急に起こる腰痛の実態は、腰椎の変性によるものか、神経への圧迫などからくるものか、内科的疾患やストレス性のものまでその原因は多種多様にあります。
今回は特に、その中でも「筋・腱(けん)・軟部組織」といわれる、骨や神経より上層の部位に組織の損傷が生じたために発生した腰痛に対するメカニズムについてまとめています。自分自身の腰痛症状と、受傷時からの経過時期を参照し、対処法の参考にしてみてください。
目次
軟部組織由来の急性腰痛
腰痛の原因はさまざまな要素が考えられますが、急な動作や不意の立ち上がりなどによっておこる急性腰痛は、主に軟部組織をひねったり、肉離れを起こしたりするような状況と酷似しています。
組織の修復には、受傷初期を「炎症期」「増殖期」「成熟期」という過程を経て元の状態に修復されます。急性腰痛症の組織損傷を考えてみると、この組織の修復過程を参考にすることで、適切な対処をするための参照となるでしょう。
炎症期
組織が損傷してからおよそ1週間を炎症期と呼びます。炎症期に起こっている特徴的なことは組織の止血と、炎症反応が出現し、受傷した組織の清浄化が起こります。組織が損傷されると、微細な毛細血管などから出血がおこり、その周囲は浸出液が漏出して浮腫(むくみ・ふしゅ)がおこります。
また、炎症を誘発する「セロトニン」「プロスタグランジン」「ヒスタミン」「ブラジキニン」などの化学物質が分泌され、炎症が増大し、炎症性疼痛がおこります。これが急性腰痛の要因のひとつです。
さらにヒスタミンは血管から血漿(けっしょう)成分が漏れ出る働きを促進させるために、浮腫が増長します。この浮腫があまりにも増大すると周辺組織に圧力が生じ、血流障害による酸素供給がうまくいかなくなり二次障害をおこすことがあります。
炎症期の特徴的な症状を「発熱・熱感・腫脹(しゅちょう)・疼痛」の4つで炎症の4症状としてまとめていて、この症状があるときは炎症期と判断し、それに基づいた対処法を実施します。
おもな対処法は安静と冷罨法です。ただし、腰痛に関しては、ある程度腰痛が落ち着いた頃に、少しずつ安静を解除することで筋力低下を防ぐことができるといわれています。無理のない範囲で、日常生活動作を行っていくことを意識しましょう。消炎鎮痛剤を使用しても問題はありません。
増殖期
組織損傷後3日から1~2週間程度経過した時期を増殖期(肉芽形成期)と呼びます。
この時期はサイトカインという化学物質の刺激により、さまざまな細胞が活性化し、損傷を受けた組織が修復されていきます。表皮の損傷などを例にすれば、かさぶたの下で新しい皮膚が増殖し、元通りの状態にしようとしている時期です。
腰痛に限って言うと、目に見える組織ではないのでわかりにくいかもしれませんが、炎症期を脱した組織は修復に向けて組織が再構築されている時期です。
血管新生や、肉芽組織増殖のためにコラーゲン、ヒアルロン酸、プロ手ガングリオンなどが結合し、修復組織の強度が増します。この時期に入ると血管新生を促し、血流を増殖することで組織の修復を目的とした温罨法が有効です。無理のない範囲で引き続き活動することも血行を促進します。
成熟期
早ければ組織損傷後7日頃から始まります。血管新生はさらに進み、組織のリモデリングがすすみます。プロテガングリオンと呼ばれる物質が沈着して、損傷部位の弾力性が高まります。組織修復力の違いにより、この時期の長さはとても個人差があるのが特徴です。運動や温罨法を施行しながら、筋の緊張を取り、循環の改善を図ることが大切になってきます。
腰痛治療の流れでは、ここでしっかりと筋力増強運動や姿勢の取り方について学び、新たな腰痛を起こさないように画策する時期に入っています。
組織別、損傷の治癒過程の起こる時期の違い
上記は、一般的な末梢組織の損傷が起きた際に起こる炎症反応と回復過程についてまとめています。しかし、その修復過程は、損傷を受ける組織によってかなり有意差があります。もちろん、損傷の度合いや同じ組織であっても、その損傷を受けた部位や深さ、年齢や体の健康状態によって個人差はあります。
その治癒過程を参照する際に、病院などでは先に述べた炎症の4症状を所見としてとらえ、レントゲンや血液検査などを含む各種データを計測し、炎症のどの時期にいるのかを判断する材料としています。
筋線維の治癒時期の参照
急性腰痛がおきた時に障害を受ける組織の多くに、「筋組織」が損傷を受けていることは多くあります。
筋線維が受傷した場合は、炎症期に入った直後から筋の繊維芽細胞が出現し、組織の修復を開始します。およそ3日目には増殖期に入り、その後2週間もすれば成熟期が終わり、正常な筋線維が再建されます。
急性腰痛症では、受傷後3日もたてばある程度の炎症は落ち着いてくるので、「痛みの許す範囲で」、「痛み止めを使いながらでも」動きなさいと医師から指導を受けるのは、これらの考え方を基準にして考えているためと思われます。
逆に言えば、このように医師から指導されたようであれば、骨や神経への損傷はなかったととらえ、早期回復のために安静を解除するように努めましょう。
組織別、治癒の時期参照
参考までに、身体の末梢組織別治癒の時期を紹介します。
・皮膚→瘢痕形成まで2~4週間
・骨→仮骨形成まで約1か月
・靭帯→瘢痕形成まで6~8週間
・腱→炎症期が長くおよそ3週間、増殖期が4週目に起こり、組織の治癒には6~8週間かかる
自宅でもできる対処法「罨法」
急性腰痛が起こって、整形外科に受診し、消炎鎮痛剤などを処方されました。「心配ないから安静にして経過観察してね」といわれるケースでは、そのほとんどが、筋組織などの軟部組織のみの損傷にとどまることが多いようです。先にも述べたとおり、その回復過程は炎症期、増殖期、成熟期を経て治癒します。
炎症期で行う「冷罨法」
冷罨法は簡単にいうと「冷やすこと」。冷やすことで受傷部位の血流を抑制し、浮腫を低減させ、炎症による熱感や腰痛を鎮静させ、患部の安静を保つことができます。可能であれば受傷直後から行うと、浮腫や炎症反応の増強を抑制できます。2~3日間は凍傷に注意しながら適宜冷罨法を行います。
増殖期・成熟期で行う「温罨法」
温罨法には交感神経のはたらきを抑制することで、血行促進効果が認められます。血行が促進することで血流が増加し、酸素と栄養分の運搬が行われ、組織の修復が促進されます。
また、発痛物質も流れていき腰痛も和らぎます。組織がリモデリングされるまでは、血液運搬がまだうまくいっていない状況だと判断できるため、腰痛が増強した場合や、腰部の重だるさや張り感を感じたら適宜温罨法を施行するとよいでしょう。
まとめ
いかがでしたか?急性腰痛症状の状態を理解し把握することで、適切な対処法を取ることができるようになります。対処法が適切であれば、治癒までの時間をより安楽に過ごせて、治癒までの期間が短縮できるかもしれません。今回の記事が腰痛にお悩みの方へ参考になれば幸いです。