腰痛と腹痛が同時におこり、病院にかけこんだものの医者からは大丈夫だと言われた。じゃあいったい何が原因?
腰痛と腹痛が同時におこる症状があるとき、重い病気が潜んでいる可能性があるため受診が必要です。しかし、受診をしても問題ないと言われることもあるでしょう。
このような場合の原因は、日常の行動での筋肉・筋膜の傷つきが大半で、時間とともに回復していくものです。筋肉からくる腰痛と腹痛の関係は、意外と気づきにくいもの。ここではどうして筋肉と腰痛・腹痛が関係するのかお伝えしていきます。
目次
腰痛と腹痛が同時におこる原因
腰痛と腹痛が同時におこる原因として考えられる代表的な病気は次のとおりです。
整形外科
骨、関節、脊椎、椎間板、靱帯、などに原因がある
例)脊椎炎、骨粗鬆症、圧迫骨折、椎間板ヘルニア、脊柱菅狭窄症など
内科
胃腸、内蔵などに原因がある
例)胃腸炎、膵炎、尿路結石、腎盂炎、胆嚢炎、胆石、大動脈瘤、大動脈解離、がん、白血病など
婦人科
子宮、卵巣、ホルモン分泌などに原因がある
例)子宮筋腫、子宮内膜症、子宮がん、骨盤内うっ血症候群など
精神科・心療内科
ストレスや精神疾患、自律神経に原因がある
例)ストレス、自律神経失調症、うつ病、不安神経症、適応障害など
その他
例)アレルギーによるアナフィラキシーショック、帯状疱疹など
上記のような診断がついた場合は、医師の指示を仰ぎながら治療をすすめます。しかし、こういった特定の病気が考えられない場合、筋肉・筋膜に原因がある可能性があるので、チェックしていきましょう。
腰痛とお腹の関係
筋肉が原因の腰痛の場合、腰に負荷がかかり筋肉は緊張しています。このとき、連動してお腹の筋肉まで緊張状態になることはよくあることです。
例えば、仰向けの姿勢から上半身を起こす腹筋運動をしたとき、お腹の筋力が弱いと腹筋に効きづらく、腰に負担がかかります。そのため腰痛がおこりやすいでしょう。お腹と腰の筋肉は作用、反作用で同時に痛みを伴うことがあるのです。
また、腹筋の柔軟性がなくなると、お腹の筋肉は伸展性が弱まり縮んでしまいます。お腹部分をぎゅっと掴むと上半身までがひっぱられてしまう状態です。このように、腹筋が硬く縮むと上半身が前に倒れ背中も丸まり、背すじがまっすぐ立ちにくくなります。
バランスが悪くなるため、背中を立てようとする力が働きますが、背筋が弱いと腰を反らすことで背筋を立ててしまうのです。このため、腰に負荷がかかり、腰痛を引き起こすことになります。
加齢でおこりやすいですが、毎日長時間のデスクワークで、前かがみの姿勢を取り続けると腹部・股関節の筋肉が縮んだまま硬くなります。このようにお腹の硬さと腰痛は、深い関係があるのです。
筋肉が原因で腰痛と腹痛が同時におこる
日常の姿勢、歩き方の癖、労働条件や作業、運動習慣に関係して、腰痛と腹痛が同時におこることがあります。
意識的な運動や高い負荷のかかる作業だと、筋肉痛だとわかりやすいですが、普段と変わらない生活で腰痛と腹痛がおこると、筋肉痛が原因だと気づきにくいものです。実は何気ない普段の生活でも、知らないうちに筋肉疲労がおこっています。
長期間の同じ姿勢や日々の動作の癖で、腰背部の筋肉のバランスがくずれ、腰痛と腹痛が同時におこりやすくなるのです。いつもと少し違う生活をしただけで、腹筋や腰背筋に負荷がかかっていることも少なくありません。
大腰筋
腰痛と腹痛が同時におこるひとつの原因筋は大腰筋です。背骨からお腹の中を通って股関節の前小転子についている筋肉で、お腹から腰、股関節に関連しています。
大腰筋が硬くなりうまく働かなくなると、腰部と腹部に負荷がかかり、腰痛と腹痛が同時におこりやすくなります。大腰筋は深層についているため、硬さや動きはわかりにくいものです。大腰筋の硬縮では、次のような特徴がみられるのでチェックしてみましょう。
・腰が反る
・椅子から立ち上がるとき腰に痛みを伴う
