バドミントンは,世界で最も広く親しまれているスポーツの一つです.
バドミントン世界連盟の推計によると、全世界で約150万人がプレーし、2,000人以上の選手が国際大会に参加していると推定されています1).
相手選手との接触がないことから,ケガの発症率は低く,幅広い年齢層が楽しむことができるのがバドミントンの大きな魅力です.
しかし,ケガが少ないとはいえ,競技レベルでハードなトレーニングに毎日取り組んでいると,バドミントン競技に特有の症状が現れてきます.
「最近練習中に腰が痛む」「肩や肘に痛みが出る」「股関節が痛む」
日々の過酷な練習で生じた,あなたの腰痛や体のさまざまな部位の痛みはバドミントンに特有のスポーツ障害かもしれません.
この記事では,バドミントン競技と腰痛の密接な関係をひも解き,痛みの原因を解説し,その対処方法をご紹介します.
目次
バドミントン選手に多いスポーツ障害とは?
マレーシアで行われた,バドミントン選手を対象としたスポーツ障害の調査報告があります2).
この調査では,スポーツクリニックに訪れた469名の何かしらの痛みを訴えるバドミントン選手(トップアスリートやスポーツ学校の生徒を含む)を対象として,体のどこに痛みが出現しているのか,また,その痛みの診断名を調査しました.
その結果,驚くことに,この研究対象となったバドミントン選手の体の痛みの原因の約90%が筋肉の過用,「オーバーユース」による障害であったと報告しています.
痛みの部位は膝がもっとも多く,ついで,腰部・肩や肘に多かったと報告しています.
これだけ,バドミントン選手にとってオーバーユースによる障害は共通した痛みの原因であることが確認されています.
オーバーユース症候群とは?
「オーバーユース症候群」とは,スマッシュやオーバーヘッドストロークなど,同じ動作を長時間にわたり繰り返し行うことで,筋肉やじん帯・関節などに生じる痛みのことを言います.
症状は徐々に現れ,多くの選手は使いすぎの状態にもかかわらずプレーやトレーニングを続けてしまい,その結果,腰痛や肩の問題をより深刻な問題にします.こうした症状は,長期間の強制的な休養や選手のパフォーマンスを著しく低下させる,と報告されています3).
バドミントンと腰痛の密接な関係
バドミントンのスマッシュを打つ瞬間をイメージしてください.
スマッシュを打つ前には膝・股関節を曲げた位置から上方へ伸びあがります.体幹は大きく後方へ捻った後,打つ直前までに,前方へ激しく回転して,肩,肘,を振り下ろします.このように,下半身から体幹さらには上半身へとスムーズに伝達された力が,最後にラケットへ伝わり強力なスマッシュを打つことが可能になります.
もし,股関節や腰の動きが硬く,痛みを生じている場合,こうした滑らかな力の伝達が阻害され,パフォーマンスの低下や肩・肘への故障へとつながっていきます.
肩・肘の痛みと,股関節や体幹,足の痛みの関連を報告した研究があります4).オーバーヘッドスポーツ(バドミントンやバレーなどの腕を上げるスポーツ)を行っている選手2,215名(平均年齢11歳)を対象とした大規模な研究で,アンケートを実施し,全身の痛みに関する調査を行いました.
その結果,肩・肘の痛みを生じている選手は,肩・肘に痛みのない選手に比べ,腰痛・股関節痛を併発している確率が5~6倍高かったと報告しています.
この研究では,腰痛があるから,肩が痛くなるのか,肩が痛いから腰痛が生じるのか,その因果関係については明らかにできていませんが,いずれもオーバーヘッドスポーツで生じる上半身の痛みは,腰や股関節痛とも大きな関連を持つ可能性が示されたのです.
オーバーユースケアの方法
バドミントンのオーバーユースのケアで筋肉の慢性的な疲労を予防,改善するためにはストレッチが推奨されています5).運動直前に行うストレッチは,一時的にですが神経と筋肉の反応速度を鈍らせ,運動パフォーマンスを下げることが報告されています.
