腰部脊柱管狭窄症は、高齢者に多く見られる脊椎疾患です。脊柱管と呼ばれる脊椎内のスペースが狭くなることで、中を走行している神経が圧迫され諸症状を引き起こします。少子高齢化が叫ばれる日本において、ますます重要性が増している疾患なのです。
腰部脊柱管狭窄症の治療は保存的治療が優先され、効果がない場合に手術治療が検討されます。従来の手術治療の場合、傷が大きく治癒にも時間がかかるため、高齢者には大きな負担になっていました。
しかし近年では、内視鏡を用いた低侵襲手術が普及しつつあり、高齢者であっても比較的安全に手術が受けられる体制が整ってきました。
今回の記事では、腰部脊柱管狭窄症の概要と手術治療について解説しています。特に、内視鏡を用いた低侵襲手術について詳しく説明しているので、ご自身やご家族が脊柱菅狭窄症にお悩みの方は是非参考にして下さい。
目次
腰部脊柱管狭窄症とは
椎骨には「椎孔」と呼ばれる孔があります。いくつもの椎骨が連結することで椎孔も重なり、長いトンネルを形成します。このトンネルが「脊柱管」で、この中には脊髄や馬尾という神経の集合体が走行しています。
「腰部脊柱管狭窄症」は何かしらの原因で脊柱管が狭くなった結果、馬尾神経や脊髄神経根が圧迫された状態です。神経が圧迫を受けることで、「腰痛」「足の痛み・しびれ」「筋力低下」「排尿障害」が引き起こされます。
また、「間欠性跛行」と呼ばれる特徴的な歩行障害も見られます。間欠性跛行は歩くことで足の痛みが生じ、連続して長距離を歩けない症状です。連続しては歩けなくても、前屈姿勢をとることで速やかに痛みが消え、また歩行を再開できる特徴があります。この間欠性跛行は脊柱管狭窄症に特有の症状なので、診断の鑑別に大いに役立ちます。
腰部脊柱管狭窄症の頻度と原因
腰部脊柱管狭窄症の原因は複数あるが、特にメジャーのが「加齢」です。年齢を重ねると、椎間板が突出したり、骨棘(軟骨や椎間板が増殖、硬化して棘のようになったもの)が形成されたり、靭帯が肥厚したりすることで脊柱管内のスペースが狭くなります。脊柱管が狭窄すると神経が圧迫され、腰部脊柱管狭窄症を発症するのです。
つまり、腰部脊柱管狭窄症の最大の原因は加齢ということですが、これは疫学調査でも証明されいます。日本における腰部脊柱管狭窄症患者の発生頻度は、40~49歳では1.7~2.2%であるのに対し、70~79 歳では 10.3~11.2%と報告されています。(Yabuki S et al:Prevalence of lumbar spinal stenosis,using the diagnostic support tool, and correlated
factors in Japan:a population‒based study より)高齢になるほど、脊柱菅狭窄症を発症しやすいのです。
ご存知のように、現在の日本は超高齢社会を迎えています。そのため、高齢者の増加に伴い、今後も腰部脊柱管狭窄症を患う方も増加することが懸念されているのです。
腰部脊柱管狭窄症の治療
腰部脊柱管狭窄症の治療は保存的治療を先行させ、効果に乏しい場合は手術治療を検討します。
保存的治療では、鎮痛薬による除痛治療、コルセットによる装具治療、リハビリテーション、神経ブロックなどが治療の中心になります。これらを複合的に施術することで症状が改善すればよいのですが、残念ながら奏功しないケースもあります。
特に、「腰椎すべり症」や「側弯症」を合併している方、「馬尾症候群(馬尾神経の圧迫による、排尿排便の障害や陰部の知覚低下)」を併発している方は、保存的治療では効果が乏しいと報告されています。
保存的治療が奏功しなければ、手術治療が必要です。従来の手術治療は、傷を大きく開け骨を削って脊柱管のスペースを広げる手技が一般的でした。そのため、高齢者には侵襲が大きいデメリットがあったのです。
腰部脊柱管狭窄症の低侵襲手術
しかし近年では、内視鏡を用いた低侵襲手術が普及してきました。正式名称を「内視鏡下腰椎椎弓切除術」といいます。
内視鏡下腰椎椎弓切除術では、腰部を2~3cmほど切開し、そこから内視鏡を挿入して椎弓を切除します。そのため、皮膚の傷が小さいだけでなく、傍脊柱筋(腰椎を安定させる筋肉群)へのダメージも少ないので、手術後の回復が早いメリットがあります。また、手術後の感染が少なく、入院期間も短い特徴もあります。(Oichi T et al:In‒hospital complication rate following microendoscopic versus open lumbar laminectomy:a propensity score‒matched analysis より)
高齢者に発症しやすい腰部脊柱管狭窄症にとって、低侵襲手術は特に有用な手術方法と考えられます、
まとめ:腰部脊柱管狭窄症は高齢者に多い。内視鏡手術で負担を軽減
少子高齢化が進む日本において、腰部脊柱管狭窄症の発生率は増加することが懸念されます。保存的治療が奏功すればよいのですが、効果に乏しい場合は手術治療も検討しなくてはいけません。
内視鏡を用いた低侵襲手術であれば、患者への負担を最小限にしつつ、従来手術と同等の効果を期待できます。今後のますますの発展が予想される分野ですね。
【参考文献】
中川 幸洋「内視鏡下後方除圧術」 臨床整形外科 46巻6号