普段あまり歩かない、歩く速度が遅い、足をあげて歩かない人は大腰筋が発達しにくいのです。大腰筋は股関節を曲げてふとももをあげる役割がありますが、股関節を曲げるとき大腰筋(インナーマッスル)を使わずにふとももの筋肉であげることが多いと、大腰筋は衰えてしまいます。
大腰筋が正常に働いているかをチェックする方法として
①椅子に片足をのせる
②その状態で上半身を前に倒したり、反らしたり、ひねったりする
③椅子から足をおろし、膝を伸ばしたまま同じ動きをする
④椅子にのせた方が背中や腰、お腹の痛みが少ない場合は大腰筋が硬い
大腰筋はインナーマッスルなので、ストレッチやマッサージが難しい箇所です。また、大腰筋を鍛えるエクササイズも臨床的な解明がされていないため、効くのかよくわかっていないのが現状です。大腰筋が硬いと感じたなら、専門家に相談することがおすすめです。
腹直筋
腰痛と腹痛が同時におこるふたつめの原因筋は腹直筋です。一般的にシックスパックと言われる腹筋で、肋骨から恥骨にかけて表層面に位置しています。
吐く息で硬くなり吸う息で緩むため、腹式呼吸や大声でのカラオケ、笑いすぎなどで筋肉痛になった経験もあるのではないでしょうか。
腹直筋が硬くなると、伸展性がなくなり体を後ろに反らしづらくなります。反らすと腰に負荷がかかり痛み、曲げるとお腹の筋肉が痛みやすいのです。普段から前かがみになることは多くても、お腹を伸ばす機会はなかなかないもの。体の前面を伸ばす動作が少ないと、お腹の筋肉が縮んだままです。
また、腹筋運動ばかり行うと、背筋が弱く腰回りの筋肉がアンバランスになり、腰痛と腹痛が同時におきやすくなります。筋トレや運動では、バランスよく体を動かしましょう。
脊柱起立筋
腰痛と腹痛が同時におこるみっつめの原因筋は脊柱起立筋です。後頭部から骨盤まで背骨に沿っている背中の筋肉で、3本が縦にのびています。
顔を洗うときなど、前かがみになっても前に倒れ込まないのは、脊柱起立筋が働いているからです。日常さまざまな動作で使われやすい反面、疲れがたまりやすく硬くなりがちな部位です。
ほかに両手をあげて背伸びをするときも、脊柱起立筋が働きます。このとき脊柱起立筋は緊張し、血液循環が減少した状態です。高い場所の掃除でこのまま筋肉の活動が続くことになると、筋肉疲労が進み、新陳代謝は減少します。その結果、筋肉痛や筋・筋膜性腰痛がおこるのです。
骨盤を支えるために、腰痛をカバーするよう腹筋が作用し、のちに腰痛と腹痛が同時におこることになります。腰もお腹も使っていないのに腰痛と腹痛が同時におこるときは、こうした動作が原因と考えられます。このような作業を行うときは、こまめに休憩をはさみましょう。
同時におこる腰痛と腹痛の予防は運動・睡眠・栄養
腰痛と腹痛が同時におこる原因として、主に筋肉のアンバランスがあげられます。
筋力が低下すると、激しい運動はしなくても、普段と違った動作や長時間の姿勢でさえ筋肉に負荷がかかります。これが腰痛と腹痛が同時におこる原因になるのです。
つまり、特に大腰筋、腹直筋、脊柱起立筋が衰えて硬くならないよう、普段からこの筋肉を動かすことが最大の予防です。筋肉に負荷がかかった日にはストレッチを行えば、筋肉痛を予防し腰痛と腹痛の緩和に効果的です。
また、睡眠不足は痛みを感じる感受性が高くなります。普段8時間寝ている人が7時間半に減っただけでも、普段の120%以上も不快を感じやすくなるのです。筋肉に負荷がかかった日は、筋肉の修復を行うためにも質のよい睡眠が欠かせません。同時に筋肉修復のためには栄養が不可欠です。
つまり、「運動、睡眠、栄養」は腰痛と腹痛が同時におこる予防のうえで1番大切にしたいことなのです。
腰痛と腹痛が起こったときに考えられる病気
一度は医師から「大丈夫」だと言われたかもしれませんが、念のため腰痛と腹痛が同時に起こったときに考えられる内臓疾患について知っておきましょう。
消化器疾患
胃・十二指腸潰瘍
