腰椎分離症は、脊椎の椎弓という部分が骨折する病気のことです。腰椎分離症の初期は椎弓がヒビ割れるだけですが、進行すると完全に二分してしまうので「分離症」と呼ばれます。
椎弓は脊椎の後方に位置するリング状の構造で、一部が衝撃に弱い構造をしています。そのため、腰の回旋動作や着地の衝撃が繰り返されることで椎弓にダメージが蓄積し、分離症に至るとされます。競技スポーツ選手に多いのは、これが理由になります。
腰椎分離症は正しい治療をすれば予後の良い疾患ですが、保存的治療でも4ヶ月程度の安静を要します。スポーツ選手にとって4ヶ月も競技から離脱するのは避けたいですし、なにより腰に疾患を抱えながらのスポーツは不安も強いと思います。
よって、ほかのスポーツ障害と同様「腰椎分離症は予防がもっとも大切」なのです。そこで、今回の記事では、腰椎分離症にならないために注意すべきポイントについて解説したいと思います。
これらのポイントに注意しながらスポーツに取り組むことで、腰椎分離症のリスクを抑えつつ競技に専念することができるでしょう。「毎日スポーツに取り組む成長期の方」「お子さんがスポーツに熱心な親御さん」に、是非読んでいただきたい内容に仕上がっています。どうぞ参考にしてください。
腰椎分離症は中高生にも起こりうる腰痛!原因と対処方法について解説
目次
痛みを抱えながらの練習は絶対NG
「腰椎分離症は治らない病気」と悲観に思う方がいますが、正しい初期治療をおこなえば、腰椎分離症は完治を目指せる病気です。そのためにも、早期の発見と治療が欠かせません。
腰椎分離症の初期症状は、個人によってまちまちです。ほとんど自覚症状のない方から、腰の張りが気になる方、運動時の痛みが辛い方まで、さまざまなバリエーションがあります。よって、「この症状が出たら練習は中止」という一定の基準は示せませんが、腰に違和感を感じたときは練習を加減すべきです。少なくともその日の練習は中止した方が無難でしょう。
冒頭でもお伝えしたように、腰椎分離症の初期であれば椎弓にヒビが入っているだけです。この段階で介入ができれば、安静と装具治療(コルセットやギプス固定)で完治を目指せることも多いのです。また、治療期間も比較的短くてすむでしょう。
理想的なのは、そもそも腰椎分離症にならないよう予防に努めることです。しかし、もし腰椎分離症になったとしても、初期症状を見逃さないことで早期治療が可能です。特にスポーツ選手の方は、ご自身のコンディションに注意を向けつつ練習に取り組んでほしいと思います。
腰椎分離症の予防には、練習前のストレッチが必須
練習前のストレッチで筋肉をほぐすことで、腰椎分離症の予防につながります。対象となる筋肉は、腰回りの筋肉だけでなく、股関節を構成する筋肉も大切です。股関節周囲筋、特に大腿部の筋肉の可動範囲が狭いと、その動きの代償が腰椎に及んでしまいます。
例えば、股関節が屈曲しにくければ、その動作をカバーするために腰椎を前屈させる必要があるため、腰椎分離症にもつながりかねません。
よって、腰椎分離症を予防するためにも、要背部だけでなく「大腿四頭筋」や「ハムストリングス」のストレッチを心がけましょう。これらのストレッチであれば、特に器具を必要とせず、自宅で一人で実施できるものです。「早く練習を始めたい」という焦る気持ちは分かりますが、十分なストレッチ時間を設けることをおすすめします。
休養日の設定
近年では、子どものスポーツ活動の二極化が問題になっています。すなわち、運動をほとんどせず筋肉や体力低下が懸念される子と、競技に熱心すぎるあまりスポーツ障害を呈する子に二分割される傾向にあります。腰椎分離症の場合は「オーバーユース」、つまり過度なスポーツ活動が原因で発症することがほとんどです。
これを防ぐために重要なのが「適切な休養日の設定」です。「文部科学省の運動休養日の設定例」によると、中学生は週に2回以上、高校生は週に1回以上の運動休養日を設けることが推奨されています。1日の練習時間は、平日2〜3時間以内、休日3〜4時間以内とされます。
この基準は、あくまでも国が設定した目安にすぎず、熱心にスポーツに取り組む方にとっては物足らなく感じるかもしれません。
しかし、身体のオーバーユースが腰椎分離症などのスポーツ障害を来すのも紛れもない事実です。特に競技者の年齢が小さいときは、指導者や親が休養日のマネジメントをすることが大切です。
近年では、スポーツ強豪校においても、練習の効率化や集中力を高めることで短時間でも高い効果の練習をしています。練習時間の長さと質は別物と捉え、短時間でも効果的な練習を心がけましょう。
まとめ;腰椎分離症は予防が大切!日々のコンディショニングを整えよう
あらゆる病気にいえますが、腰椎分離症も予防が一番大切です。練習前の十分なストレッチや適切な休養日を設定することで、腰痛は未然に防ぐことが可能です。
また、仮に腰椎分離症にいたっても、日頃からコンディショニングに注意しておくことで、ささいな体の不調にも気が付けます。スポーツ選手の場合、競技に打ち込んでいるときだけが練習ではありません。短時間で効率的な練習をするためにも、日々のコンディショニングを意識することをおすすめします。
【参考文献】
渡辺 航太「腰椎形成不全性すべり症と分離症の診断と治療」 臨床整形外科 54巻1号