腰方形筋は、脊椎の安定化に欠かせない筋肉で、主に身体を側方に屈曲させる作用があります。腰方形筋が原因で腰痛を引き起こすことも多く、疲労による硬直や炎症が腰痛のリスクに挙げられます。
腰方形筋を痛めやすい方には共通した日常生活動作があり、これを知っておけば、腰痛を回避や改善に役立ちます。今回の記事では、腰方形筋の作用や痛みのメカニズムといった基本的な知識から、日常生活で注意するポイントやストレッチ方法などの実践的な内容までを解説しています。
目次
腰方形筋の作用は?
「腰方形筋」は、腰椎の両側に存在する長方形の筋肉で、臨床的には「筋肉性の腰痛」を引き起こす原因として重要です。体幹を構成するインナーマッスルの一つで、腰椎や腸骨稜(骨盤の上縁)から上方に向かって走り、肋骨に付着しています。
腰方形筋の作用は、両側が同時に動くか、片側だけが動くかによって異なる特徴があります。両側が同時に動く場合は、腰を伸展させたり、上下方向の力に対して安定化させる働きがあります。一方、片側のみが動く場合は、腰を横方向に屈曲させる作用があります。
腰方形筋を痛めるメカニズム
痛みが痛みを引き起こす「痛みの悪循環」とは?!
腰痛の原因は多岐にわたりますが、腰付近の筋肉が原因で腰痛をきたすこともあり、「筋・筋膜性腰痛症」と呼ばれます。日常動作や運動などが原因で筋肉に疲労が蓄積すると、筋肉は硬く収縮しがちです。
こうなると、血流に含まれる酸素や栄養が筋肉に到達しにくくなり、筋肉はさらに硬直して痛みが増強します。この負のスパイラルは「痛みの悪循環」とも呼ばれ、痛みの原因と成っている筋肉は「トリガーポイント」と呼ばれます。
腰方形筋を痛めやすい人の特徴
先ほど、腰方形筋の作用をお伝えしましたが、なかでも腰方形筋を痛める原因として多いのが「重い物を持ち上げる動作」と「頭上での作業が多い動作」の2つです。
重い物を持ち上げるとき、ヒトは自然と腰を反る体勢になります。腰方形筋は腰を伸展する働きがあるため、重量物を頻繁に扱う方は腰方形筋に負担がかかりがちです。
また、同じメカニズムで、中腰体勢から物を持ち上げる動作も腰方形筋を痛める原因になります。運搬業などで日頃から腰方形筋を酷使している方は、コルセットを使用したり、膝をついて物を持ち上げたりなど、腰痛を回避するための工夫が必要でしょう。
また、手を伸ばして頭部より高い位置でする作業も腰方形筋を使います。そのため、高い荷物を取ったり、天井のライトを交換したり、といった動作時も注意が必要です。
両者に共通して言えることは、「身体を反る姿勢をが腰方形筋に負担をかける」ということです。日常生活で腰を反る動作を繰り返す方は、腰方形筋に疲労が蓄積して「トリガーポイント」になる危険性があるので注意してください。
腰方形筋の腰痛はどんな痛み?
腰方形筋由来の腰痛の場合、「腰の深いところから感じる痛み」「ズキズキする鋭い痛み」と表現されることが多いです。腰方形筋の性質上、腰を反らすと痛みが増強する特徴もあります。また、痛みが腰だけにとどまらず、大腿の裏側やお尻に響くこともあります。
痛みの特徴だけでは「腰方形筋が原因の腰痛です!」と診断することは難しいですが、丁寧な問診や身体診察が診断のヒントになることもあります。
40代~50代男性の腰痛の原因とは?原因となる病気について!
腰方形筋に効く!ストレッチ法を解説
ストレッチによって腰方形筋の柔軟性を高めれば、筋肉の硬直が緩和され血流のアップが期待できます。血流が改善すると、筋肉はさらに柔軟性を増し「腰痛の再発を防ぐ」効果も期待できます。
ここでは、腰方形筋の代表的なストレッチを 種類ご紹介します。
座っておこなうストレッチ
・イスに浅く腰かけたら、背筋を伸ばし、肩幅よりやや広めに開脚します。
・目線はまっすぐ前を向いたまま、両腕を地面と平行になるまで広げます。この状態を10秒間キープしたら、1セット終了です。ムリのない範囲で構いませんが、出来るなら5セットほどおこないましょう。
腰方形筋は、腰椎から始まり肋骨に付着しているとお伝えしました。そのため、両腕を広げると肋骨が動き、それに伴って腰方形筋を伸ばすことができます。腕を上げるだけなので、誰でも簡単に出来るストレッチになります。
立っておこなうストレッチ
・足は肩幅程度に開き、両手でタオルなどを把持します。両手の間隔も肩幅程度に開きましょう。
・そのまま両腕を天井に向かって突き上げたら、腰を右側方に屈曲させます。このとき、左脇腹が伸びていることを感じましょう。
・この状態を10秒間キープしたら、1セット終了です。片側5セットずつ、両側をストレッチしましょう。
このストレッチでは、腰方形筋以外にも肋間筋・内腹斜筋・外腹斜筋もストレッチできます。肋間筋は呼吸にも関与する筋肉なので、これを鍛えることで呼吸器リハビリも兼ねられますよ。
まとめ:腰方形筋は「腰を反る」と痛めやすい!事前の回避とストレッチが大切
日常生活で腰を反ったり、側方に曲げたりする機会の多い方は、腰方形筋が原因で腰痛になるリスクが高いといえます。特に、筋肉の柔軟性が低く硬直しているような方は、腰にバクダンを抱えたまま作業をしているようなものです。
今回ご紹介したストレッチは、いずれも自宅で簡単におこなえるものを取り上げました。ぜひ参考にして腰痛を事前に回避してほしいと思います。また、既に腰痛をお持ちの方も、柔軟性を高めれば「痛みの悪循環」から脱却できる可能性があります。ぜひお試しください。
【参考文献】
Thomas R. Gest(著) 佐藤達夫(訳)「あたらしい人体解剖学アトラス 第2版」 MEDSi