頸椎ヘルニアなどの場合に行われる「頸椎前方除圧固定術」。このほか、頚椎症や頚部の後縦靭帯骨化症などが適応です。
首の手術なので、医師から説明を受けたとしても不安や心配が払拭(ふっしょく)できないという方もいるのではないでしょうか。
手術に迷いを感じていることもあるでしょう。今回は、実際に手術室看護師として頸椎前方固定術の手術に携わっている筆者が、手術について簡単にまとめました。
目次
代表的な適応疾患は「頸椎ヘルニア」
頸椎ヘルニアは、よく頚髄症と混同されることがありますが、骨の変性により起こる後者に対し、頸椎椎間板の老化が原因となっています。
椎間板は年齢を重ねるとともに椎間板内の水分が減少して、薄くスカスカとした状態になります。
早ければ10代後半に退行変性は始まります。椎間板の加齢性変化にともない、その線維輪断裂部から髄核が脱出すると頸椎ヘルニアと呼ばれます。
腰椎のヘルニアとは異なり、頸椎の場合には軟骨終板をともない脱出することが多いといわれています。
通常、後方から後方側面より脱出し、神経根を圧迫することで症状が出現します。7つある頸椎のうち、中位から下位の頸椎によく見られます。
こちらも参照してください
なぜ痛い?頸椎ヘルニアの痛みから解放されるための方法をご紹介 | 腰痛の情報サイト-腰痛メディア|腰痛改善に役立つ情報サイト (yotsu-doctor.zenplace.co.jp)
頸椎前方除圧固定術とは
頸椎ヘルニアなどで行われる首の手術の代表とし「頸椎前方除圧固定術」があります。
一昔前までは、ほとんど後方侵入法がとられてきました。日本では後方除圧固定術が開発改良されてきた背景と、前方固定術をすることで起こる合併症に対する懸念から、最近まではあまり好まれない方法でした。
しかし近年、積極的に前方除圧固定術をしてきた欧米諸国の技術が流入し、日本でも積極的に行われるようになりました。
頸椎前方除圧固定術のメリット
前方固定の最大のデメリットは頚部そのものに対する侵襲が少ない事です。とくに切開される筋肉の量は後方固定に比べて劇的に少なくなっています。
つまり、術後の早期回復が期待できることにつながります。筋肉の切開量が少ないということは、当然術後の痛みも少なくなります。その分、理学療法や筋トレやストレッチなどの運動療法リハビリに集中できますので、機能の回復が早まることも期待できます。
また、実際に頸椎疾患において神経を圧迫しているのが前方よりのことが多いので、術者は直接圧迫されている状態を目視で確認できます。
(顕微鏡を使用して確認する場合が多い)圧迫している因子を直接確認・除去することで頸椎の安定化を図れます。
頸椎前方除圧固定術のデメリット
対してデメリットといえば、術中術後の合併症が重篤になりやすい事です。術野の視野確保のためにおこなう鈎引きや手術操作により、重要な機関に損傷を与える可能性が、後方固定よりも高くなります。
頸椎前方除圧固定術の目的とは
頸椎除圧固定術の、一番の目的は、脊髄や神経根の圧迫を解除して神経症状の悪化を防止することです。
圧迫を解除したのち、その部位をさらに圧迫が加わらないよう固定します。症状が出てから、手術までの対応が早ければ、それまで受けていた神経が回復しやすい環境になります。
手術の適応は以下です。
・ヘルニアにより頸椎や神経組織が損傷を受けている
・痛みやしびれが慢性化し、苦痛が強く生じている場合
・四肢の知覚鈍麻や運動障害によって日常生活に不自由が生じている場合
・これらの症状が手術以外で改善されないと判断された場合
頸椎前方除圧固定術の実際
手術は基本的には全身麻酔で行います。ほかの脊椎手術に代表されるようなうつぶせではなく、あおむけでおこないます。
固定する椎間の数により手術時間は異なりますが、1椎間だと1時間から2時間程度です。固定する椎間が増えるごとに+1時間くらいを見ておくとよいでしょう。
