現代社会において、腰痛を訴える有訴者はおよそ国民全体の3割~4割にも上るといわれています。つまりおよそ3人に1人は腰痛持ち(内85%は原因不明)です。筋肉疲労やケガなど職業や運動に付属して発生する筋肉疲労などの腰痛を除けば、その有訴率は高齢になるほど多くなるといわれています。
理由としては、「腰椎の加齢性変化」が原因とされ、これは軟部組織が原因とされる腰痛ではなく、骨変性が原因の腰痛が増加するからです。
目次
高齢者に多い腰椎の骨変性疾患とは?
脊椎(いわゆる背骨のこと)の加齢性変化の多くは、椎間板の変性から始まっています。椎間板とは、椎体と椎体の間にある組織で、骨と骨のぶつかり合いが起こらないようなクッションやこんにゃくのような役割をしています。
この椎間板が変性し、弾力が低下し、椎間板内がスカスカになるという現象がおきます。そうなると、衝撃を吸収する組織の働きがなくなり、背骨や背骨の関節にかかる負担が大きくなります。
この負担が炎症を増悪し、カルシウムが沈着することで「骨棘(こつきょく)」と呼ばれる骨が棘のような状態になります。骨棘が形成されると、神経の通り道が狭くなったり、骨棘そのものが周辺組織に干渉して痛みが生じたりする場合があります。これが加齢による腰痛のメカニズムです。
高齢者に多い加齢性の骨変性からくる腰椎疾患
高齢者に多いとされる代表的な腰椎疾患は「変形性腰椎症」「脊柱管狭窄症」「脊椎圧迫骨折」などが代表的です。さらに女性ではこれに「骨粗鬆症」が加わります。
骨変性が原因の腰痛に対する治療
加齢にともなう腰椎の変性には椎間板の弾力低下、腰椎の骨棘の形成、椎体の強度の低下があり、さまざまな症状が出てきます。直接的に腰痛の原因となるのは、椎体がつぶれることにより起こる「腰椎圧迫骨折」です。その他、椎体間の幅が狭くなったり、骨棘による神経への干渉で起こる神経性の腰痛がおこったりします。
第一選択は保存療法
ついた板椎間板の変性は、70歳以上になればおよそ7割の人にあるといわれています。しかし、そのすべての症状が生じているわけではなく、その変性により神経に障害が出ていたり骨折していたりする場合に症状は現れます。
最初に行われる治療は、基本的には保存療法です。内服薬により鎮痛剤や消炎剤を用いて痛みを和らげます。脊椎の形をできるだけ元の状態に戻せるようにコルセットやベルトを用いて患部の安静を図ります。
場合により、椎体周辺の筋力をアップし、椎体を支持する力を向上させるような筋トレリハビリを行います。寝ている時に自身が安楽になれるようなら、クッションやマットレスを使用してみるのも良いでしょう。心地が良ければ湿布薬などを使用しても構いません。
自宅でも背筋や腹筋を強化する腰痛体操を進められることもあります。神経症状がひどい場合には、神経ブロック注射を行います。できれば日ごろから腰に負担がかかりにくい動作をとることを意識してみてください。
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圧迫骨折を治療するための手術とは
腰椎が圧迫骨折すると、四角い形をしている椎体が前方を上底とした台形に変化してきます。それにより痛みを生じます。中には強い痛みをともなわず、自然と骨癒合するケースもありますが、たいがいは骨折した急性期は痛いものです。とくに骨粗鬆症で椎体の骨の内部がスカスカになっている人は、くしゃみなどの軽い圧力がかかるだけでも骨折してしまうことがあります。
つぶれた状態の椎体を戻す手術が「椎体形成術」といわれる方法です。これは背骨の椎体と呼ばれる部分に対し、人工骨や骨セメントを入れて、椎体をもとの四角い形に戻すことで症状の改善を図る治療法です。近年では、皮膚におよそ1~2cmの傷を2か所つけるだけで手術できるBKP(Balloon Kyphoplasty:バルーンカイフォプラスティ) と呼ばれる方法が主流になってきました。
骨変性により神経障害が出ている場合の手術
この場合は、それらの原因となっている個所を削ったり除去したりする方法の「除圧術」が行われます。場合により、これ以上の変性が起こりにくくなるような「固定術」も付加されます。椎体同士をスクリューやロッドと呼ばれる金属製の棒で橋渡しをしたり、ケージと呼ばれる椎体間に挿入したりすることで椎体同士のスペースを確保する手術です。
椎体や骨変性による神経への干渉をなくすことで症状を軽減させます。BKPよりも手術は大掛かりになることがありますが、この方法でなければ症状が消失しない場合、神経の障害によって馬尾障害が出ている場合などは手術療法が選択されます。
骨粗鬆症の治療を先行して行う必要があるケース
患者さんの症状改善希望があり、緊急性が低い場合で骨粗鬆症をともなうケースでは、その治療を先行して行う必要があります。とくにスクリューを使用する手術になる場合は、骨粗鬆症の治療を先に行わないと、手術した意味がなくなるといっても過言ではないくらい、スクリューの固定力が得られないことがあるのです。
わかりやすく言うと、骨粗鬆症がある椎骨は、ぬかやとうふのような状態です。そんなところにねじを打ち込んでもぐらぐらで何も支えられません。つまり、骨と骨を支えようにもその櫓部分が弱ければ支えることができないので、治療の意味がなくなります。
もちろん、それをフォローするためのワイヤーやテープなど、ほかの医材を使うことで対処することも可能ですが、そうなると手術時間が長くなり、手術の技術も増大します。とくに高齢の患者さんの場合、手術侵襲がはるかに増大するので、対処療法で症状を抑えつつ骨粗鬆症の治療を行ってから手術を行うほうが、治療効果が大きくなるばかりではなく、患者さん本人の負担も最小限にすることができるのです。
まとめ
いかがでしたか?腰椎の加齢性変化による症状と治療についてまとめました。とくに女性は、閉経後から骨粗鬆症になりやすくなります。普段から腰への負担を考えた動作を心がけ、軽い運動をして筋力を維持することも大切です。定期的に骨密度を計測してみるのも良いでしょう。