腰痛に対して行うことといえば「ストレッチ」「筋肉トレーニング」というイメージがあるのではないでしょうか。これらの考え方は西洋医学にあたります。
しかし、西洋医学にもよく似た言葉で東洋医学というものがあります。東洋医学の考え方で腰痛をアプローチすると身体全体に良い影響が出てきます。
今回は腰痛を東洋医学の視点から詳しく解説します。
目次
西洋医学と東洋医学の差ってなに?
医学には大きく西洋医学と東洋医学に分けられます。この2つの名前は多くの人は聞いたことがあるのではないでしょうか。
しかし、この2つの医学がどのように違うのかはあまり知られていません。ここでは西洋医学と東洋医学がそれぞれ腰痛をどのように考えているのかを解説します。
西洋医学とは
西洋医学は現在では多くの国で主流となっており、簡単にまとめると身体の悪い場所に対して投薬や手術などの方法で直接的にアプローチを行います。
そのため、西洋医学では腰痛を「筋筋膜性腰痛」「椎間関節・仙腸関節性腰痛」「腰椎椎間板ヘルニア」などのように分類してストレッチや筋肉トレーニングを中心に行い腰痛の軽減に努めます。
実は西洋医学の考え方では中世ごろまでは「病気は神からの贈り物である」という考え方だったため、一般的に積極的に治療は行われませんでした。
しかし、ルネサンス時代以降になると人体の解剖が積極的に行われ始めるとともに、多くの種類の薬が開発されるなど急速に医学の発展がおこりました。
その後も科学の進化とともに西洋医学も発展し、現在では最先端の医療機器を使用して診察や治療を行えるようになっています。
東洋医学とは
一方東洋医学の考え方は腰という「局所」ではなく「全身」がどのような状態で腰痛が生じているのかを考えます。
東洋医学の「全身」という考え方は筋肉や関節だけではなく、内臓の状態やメンタルのことなど身体の内側も含みます。
東洋医学は古代中国で生まれた考え方で、約2000年の歴史を持っています。この東洋医学の考え方は7世紀頃に遣隋使や遣唐使によって日本にも伝わりました。
そしてその後、鎖国などをきっかけに日本独自の東洋医学の考え方ができたといわれています。
西洋医学と東洋医学の違いって?
上記で解説したように、腰痛において西洋医学の考え方では身体の悪い部分に直接アプローチを行うため、腰痛の場合は腰を中心にアプローチを行います。
これに対して東洋医学の考え方は腰などの不調を内側から根本的にアプローチします。腰痛に対して具体的な方法としては鍼灸やあん摩、漢方などです。
また東洋医学は腰痛などの病気を未然に防ぐために、普段から疲れを溜めず抵抗力を付けることが重要であるという考え方です。
西洋医学と東洋医学を比べる有名な言葉で、西洋医学は「木(腰痛などの症状)を見て森(全身)を見ず」、東洋医学は「森(全身)を見て木(腰痛などの症状)を治す」という言葉があります。
西洋医学と東洋医学を比較してどちらの方が優れているということはありません。西洋医学は短時間で病気を治療できるという良さがあり、東洋医学は時間がかかるものの、身体に負担がかかりにくいなどというようにどちらも良い特徴があります。
東洋医学においての腰痛の捉え方
ここまで西洋医学と東洋医学の差について詳しく解説しました。ここでは実際に東洋医学において腰痛をどのように捉えたらよいのか下記の4つの内容について詳しく解説します。
・気滞血瘀
・寒湿
・湿熱
・腎虚
気滞血瘀
気滞血瘀は「きたいけつお」と読み、「気」の巡りが悪く停滞している状態をさします。
気滞血瘀の場合は自律神経系のコントロールができなくため感情が不安定な傾向があります。そのため、精神的なストレスでイライラ、不安や憂鬱感を感じてしまいます。
「気」の巡りが悪くなると同時に「血」の循環も悪くなり、「瘀血」という悪い血の塊のようなイメージが作られて腰痛を生じさせます。
気滞血瘀が原因で腰痛が生じる場合、下記のような症状があります。
・同じ場所に刺すような腰痛を感じてしまう
・触ると腰痛が強くなる
寒湿
寒湿は「かんしつ」と読まれており、寒邪(かんじゃ)と湿邪(しつじゃ)が気血というエネルギーの流れる通路である経絡を詰まらせて腰痛を生じさせます。
