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慢性腰痛の解説

まず、腰痛とは・・

腰痛とは、腰背部(腰や背中)の筋肉、筋膜、腱、関節、靭帯に炎症がおき、痛みを生じる現象をさします。

慢性腰痛とは・・

慢性腰痛の定義は、「器質的原因の有無に関わらず、少なくとも3-6カ月以上腰痛が持続するもの」とされています。小学生から高齢者まで幅広い年代に起こり、特に30~50歳代の事務職や介護職に多くみられます。

原因

解剖学的に原因の明らかな腰痛(腰部椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症など)と、明らかでない腰痛(非特異的腰痛)に分類されます。慢性腰痛の90%が、検査でも痛みの原因が明らかにならないような非特異的腰痛です。

診断

慢性腰痛の診断には急性腰痛と比較して、問診の重要性が大きいです。また、器質的な疾患の有無の評価に血液検査、画像検査(X線・CT・MRI)などは必要となります。

治療の目標

経過の長い腰痛に関して、完全な除痛を目標にすることは極めて困難です。従って睡眠の質の改善や精神面での安定、労作については日常生活レベルの改善(休み休みでも歩ける距離が少しのびた・出来なかった動作ができるようになったなど)を目標にもつことが大切です。また慢性腰痛に関しては、痛いから動かさないでなく、本人の可能な範囲で日常生活労作を行うことが重要です。

治療

単回の神経ブロックや手術が、急性腰痛ほど痛みの軽減に関して効果を示すことは少ないです。慢性腰痛において湿布や薬物療法(抗うつ薬・筋弛緩薬・抗不安薬)の他に、非薬物療法としてリハビリ(理学療法や運動療法)・認知行動療法が注目されています。 整形外科医、精神科医、麻酔科医(ペインクリニック内科医)、内科医、歯科医、専門師、理学療法士、臨床心理士など多職種で集学的な医療提供がその一助となります。

予後

腰痛が慢性化(長期化)することにより、脳生理に変化をもたらし心理・社会的な側面の関与が痛みをさらに増強させることが知られています。急性腰痛は医療機関を受診後4週間以内に9割程度軽快しますが、慢性腰痛は画像診断などから痛みの原因が明らかとしても、心理的な要因も併存するケースも多く両側面からのアプローチがバランスよくコントロールされることで日常生活労作(ADL)が緩徐ではあるが良化することが多いです。

治療効果を高める、受診前のセルフチェックリスト

・いつから腰痛で困っているのか?
・腰痛以外に痛い箇所があるか?(例;下肢や臀部痛の有無)
・腰痛が出る労作内容(例;安静時・長時間歩行時)
・腰痛による睡眠障害はあるか??
・腰痛を誘発する環境はあるか?あればどういう時か?(例;職場に行くと痛くなる 姑の家に料理を作りにいく曜日など)
・腰痛により日常生活に具体的にどのような制約があるか?(例;自宅の階段が介助なしでは上がれない。など)
・腰痛を忘れる時にしていることを列挙。(例;手芸をしていると痛みを忘れる など)
・腰痛があってもできていることはどんなことか?(例;スーパーへの買物・階段5段までの昇降 など)
・希望する治療内容(例;手術の希望・ブロック注射の希望・薬物療法の希望・診療してほしい・話を聞いてほしい など)
・治療後のゴールを決めておく。(例;スーパーに買い物に行けるようになる・休まず15分ゆっくりでも歩けるようにしたい など)
・腰痛以外で心理的・社会的に困っていることはあるか?ないか?(例;就労制限での経済苦・うつ病・人間関係のストレス など)
・他の医療機関や接骨院やマッサージの受診歴とその治療の満足度
・天気や気圧などによる痛みの増強の有無は?

脳は痛みにブレーキをかけている

体がどこも痛くない。いわゆる健常な人の脳の中では、常に痛みに対してブレーキがかけられています。
例えば、机の角に腕を腫れるぐらい強くぶつけたとします。
その場では痛みを感じると思いますが、ずっと痛みを同じように感じているわけじゃありませんよね?
徐々に痛みは軽くなり、その後なにか別の作業を行なっていると痛いことを忘れることはよくあると思います。

これはぶつけた後、すぐに回復したわけではなく、痛みを受けたその部位の痛みに対して脳がブレーキをかけている結果生じる現象です。このブレーキ作用があるからこそ、人は痛みを受けたとしても動きを止めずに活動を続けることができるのです。

もしこの作用がなかったとしたら、人は少しの痛みで動きを止めてしまい、原始時代に行われていた、自分たちより強い生き物達との生存競争に勝ち残ることはなかったでしょう。

ブレーキ作用は前向きになると強く働く

ブレーキ作用をコントロールしている脳の部位はいくつか報告されていますが、共通しているのは、物事を前向きに捉える部位の関与です。

人はポジティブな気持ちになると前側の脳の表面に近い部位である「外側前頭前野」という部位が強く働くと言われています。
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この外側前頭前野とブレーキ作用は密接な関係があります。

この部位の活動が低くネガティブな思考をもった人では痛みを強く感じやすく、
逆に活動が高くポジティブな思考を持った人は痛みを感じにくいと多くの研究で報告されています。

そのことから前向きでポジティブな感情が痛みに対するブレーキ作用を強くすることは疑いようのない事実と言えるでしょう。

慢性腰痛を持つ人はブレーキ作用が弱まる

慢性疼痛を持つ人の脳ではブレーキ作用に大きく関わる外側前頭前野の働きが著しく低下しているといわれています。

それにより、同じ痛みを受けたとしても、健常な人に比べて強い痛みを訴えることが明らかになっているのです。

これは痛みに対して弱いとか根性がないといった精神論ではなく、長く痛みにさらされすぎた結果起きた、脳活動の変化というれっきとした「症状」なのです。

どうすれば慢性腰痛は良くなるの?

