培養検査を行うと、感染した細菌の種類を特定できますので、なかなか改善しない場合には、培養検査の結果をもとに、抗菌剤の種類を変えることもあります。
きちんと治療すれば、1~2週間程度で回復することが多いです。
尿路結石の症状と治療
尿路結石の場合も、血尿と腰痛の両方が出現します。
尿路結石は男性の方が多いのではないか、と思われがちかもしれません。
しかし、文献によると「男性では 40 歳代がピークであるが,女性では 50 歳代以降と高齢者に多い」と記されています。注3
尿路結石の血尿は、目で見てもわかるくらいの血尿であることが多いです。
尿の色が真っ赤ではなくても、透明で黄色がかった尿ではなく、茶褐色になっていたら血尿の可能性があります。
そして、腰痛は鈍い痛みのこともあれば、突然激痛に襲われるようなこともあり、さまざまです。
治療としては、結石が小さい場合はたくさん水分を摂って運動をして自然に結石が排出されるのを待ちます。
結石が大きい場合には、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を実施して、結石を小さく砕き、対外に排出されやすくするのです。
レントゲンで透視しながら、結石の場所を確認して体の外から衝撃派を当てて破砕します。
体外衝撃波結石破砕術を実施しても、破砕できなかった場合は、内視鏡的手術を実施します。
内視鏡的手術には、経尿道的尿管結石砕石術(TUL)と経皮的腎砕石術(PNL)の2種類があります。
結石が15㎜以上の場合には、体外衝撃波結石破砕術や経皮的腎砕石術を併用し、20㎜以上の大きな結石の場合には経皮的腎砕石術を行うというような判断がなされることが多いです。注4
結石の大きさや種類により、適切な治療法が異なるため、特に大きな結石がある場合には専門医に診てもらうのがよいでしょう。
急性膀胱炎の症状と治療
急性膀胱炎は尿道から膀胱へ細菌が侵入し、膀胱内で細菌が増殖し炎症を引き起こします。
原因となる細菌の多くは大便中にある大腸菌とされています。そのほかブドウ球菌やセラチアなどの細菌が考えられます。
急性膀胱炎は女性に多いとされており、その理由として女性の尿道が男性よりも短いことや、肛門と尿道口が近いため男性よりも細菌が入りやすく膀胱炎になりやすいとされています。誘発要因としては、疲労やストレスで免疫力の低下や、性行為、長時間のトイレの我慢などがあり、血尿が生じる場合があります。
症状は血尿以外にも、排尿時の痛み、排尿の終わりごろに尿道に不快な痛みを感じる、高熱、腰痛、倦怠感などがあります。
治療は抗生剤を使って短期的に行います。症状が軽い場合は、水分を多めにとる、性交渉を控える、下腹部を温める、アルコール・フルーツジュース・カフェインの摂取を避ける・痛み止めや消炎鎮痛剤を服用するなど、家庭での治療もできます。
何かあった場合には、速やかに泌尿器科で診察を受けてください。
腎がんの症状と治療
腎臓のがんにも種類がありますが、最も多いのは「腎細胞がん」です。
ここでは腎細胞がんの症状と治療について解説します。
腎細胞がんでも、血尿と腰痛の両方の症状が現れます。
腎細胞がんは、やや男性に多い病気ですが、女性でも油断はできません。
腎細胞がんの初期は無症状です。
腎細胞がんが大きくなると、血尿と背部痛、腰痛、足のむくみ、食欲不振、腹痛などの症状が現れます。
症状が出現したときには、がんが大きくなっている可能性がありますので、なるべく早く受診する必要があるということはおわかりいただけるでしょう。
腎細胞がんに対する治療は、手術を選択するのが一般的です。
しかし、がんの大きさなど、さまざまな条件をクリアした場合には、手術ではない保存療法が選択されることがあります。
手術にも種類があります。
がんができているところだけを切除する方法と片方の腎臓をすべて摘出する方法があります。
手術以外には、動脈塞栓術と経皮的局所療法があります。
動脈塞栓術は、腎臓に血液を送っている動脈を塞ぎ、がん細胞に血液が行き届かないようにする治療法です。
手術前に実施されることもあります。
経皮的局所療法としては、経皮的凍結療法やラジオ波焼却術(RFA)の2つがあります。
経皮的凍結療法は、がんに針を刺し、アルゴンガスで細胞を凍結し死滅させる方法です。
ラジオ波焼却術は、がんに針を刺し、高周波電流を流し、その熱でがん細胞を焼き死滅させます。
エコー検査、CT、MRIなどで確認しながら前述の治療を行うことが多いです。
早期発見早期治療ができると手術しなくて済むこともありますので、早めに受診して検査を受けるのがお勧めです。
トイレを我慢せず、清潔を保つことが大切
上記で紹介した疾患の予防としては、長時間トイレを我慢しないことが重要です。排尿をすることで尿道の細菌の侵入を防ぐことができます。十分な尿量を排出するためには水分補給も大切です。さらに、尿意がなくてもトイレに座り排尿を試みる習慣をつけることも大切です。
女性の場合はナプキンやおりものシートをこまめに取り換えることや、シャワーや入浴で清潔を保つことも細菌を防ぐためには効果的です。
血尿と腰痛があるときには早めに泌尿器科を受診しましょう
これまで解説してきたように、女性で血尿と腰痛の両方の症状がある場合には、放置すると激しい症状が出てしまうような内臓疾患である可能性があります。
腰痛のある人が健康診断を受け尿潜血が出たり、肉眼的にも尿が茶褐色になっていたりと血尿が疑われる症状に気づいた場合には、なるべく早めに泌尿器科を受診し、詳しい検査を受けたほうがよいでしょう。
特に、閉経後の女性では尿路結石になりやすいという特徴がありますし、女性は尿道が短いため尿路感染症になりやすいという特徴があります。
腰痛イコール整形外科と思い込みがちですが、血尿がある場合には、まず泌尿器科を受診するのが適切です。
腰痛がある女性は、健康診断の結果や尿の色に気をつけて早期に病気を発見し対処できると激しい症状により苦しむことがなくなります。
心あたりのある方は、一度泌尿器科を受診してもよいでしょう。
いきなり受診するのが不安な方は、薬局やドラッグストアで尿潜血の検査用具が販売されていますので、試しに自分で検査してみてもよいかもしれません。
鮮やかな赤色や茶褐色の血尿がでたり、激しい腰痛や背部痛があるときには、詳しく検査ができる医療機関を受診するのが望ましいです。救急外来を受診してもかまいません。
しかし、そこまでの症状ではなく、タイミングに迷う場合には、クリニックなど、なるべく早く診察してもらえる医療機関にまず診てもらった方が安心です。クリニックなどでも尿検査、血液検査、超音波検査などは実施できることが多いですので、そういった検査を実施してもらえるか事前に電話やインターネットなどで確認してから受診するとよいでしょう。
注1、注2)血尿診断ガイドライン|日本腎臓学会(https://cdn.jsn.or.jp/jsn_new/iryou/free/kousei/pdf/JJN7-50.pdf)
注3)宮澤克人編(2018)『尿路結石ハンドブック』中外医学社
注4)宮澤克人編(2013)『尿路結石症診療ガイドライン』日本内科学会雑誌
三鴨 肇ら(2005)「尿路結石による腎盂腎炎で敗血症性ショックをきたした1救命例」日本農村医学会学術総会抄録集