この他に麻酔のかかる時間、覚める時間が追加でかかります。
頸椎前方除圧固定術の侵入法
前方進入法の場合は、後方侵入法と違いあおむけで手術が行われるので、うつぶせによる術中体位による損傷のリスクも低減します。
手術は多くのケースで左の首側方から侵入します。(医師の好みによりこの限りではない)皮膚の切開部分は横切開ですが、その下の筋層からは縦切開に変わります。
この時、術者が頸椎の前方までにアプローチするために、手術助手は筋鈎と呼ばれる機械で、術野に干渉する組織を圧排操作します。
このときに機関や食道、咽頭神経、反回神経などを排除するので、長時間の圧排操作によりむくみが生じる、手術操作に巻き込まれ、組織に損傷を起こすなどが原因で、手術後合併症が生じます。執刀医も、手術助手ももっとも神経を使う部分です。
頸椎前方除圧固定術の「除圧操作」
無事に目的の位置まで侵入したら、次に行うのは「除圧」と呼ばれる、実際に神経を圧迫している要因を取り除く処置に入ります。
この要因は、脱出したヘルニアや骨棘と呼ばれる骨の変形が要因のことが多いのです。頸椎は脊椎の中でも骨の大きさは小さいので、目視で確認すると、小さすぎて見落としてしまうこともあります。
ここで執刀医は顕微鏡やルーペを使い、組織を拡大して確認し、確実に除圧をおこないます。
頸椎前方除圧固定術の「固定操作」
除圧をした頸椎はそのままの状態だと、不安定になるので、開いた空間、椎体と椎体の間に自家骨や人工骨、ケージと呼ばれる固定用の器具を用いて上下の椎体を安定させます。
参考:Divergence – Cervical | メドトロニック (medtronic.com)
このケージと呼ばれる中央の部分に空いたスペースがあり、この部分に自家骨や人工骨を入れ、その後椎体間で骨癒合し、安定性が高まります。さらにケージから上下の椎体にスクリューで固定することで、安定性を高めます。
その安定性や手術椎間により、さらに安定性を高めるために、ケージなどで固定した椎体同士をプレートと呼ばれる金属で固定する場合もあります。
参考:Zevo – Cervical | メドトロニック (medtronic.com) →参考資料
その後、手術した場所をきれいにし、血液がたまらないようにする吸引用の管を挿入し、縫合して手術は終了します。
頸椎前方除圧固定術の知っておきたい術後合併症
どんなに注意していても、手術を進めるうえで、食道や気管の圧排操作が必要です。このことにより、実際には手術後、わりと多くの患者さんに合併症がおこります。
実際に、飲み込みが悪くなる嚥下障害や、声がかれる嗄声がおこります。ほとんどの場合が一時的な症状で、これは圧排操作による一時的な組織のむくみが原因といわれています。
このむくみが取れることで症状が回復するので、そう長くは続きません。
もうひとつ、術後早期に気を付けたい合併症は「血腫」と呼ばれる症状です。
血腫予防のためにあらかじめ血抜きの管は入れておくのですが、これがうまく機能しなかったり、思った以上に内出血がおこったり、吸引が間に合わない場合などに起こります。
その場合、両手がしびれたり感覚が鈍くなったりしますので、その時は我慢せず、すぐに担当看護師に申し出るようにしましょう。
最後に
今回は頸椎前方除圧固定術についてまとめました。私が看護師として働いていて、実際に患者さんと話してみると、意外にも実際の手術法について尋ねられる機会があります。
自分が何をされるのか、医師に説明されても、医師が相手だと聞きにくいこともあるのでしょう。そんなときに知っておきたい情報を抜粋しています。
▼参考書籍
医学書院標準整形外科学第10版
メディカ出版脊椎手術丸っと理解 治療とケア
メディカ出版まるごと脊椎これ1冊
参考:脊椎手術.COM