そのため,運動前のストレッチでは,各部位のストレッチを60秒以下の短いストレッチにとどめ,運動後のストレッチでは60秒以上かけて丁寧に行うことで,筋肉のケアを行っていきましょう.
四頭筋ストレッチ
床に座り両足を前方へ伸ばした姿勢から,かかとがお尻につくように右膝を後ろへ曲げ,右の太ももの前面をしっかりとストレッチしていきます.
この時,太ももとすねが一直線になるようにして,さらに膝が外側へ向いて行かないように意識するとストレッチ効果が高まります.伸長感をより出すためには,体幹を後方へ倒してみてください.右側が伸長できたら,左側でも行いましょう.
ハムストリングスのストレッチ
床に座り両足を前方へ伸ばした姿勢から,左膝を外に曲げ,伸ばしたままの右足の上に上半身を倒していき,太ももの後面をストレッチしていきます.右側が行えたら,左側でも同様に行います.バドミントンでは,スマッシュの方向は常に一方向であるため,左右の柔軟性が崩れやすい特徴があります.片方ずつ丁寧に伸長し,ハムストリングスの左右の伸長性を整えていきましょう.
腸腰筋ストレッチ
両膝立ちの状態から,左足を前に立て,右足は後方へ真っすぐに伸ばします.この状態で重心を真下におろしていき,右股関節の付け根を伸長していきます.腸腰筋は腰を直立に支える強力な筋肉です.激しい運動では酷使されやすく,慢性的な疲労は腰痛の原因にもなります.しっかりとケアをしましょう.
腰方形筋ストレッチ
床に右側を下に横向きで寝そべり,左足を体の前に立てて下半身をささえます.両手で上半身を支えながら,上体を横に反らし,右側の骨盤上部に伸長を加えていきます.伸長感が足りない場合は,右足の下にクッションを入れ,伸長側の足を挙上するとより効果的です.
腰方形筋は,体幹を側屈させたり,骨盤を持ち上げる筋肉です.筋性腰痛を発症しやすい筋肉の一つです.丁寧にケアを行いましょう.
まとめ
バドミントンは,同様のフォームで激しくストロークを繰り返すスポーツです.長時間にわたり反復して行うストロークは,肩・肘だけでなく,股関節や腰部へも大きな負担を蓄積してオーバーユース症候群を招きます.このオーバーユースは痛みとして認識されるだけでなく,競技パフォーマンスの低下をもたらす可能性があります.
オーバーユース症候群の対策として,ストレッチによるケアが必要です.今回紹介した腰部・股関節回りのストレッチを参考に,運動前は一カ所60秒以下のストレッチ,運動後は60秒以上をかけ丁寧にストレッチを行うことで,腰痛・股関節痛の対策を行っていきましょう.
紹介した,ストレッチ体操は腰痛対策のほんの一部分です.あなたの腰痛の症状に合わせた個別性の高い対策方法を知りたいという方は,腰痛診断アプリ,腰痛ドクターをご利用ください.今なら無料診断が可能となっています.
【参考文献】
1. Badminton World Federation. Players worldwide. In: Badminton World Federation [online]. Available at: old.internationalbadminton.org/players.asp. Accessed June 25, 2009.
2. Shariff AH, George J, Ramlan AA. Musculoskeletal injuries among Malaysianbadminton players. Singapore Med J. 2009 Nov;50(11):1095-7.
3. Seminati E, Minetti AE. Overuse in volleyball training/practice: A review on shoulder and spine-related injuries. Eur J Sport Sci. 2013;13(6):732-43.
4. Sekiguchi T, Hagiwara Y, Momma H, et al. Coexistence of Trunk or Lower Extremity Pain with Elbow and/or Shoulder Pain among Young Overhead Athletes: A Cross-Sectional Study. Tohoku J Exp Med.
5. Behm DG, Blazevich AJ, Kay AD, et al. Acute effects of muscle stretching on physical performance, range of motion, and injury incidence in healthy active individuals: a systematic review. Appl Physiol Nutr Metab. 2016 Jan;41(1):1-11.