そんな脳の活動が強く影響している慢性腰痛ですが、2016年に行われたLeeらの行なった研究で非常に面白いものがあります。

その研究とは、患者さん自身がこういった痛みに対する正しい知識を得ることによって、ネガティブな思考や誤った痛みの認識というのが改善され、慢性の痛みに改善がみられたというものです。

自分の痛みが体のどこかが壊れてしまったことによって起きているのではなく、痛みによって脳が変化してしまった結果起きている。と、理解することで運動や生活に対する恐怖感が薄れ、結果としてポジティブな考え方ができるようになり、痛みのブレーキ作用が高まったと結論付けられています。

このことから、慢性腰痛を改善する上では、自分の痛みを正しく知ることが非常に重要であるといえるでしょう。

適度な有酸素運動もブレーキ作用を高める

少し息が上がるぐらいの30分~1時間程度の有酸素運動は前述した痛みのブレーキ作用に関わる外側前頭前野の活動を増加し痛みを軽減するといわれています。

これは運動による鎮痛効果。通称EIH(exercise-induced hypoalgesia)と呼ばれ、科学的に認められている効果です。

慢性疼痛に対する正しい知識を理解し、痛みや運動に対する恐怖感が減らした上で、前向きな気持ちで有酸素運動を行なったり、活動的な生活を送ったりすることで慢性疼痛が改善する可能性は高まります。

慢性腰痛に関するQ &A

整形外科・接骨院・マッサージ・鍼灸などどこが一番効果的ですか?

(A) 明確な回答はありません。薬物療法や器質的な疾患の除外のための画像診断は医療機関(病院・診療所・クリニック)でしかできません。非特異的腰痛ならば、自身の満足度の高い施術を受けれる機関で良いと思います。

数多くの医療機関を受診しましたが、一向に慢性腰痛が良くなりません。

(A) セカンドオピニオンという言葉もあります。複数の機関を受診することは悪いことではありません。しかし、慢性腰痛に関する痛み治療のゴールの設定に、複数の医療機関を受診することは不利です。信頼できる場所で腰を据えて治療することが症状軽快の近道です。

慢性腰痛に対するブロック注射は薬が切れたら余計にいたくなりますか?

(A)慢性腰痛の痛みは脳で感じます。神経ブロックの効果は痛みの悪循環(回路)を一旦遮断し、血流を改善します。反復することで痛みを感じない時間が長くなっていき痛みを忘れていくことで、治療効果を発揮します。

慢性腰痛に抗うつ薬を処方されました。うつではないのに・・

(A) 脳からの司令で生理的に痛みを感じにくくする「下降性疼痛抑制系」が人には備わっています。抗うつ薬は、それを活性化し慢性腰痛による痛みを感じにくくすることで治療効果を発揮します。

慢性腰痛に漢方薬を処方されました。インターネットで調べても効果ありとは書いていない。

(A)漢方薬に鎮痛薬は存在しません。ただし、冷えを改善したり、血流を改善したり体質を改善することにより、全身の種々の症状の改善が得られることがあります。慢性腰痛にも効果を示すものがあることが知られています。

慢性腰痛に入浴は効果的ですか?

(A) 冷えや血行障害はしばしば、慢性腰痛を悪化させます。入浴やマッサージなど温めて、血流を良くする習慣は慢性腰痛を改善する効果が期待できます。

慢性腰痛には痛くても運動とのことですがいかがでしょう?

(A) 自覚症状がいつもの腰痛の症状より極めて強い場合は、症状が治まるまでは安静にしましょう。体動困難なレベルの激痛がおさまればまた痛みがあっても運動を再開してください。

好きな人ができました。慢性腰痛が少し良くなった気がします。気のせいでしょうか?

(A)恋や適度な運動は、脳からドパミンの放出を促すことで痛みを抑える仕組みが活発化することが生理学的に示されています。恋でなくとも、本人が楽しいと思えることをすることは慢性腰痛の症状軽減に有利です。

まとめ

慢性腰痛に関して、おわかりいただけましたでしょうか??
慢性腰痛は急性腰痛との比較で、手術や痛み止め(内服・シップ)などが著効することは少ないです。一方慢性腰痛は自身がゴールを設定し、痛くてもできる心を豊かなるよう打ち込めるものを見つけることが大切です。

最後に慢性腰痛の治療において、特効薬はない代わりに意識として「小さなことからコツコツと精神」が、緩徐ではあるが良化に導くことをお伝えしたいと思います。

(参考文献)
1, ペインクリニック 診断・治療ガイド―痛みからの解放とその応用 日本医事新報社
2, 腰痛が人生を好転させる 朝倉穂高 著.
3, 慢性痛は治ります! 北原雅樹 著.

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

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