胃・十二指腸潰瘍とは、胃液(強い酸性)の刺激により胃や十二指腸の組織が剥がれ落ち、内部が損傷した状態のことをいいます。本来、胃は消化液を分泌し食べ物を消化するという働きを行っています。この胃液が様々な原因で、胃や十二指腸の組織をも消化してしまうことで潰瘍が起こります。
胃潰瘍の場合は食事中から食後に、十二指腸潰瘍の場合は空腹時にみぞおちや腰痛が現れます。早期の場合には無症状のことも多いですが、胸やけ・胃もたれ・吐き気・食欲不振などの症状が出ることもあります。
しかし、症状は進行すると潰瘍から出血したり、穿孔(せんこう)してしまうこともあり、出血や穿孔を起こすと強いみぞおちの痛みや腰痛が起こります。
アニサキス症
アニサキスとは、さばやイカ・カツオ・さんまなど私たちがよく食べる海洋生物に寄生する寄生虫のことです。火を通して食べる場合には死滅していることが多いため問題ないのですが、お刺身など生で食べる場合、魚などと一緒に摂取してしまうことがあります。アニサキスを食べると胃や腸の壁を食い破ることにより、強烈な胃痛と腰痛、吐き気が起こります。
食べてから数時間以内で発症することが多いため、お刺身を食べたなどという場合にはアニサキス症を疑います。胃カメラをしてアニサキスを除去すれば痛みはすっとなくなります。お刺身を食べる時にはよく噛んで食べるようにしましょう。
胆石・胆のう炎
胆石症とは、胆石により引き起こされる病気のことです。肝臓で作られた胆汁の成分が石となり、胆のう内に蓄積されます。まれに総胆管や肝内胆管に石が詰まってしまう場合があり(総胆管結石)、胆石が詰まると右腰痛・腹痛が起こります。胆石が流れた場合には痛みが治まります(胆石発作)。
しかし、胆石が詰まったままの状態が続くと胆のう炎を引き起こし、右の腰痛・腹痛だけではなく発熱も出現します。
そのような状態になると内視鏡で胆石を除去する治療が必要になるのです。
急性膵炎
膵臓は血糖をコントロールするインスリンやグルカゴンなどのホルモンや様々な消化酵素を作っている臓器です。食事などを摂取すると膵臓から消化酵素が分泌され、消化吸収を助ける働きをしています。
しかし、何らかの原因で消化酵素が膵臓の中で働いてしまうことがあり、膵臓は間違って自分を溶かしてしまいます(自己溶解)。自己溶解が進むと膵臓だけでなく、その周囲の臓器をも溶かしてしまうため、溶け出した有害物質が血液にのり全身に行き渡り、命を脅かす場合もあります。
みぞおちや左の腰部の激しい痛みが現れ、発熱を伴うのも特徴です。急性膵炎の場合、抗生剤などの治療で軽快することが多いですが、重症膵炎に進行すると死に至ることもあります。
泌尿器疾患
尿路結石症
腎臓から尿道までの尿路に結石ができることを尿路結石症といいます。特に中年程度の男性や閉経後の女性に多くみられます。症状としては、疝痛発作(せんつうほっさ)つまり激しい腰痛が現れるのが特徴です。
腎臓は左右に1個ずつあり、右の尿路に詰まれば右の激しい腰痛が起こります。痛みが強すぎるため、腰に手を当てながら冷や汗を流している場合が多くみられます。肉眼的血尿(目で見てわかる血尿)はなく、尿検査で血尿がみられます。結石が大きい場合には砕石術(さいせきじゅつ)を行いますが、基本的には鎮痛剤と水分摂取で自然に流れ出ていきます。
腎盂腎炎
腎盂腎炎は、膀胱炎などの尿路感染症により腎臓にまで細菌が生じたことをいいます。
主に発熱や腰痛、吐き気などが起こることが多いです。基本的には抗生剤の点滴で治療します。
前立腺がん
前立腺は男性にのみある臓器です。前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、自己増殖することにより前立腺がんは発症します。前立腺がんのほとんどは無症状であり、「尿が出にくい」や「排尿回数が多い」といった前立腺肥大と同じ症状として現れることがほとんどです。
