MENU
メニュー

 腰痛の原因となるものはたくさんありますが、その中でも命に関わるものがあります。

それは「がん」です。

 腰が痛くなったとき、まず最初にがんを疑う人はいません。普通は、単なる疲労による痛みやぎっくり腰やヘルニアで、高齢者の場合は圧迫骨折を疑うぐらいです。

 誰も腰の痛みが自分の命を奪うものとは考えません。

 しかし、腰痛の原因で最悪を想定した場合、行き着くところはがんになります。

 この腰痛が命に関わるかもしれない。そういう最悪の想定ができるだけで、もしかしたら自分の命を救うことになるかもしれません。

前立腺がんの骨転移

 前立腺と近い位置にある骨に転移しやすいです。前立腺は恥骨などの骨盤や腰椎など近くに骨が存在しているため、早い段階から骨転移を起こしやすいのです。

前立腺がんの骨転移の症状

 骨転移すると様々な症状が体に現れます。痛みや骨折、痺れなどです。

 痛みは骨転移の部位に応じて、腰椎に転移すれば腰痛、胸椎なら背中の痛み、大腿骨なら股関節や太ももの痛み、骨盤なら腰骨のあたりの痛み、上腕骨なら腕の痛みなどが現れます。

 このような痛みは骨転移以外の原因でも現れますが、数日にわたって痛みが消えないような場合には、骨転移の可能性も考えなくてはいけません。

 絶対とは言えませんが、安静にしていても痛みが引かず変わらない場合は、がんによる痛みの可能性があります。

 骨転移するとその部分の骨がもろくなり、骨折が起こりやすくなります。

 特に体重のかかる部分の骨が弱くなり、骨折に至ることが多いです。

 かなり激しい痛みを伴い、腰椎・胸椎では圧迫骨折を起こします。大腿骨が骨折すると立っていることもできなくなります。

 脊椎転移によって脊髄が圧迫され、手足のしびれや麻痺が現れることがあります。

 この場合は急いで治療をしないと、しびれや麻痺が永久に回復しない場合があります。

 転移した骨からカルシウムが溶け出す結果、血液中のカルシウム濃度が高くなることがあります。これを高カルシウム血症といいます。

 カルシウム濃度が高くなると、のどが渇く、胃のあたりがむかむかする、尿の量が多い、お腹(なか)が張る、便秘気味になる、なんとなくぼーっとするなどの症状が現れます。

 治療が遅れると脱水症状が強くなって腎臓の働きが落ちてしまうので、早めの治療が必要です。

 このような症状にあてはまる場合、すぐに病院へ行ってください。

前立腺がんの骨転移の検査

 原発のがんが特定され骨転移が疑われたときは、骨シンチグラフィーやPET-CTをします。

 どちらも核医学検査と呼ばれるもので、がん細胞に取り込まれやすい放射性物質を投与して検査を行います。

骨シンチグラフィー

 骨はその形を維持しながら常に新しい骨組織に置き換わり、破壊と再生を繰り返しています。

 骨に病気が発生すると、破壊と再生のバランスが崩れて骨を作りすぎてしまったり(骨造成、骨硬化)、作らなかったり(骨吸収、溶骨)といった現象が起こります。

 骨シンチグラフィー検査はこの骨造成を反映する検査であり、がんが骨へ転移しているかどうかを検出するのに頻繁に利用されます。

 がんが骨に転移しているかどうかは、がんの治療を進めていくうえで重要な情報となります。

 それ以外にも骨折や骨髄炎、関節炎の診断に利用されることもあります。

 検査は骨シンチグラフィーの薬の注射を行い、約3時間後に薬が全身に浸透してから、約30分程度の撮影を行います。

PET-CT

 骨シンチグラフィーは骨転移を調べる場合がほとんどですが、PET-CTは骨転移以外にも全身に転移したがんを調べることができます。

 がん細胞は勝手に仲間を増やして大きくなり、転移を起こして広がります。

 その活動のエネルギーの元はブドウ糖で、がん細胞は正常細胞の何倍ものブドウ糖を取り込むため、18F-FDGを注射すると、この薬もがんの病巣に集まります。

