スポーツ障害の一つとして挙げられることの多い棘突起間インピンジメント障害。あまり聞き慣れない疾患名にピンとこない人も多いと思いますが、スポーツの場面など誰しも起こりうる可能性のある疾患です。棘突起間インピンジメント障害の主な症状は腰痛で、この腰痛の多くは腰を反らす動作を繰り返すアスリートに生じます。
今回は棘突起間インピンジメント障害の病態と原因、また自宅でもできる簡単な対処法についていくつか紹介したいと思います。
目次
棘突起間インピンジメント障害とは
脊椎、つまり背骨の骨は後方がでっぱった形状をしています。この背骨の後方部分は医学的に「棘突起」と呼ばれています。棘突起同士は通常ぶつからないようにできています。
しかし何らかの原因により棘突起同士がぶつかり合ったり、棘突起と棘突起の間が狭くなることでその周辺組織が挟み込まれたり圧迫を受けることがあります。この骨のぶつかり合いのことを「インピンジメント」と言います。
(インピンジメント障害は背骨の棘突起以外でも、肩や足関節など体の様々な部位で起こります。)
棘突起間インピンジメント障害の原因
筋肉のアンバランスや不良姿勢、繰り返される過度の運動、または先天的つまり生まれつきの骨の形状の違いなどにより棘突起間インピンジメント障害が起こります。スポーツでは特にラケットを使って左右非対称な動きの出るオーバーヘッドスポーツのテニスやバドミントン、左右非対称に足を使うサッカーなどが原因となり棘突起間インピンジメント障害になることが多いです。
棘突起間インピンジメント症候群とは?原因や症状について解説!
棘突起間インピンジメント障害の症状
棘突起間インピンジメント障害は、腰椎が過度に後ろにそりかえってしまうことで痛みが発生します。
骨同士がぶつかればもちろん痛みがでます。また、棘突起周辺の組織も狭いスペースで挟み込まれたり、圧迫されることで組織に炎症が起こり痛みがでます。その結果、腰痛を訴えることが多いです。
棘突起間インピンジメント障害のチェック方法
棘突起は背骨の後方部分にあたります。そのため腰をまっすぐ後ろにそらせた時に腰の真ん中に痛みが出る場合は棘突起間インピンジメント障害を疑います。捻った時や、斜めにそらせたときに痛みが出る場合は他の疾患も合わせて精査する必要があります。
※その他の組織が原因でも腰の真ん中に痛みが出ることもあるためかならず必ずとはいえない
棘突起間インピンジメント障害と似た障害
腰痛の原因はさまざまで、スポーツによって起こる腰痛を整形外科的に判断すると棘突起間インピンジメント障害にも椎間板ヘルニアや腰椎分離症、仙腸関節障害、筋筋膜性腰痛などが挙げられます。
障害の原因によって対処、改善方法が異なるので、腰痛の原因が分からない場合は早めに医師の診断を受けましょう。
棘突起間インピンジメント障害の改善方法
棘突起間インピンジメント障害の改善方法は、なぜ腰椎が過度に反らされてしまっているのかという原因を追求することが大切です。腰椎が反らされてしまっている原因を改善できれば、棘突起間のぶつかり合いもなくなり、腰痛も改善していきます。
腰椎の反り返りが強制される原因の可能性として、胸椎つまり背中の後ろの背骨の関節可動域の低下、骨盤、股関節周囲の筋の柔軟性の低下、体幹筋群の不安定性が挙げられます。
そのため棘突起間インピンジメント障害の症状としては腰痛が出ていると思いますが、直接痛みのある腰部にアプローチするのではなく、胸の後方の背骨や、骨盤周囲からアプローチしていきます。
胸椎、胸郭の可動性
背骨は首の後ろから背中の後ろ、腰の後ろにかけて、頭蓋骨から骨盤までをつなぐように成り立っています。通常背骨は滑らかなSカーブを描いていますが、筋肉の柔軟性の低下や、関節可動域の低下によりそのS字カーブがゆがんでしまったり、カーブが少なくなったり、また過度になったりします。
この背骨のカーブは運動連鎖により他を支えながらバランスをとっています。つまり腰椎が過度に反らされてしまった場合、その上の胸椎が代償的にS字カーブを強めて姿勢を保持します。反対に、胸椎の関節可動域が低下している場合、腰椎が過度に反らされてしまったり、カーブが歪んでしまう場合があります。
胸椎、胸郭の可動性を改善することで、腰椎にかかるストレスも軽減できます。
胸椎胸郭の可動性の向上ストレッチ
1. 丸めたバスタオルを枕と同じ向きで胸の下にひいた状態で、ひざを曲げて仰向けで寝ます。(このとき腰が反り過ぎないように注意しましょう。)
2. 胸が反らされているのを意識しながら、ゆっくりと両手をバンザイします。
3. 大きく息を吸って、胸を膨らませます。
4. ゆっくりと息を吐きながら、手を下ろします。
5. 同じ動作を3回繰り返します。
※腰に痛みが出る場合はストレッチが正しく行えていないので、中止してください。
腸腰筋の柔軟性の改善
腸腰筋は腰椎から大腿骨(足の付け根)にかけて走行しています。この筋肉が強く硬いと、腰椎は反らされてしまいます。腸腰筋をストレッチすることで、腰椎が過度に伸展されるのを予防、改善できます。
腸腰筋ストレッチ
1. 片ひざ立ちの状態で、前に出している足におへそを寄せていくイメージで体重をかけていきます。
2. ひざをついている方の股関節の前側を伸ばす意識で、深呼吸をしながらゆっくりと10秒数えます。
3. ゆっくりと元の姿勢に戻り、反対の足も同じようにストレッチしていきます。
※腰に痛みが出る場合は正しく行えていないので、中止してください。
※力を入れている間は息を止めないように注意しましょう。
コアスタビリティ(体幹深部筋)の強化
コアスタビリティとは体幹と腰周囲の体の深い部分の安定性を指します。コアスタビリティが強化されると、腰椎と骨盤がしっかりと支えられるため棘突起間インピンジメント障害による腰痛症状がでにくくなるだけでなく、動作のパフォーマンスが向上します。
コアスタビリティ(体幹深部筋)の強化方法
1. ひざを曲げた状態で仰向けで寝ます。
2. 体の力をしっかりと抜いて、腰と床の間に隙間ができないようにします。
3. 体を丸めて骨盤を後ろに傾けるイメージで、おなかに力を入れて腰の後ろを床に押し付けます。
4. ゆっくりと5秒数えて、楽にします。
5. 同じ動作を10回繰り返します。
※力を入れている間は息を止めないように注意しましょう。
ストレッチや筋力強化には上記の方法以外にもさまざまな方法があります。うまくできない場合は1つの方法に固執するのではなく、他の方法でチャレンジしてみるといいでしょう。また、すでに腰痛が出ている場合は、アプローチ方法によっては症状を悪化させてしまう可能性もあります。腰痛がある場合は特に慎重に取り組みましょう。
おわりに
腰痛の原因は棘突起間インピンジメント障害を含めさまざまな原因があります。腰痛は初期対応が非常に大切で、誤った対処法を継続してしまったり、スポーツシーンではトレーニング内容などの見直しがされないまま運動を継続してしまい、症状が長引いたり、ひどくなったりするケースも少なくありません。
腰痛は正しい早期対応ができていれば、その分早く改善し、予後も良好です。腰痛の原因や対処法がはっきりと分からない場合は、自分で判断するのではなく、早めの段階で医師の診断を受けておくといいでしょう。
参考文献