寒邪とは冬の寒さやクーラーの当たり過ぎによって冷えてしまう状態です。症状としては寒気、頭痛、首肩の凝り痛み、腹痛や下痢などがあります。
一方で湿邪は梅雨時の湿気や通気性の悪い環境での生活をさします。症状としては身体ダルさ、頭痛、むくみ、食欲の低下、吐気、下痢などがあります。
湿邪による症状は雨の日や台風の接近によって悪くなりやすい傾向があり、
・冷えるような痛み
・横などになって休んでも痛みが減らない
といった症状が起こります。
温熱
温熱は湿邪と熱邪(ねつじゃ)が原因で「気」が通らなくなり腰痛を生じます。寒湿の場合は経絡を詰まらせて腰痛を生じさせていましたが、温熱の場合は腰の筋肉や経絡が弛緩した結果、「気」が通らなくなり腰痛を生じさせます。
熱邪とは炎症や熱感が原因で症状が引きおこされます。熱邪としてよくみられる症状が風邪をひいたときの喉の腫れや痛みなどです。
その他の症状としてはイライラ感、落ち着きのなさ、寝つきの悪さなどがあります。
熱邪が原因で腰痛が生じる場合は下記のような症状があります。
・じんわりと腰全体に広がる熱感と腰痛
・腰痛が運動を行うと軽減する
腎虚
東洋医学の考え方では腰痛、特に慢性的な腰痛は「腎」が関わっているとされています。
この腎は人の成長・発育・生殖などに関係しており、腰は「腎の府(ふ)」といわれています。「府」とは居場所という意味があるため、直訳すると「腰は腎の居場所」と言い換えることができます。
この腎の機能が低下したり、不足したりしている状態を「腎虚」と呼ばれ、腰に栄養が行き渡らなくなるため腰痛が発症します。
代表的な症状としては「尿が近い、または出にくい」「「足腰に力が入らない」「精力減退」などがあります。
また腎虚が原因で腰痛が生じる場合は下記のような症状があります。
・手で押さえると腰痛がマシになる
・我慢できる程度の腰痛が出たり消えたりする
腎虚を理解して改善しよう
上記で東洋医学においての腰痛の捉え方として4つの考え方を解説しましたが、その中でも腰痛に対して「腎虚」を改善させることが重要です。
腎虚のタイプは下記のように2つに分けることができます
冷えるタイプ
ほてるタイプ
冷えるタイプの腎虚
冷えるタイプの腎虚を「陽虚」と呼びます。この陽虚は生活習慣と大きく関係しており、寒がりにも関わらず夏の冷房の中で薄着、冷たいものばかり食べてしまうなどが積み重なって症状が生じます。
このタイプは生活習慣の改善が最も重要ですが、それ以外にも下記の場所のツボを押すことが効果的です。
・腎兪(じんゆ):おへその裏側でウエストのくびれライン、背骨から指2本くらい外側
・関元(かんげん):おへそから指4本分下
・太谿(たいけい):内くるぶしのすぐ後ろに位置しており、アキレス腱との間のくぼみ
ほてるタイプの腎虚
ほてるタイプの腎虚を「陰虚」と呼びます。やせ型で食べても太らない人、更年期が近い40歳以降、もともとうるおい不足の体質傾向の人に多くみられます。
「陰虚」の場合は下記の場所のツボを押すことが効果的です。
・金津(きんしん)、玉液(ぎょくえき):舌の裏側の静脈にあるツボ
・湧泉(ゆうせん):足の指を曲げたとき、足の裏にできるくぼみにあるツボ。
・太谿(たいけい)
さいごに
今回は東洋医学の視点から腰痛について詳しく解説しました。一般的な腰痛のアプローチといえば西洋医学が主要ですが、東洋医学という考え方もあります。
東洋医学は短期間で結果を求めるより長期的に改善していく治療方法です。時間はかかりますが、東洋医学で腰痛のアプローチを行うと元から改善していくため、腰痛だけではなく身体全体に良い影響が現れる有効な方法の1つです。
【参考文献】
・それぞれの良さを生かした西洋医学と東洋医学の併用療法|ドクターズ・ファイル
・西洋医学と東洋医学の違いと特徴|よくある質問|クラシエ
・東洋医学からみた腰痛の4つの原因|りはり
・東洋医学・腎虚ってどんな状態?|頻尿.jp
・分かりやすい漢方薬解説・漢方理論解説|女性とこどもの漢方学術院
・陽虚タイプ|中医学でみる体質・タイプ|長崎市の漢方相談薬局|漢方の山中薬局