 薬が集まったところからは放射線が多く放出されるので、それを捕らえて画像化することにより、がんの病巣を見つけ出すことができます。

 ただ、全てのがんが発見できるというわけではなく、脳、扁桃腺、乳腺、肝臓、腸管には自然集積があります。

 また尿として排泄されるので、腎から膀胱にかけても集積が見られます。これらの部位を調べるのには不向きです。

前立腺がんの骨転移の治療

 骨転移の治療には大きく「手術」「薬物療法」「放射線治療」があります。

手術

 骨転移の手術の場合、がんの転移が原因の骨折に対して、生活の質を保つための手術を行う場合が多いです。

 圧迫骨折や人工関節の手術などをして、なるべく患者さんが普段の生活を送れるようにします。

 脊髄の麻痺が切迫している場合には、除圧術という神経の圧迫を解除する手術を行うこともあります。

 がんの治療として、骨に転移した病巣を取る手術を行うことは多くはありません。

 しかし、病巣が限局していて取りきれる範囲である場合など、特定のがん種の特定の状況では手術を行うこともあります。

薬物療法

 一部の病態ではがんに対する薬物治療がよく効果を示すので、放射線治療よりも薬物による全身療法が優先されることがあります。

 特に前立腺がんではホルモン療法や化学療法の効果が期待される場合は、そちらが優先されることがあります。

 薬剤が効きやすい遺伝子変異をもつ肺がんやリンパ腫などでも、骨転移による症状が少なければ、まずそれぞれの腫瘍に対する治療を行うことがあります。

 また鎮痛剤を用いて、痛みをコントロールすることも重要です。

放射線治療

 放射線治療は様々ながんの治療で用いられますが、骨転移に使われる場合は完治ではなく、痛みを軽減させる目的で使用されます。

 手術による治療と比較すると負担は小さい放射線治療ですが、注意する点があります。

 それは、一ヵ所の病変部位に対する治療回数は基本的には一回という点です。

 これは照射される部位によって、耐容線量という、正常組織に障害を起こさない線量が決まっているからです。

 その線量を超えないように、放射線治療は行われます。

 骨転移が生じても長くがんと共に歩む患者さんが増えてくると、一度放射線治療を行っても、数年後に再び増大してくるケースがみられるようになってきています。

 例えば背骨の骨転移であれば、二回目の治療でさらに10~20回照射すると脊髄の耐容線量を越えてしまい、合併症の危険性が高まってしまいます。

 放射線治療はタイミングが早過ぎれば再増大の懸念を残すことになり、タイミングが遅れると骨折や麻痺の危険性が高まることになるのです。

 実際の診療の場面で目安となるのは、痛みが出現する時期です。

 画像検査で骨転移がかなり目立つようになっても、全く無症状の場合には放射線治療は見送られることが多いと思います。

 一概には言えないのですが、痛みが出てきた頃を放射線治療の開始時期と判断するのが一般的です。

前立腺がんの骨転移と腰痛まとめ

 前立腺がんは比較的検診で見つかる可能性が高く、検査は採血だけで終わります。

 検査をせずに病気が見つかることはありません。

 肉体的、精神的、金銭的に負担を伴う場合もありますが、何か気になることがあったら必ず検査を受けてください。

 腰痛は誰しもが経験する非常ポピュラーなものですが、痛みの原因は自然に治るものから手術が必要なもの、そして命に関わるもの様々です。

 命に関わる腰痛があることを、頭の片隅に留めていただけたら幸いです。症状で気になる方は早期に病院を受診しましょう。

参考:前立腺がんの特徴 塩野義製薬

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

痛みや体の不調で悩むあなたへ、役立つ情報をお届け。

自分の体の状況(病態)を正しく理解し、セルフマネジメントできるようになることが私たちの目的です。

記事のご意見・ご感想お待ちしております。

この著者の他の記事を見る
wholebodyeducator