早期に発見できれば治癒する疾患ですが、近くのリンパ節や骨に転移しやすいのが特徴です。進行すると血尿や骨への転移により腰痛が起こります。前立腺肥大と似ているため、ちょっとでも尿の出の悪さや頻尿の場合には病院に行きましょう。
婦人科疾患
子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮内膜やそれに似た組織が何らかの原因で、子宮の内側以外の場所で発生し発育していきます。女性ホルモンの影響で、月経周期に合わせて増殖したり、月経時に血液が排泄されずに蓄積されたり、周囲の組織と癒着することで様々な痛みに繋がります。不妊症の原因にもなります。
子宮内膜症の主な症状は「痛み」と「不妊」です。特に痛みは様々な多種多様で、腰痛や下腹部痛・排便痛・性交痛などが起こります。
子宮がん
子宮がんは子宮体部にできる「子宮体がん」と子宮頸部にできる「子宮頸がん」に分類されます。子宮頸がんは正常な状態から異形成というがんになる前段階を数年経てからがんへと発展します。
異形成の時期は無症状なことが多く、進行すると月経以外の時や性交時などにも出血し、おりものも茶色や膿っぽいものが出たりします。
さらに進行すると下腹部が痛んだり、腰痛が出たり、尿や便に血が混ざることも出てきます。下腹部痛や腰痛が出る時には進行していることが多いので、おかしいなと気が付いた時には早めに受診することが大切です。
循環器疾患
心筋梗塞
心筋梗塞は日本人の死因の第二位の病気です。心筋を取り巻いている冠動脈は心臓に血液と酸素を送っています。
これが動脈硬化によりコレステロールなどが沈着することで血液の通り道が狭くなったり、塞がれてしまいます。そのため心筋に血液を送ることができず、心筋は酸欠状態となり心筋細胞が壊死します。これを心筋梗塞といいます。
心筋梗塞が起こるとみぞおちや腰部の強い痛みが起こり、締め付けられるような痛みや圧迫されるような痛みが出現するのが特徴です。痛みが出てきた場合すぐに受診し、心臓カテーテルを行うことが重要です。放置しておくと命に関わることもあるため、強い痛みが現れた時には受診するようにしましょう。
腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤は、人間の体の真ん中を走る大動脈の壁が膨らみ瘤(こぶ)作る状態のことをいいます。
腹部大動脈瘤をもっているだけだと無症状なことが多いですが、血圧の上昇などにより瘤に圧がかかると瘤が大きくなり破裂してしまうことがあります。
大動脈瘤が破裂すると想像を絶するほどの腹部と腰部の痛みが出現し、冷や汗が流れます。すぐに手術をする必要があり、時間が経過すると意識が悪くなり命を脅かします。
まとめ
腰痛と腹痛が同時におこって、医師に病気はないと言われたら、筋肉・筋膜性腰痛の可能性が大きいとわかりました。
腰背部とお腹の筋肉は連動しており、痛みに密接な関係があるのです。日常生活の動作の偏りや運動不足で、腰やお腹の筋肉が衰え、普段と少し違う動きでも筋肉痛をきたしやすくなります。日頃から適正な「運動・睡眠・栄養」を心がけることで、不快な症状から解放されるのです。
腰痛と腹痛が気になった場合、ドクターアプリの活用をおすすめします。
参考サイト
https://nakamura-seikeigekarihabiri.jp/wp-content/uploads/2019/01/kinkotsukeisikkan.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ringe1963/42/2/42_2_144/_pdf
msm169.pdf (bookhousehd.com)
参考文献
・筋肉のしくみ・はたらき辞典 株式会社西東社
・病気がみえる循環器
・病気がみえる消化器
・病気がみえる腎・泌尿器
・病気がみえる婦人科・乳腺外科 出版社メディックメディア
・エビデンスに基づく症状別看護ケア関連図 中央法規出版