生理前・生理時のつらい腰痛。仕事やプライベートにまで影響を及ぼしながらも、あまり公にでず、ただひたすら痛みに耐え続けている女性は多いのではないでしょうか?
世界各地での調査をまとめると、34~90%にのぼる女性が生理痛を経験し、実にその半数にのぼる女性が腰痛を経験したと報告されています。しかし、腰痛を経験している58~90%もの女性が、「安静など、保守的な対応しかできていない」との実態が明らかにされています(1、2)。
それだけ生理時の腰痛は多くの女性に共通した悩みでありながら、対処法の難しい症状といえます。
この記事では、生理時に起こる腰痛の原因と対策について解説します。さらに、生理時の腰痛を軽減させる効果を科学的に証明した研究を元に(3)、生理時でもご自宅で簡単に行える「体操方法」についてご紹介します。
目次
なぜ生理時に腰痛や下腹部痛が起きるのか?
生理時には性ホルモンであるプロスタグランジンの働きが活発になり、ホルモンバランスが変化します。このホルモンは体に対して多彩な作用をもつと報告されていますが(4)、生理時では子宮を収縮させ、経血をスムーズにさせてくれる働きをもちます。
しかし、この子宮の収縮が特に激しい場合は、収縮に伴う痛みが下腹部から全身へ放射状に波及していき、これが、腰痛として知覚されます。
腰痛の軽減に向けた効果的な体操とは?
こうした生理時の腰痛に対して、対策の一つとして推奨されているのが「軽めの運動」です。軽めのウォーキングや、ジョギングなどがこれらの軽めの運動に該当します。しかし、つらい生理時にはこうした運動すらも行う意欲がなくなってしまうものです。
今回、参考にした研究は「ストレッチ体操」を用いた生理時の腰痛に対する効果を検証しています。ストレッチは関節の活動度を高め、血行を促進し、腰痛の原因となるストレスや痛み物質を除去することが改善につながると推察されています。
この研究では、ストレッチを継続して行うことで、生理時の腰痛に対し何も行わなかったコントロール群に比べ、ストレッチ体操を実施した群で、1カ月後からの腰痛改善効果が確認されたと報告しています。
それでは、次の項目から、この研究で用いられた「つらい腰痛を正しく軽減させるストレッチ」の具体的な方法についてご紹介していきます。
1. バタフライ
あぐらをかく様に床へ座り、両膝を曲げて足裏を合わせます。両手で足を持ち、両肘で左右それぞれの内ももを床に押し付けるようにストレッチをしていきます。チョウチョが羽ばたくように、開く・閉じるを、呼吸に合わせてゆっくりと20回反復していきます。このストレッチで内転筋と股関節回りをほぐしていきます。
2. ハムストリングストレッチ
足を延ばした状態であおむけに寝ます。片足のふくらはぎを両手で把持してゆっくりと自分の胸の方へ伸ばしていきます。呼吸に合わせて20回反復していきます。片方が終わったら、反対側の足もストレッチを行いましょう。このストレッチで太ももの後ろの筋肉と、股関節回りをほぐしていきます。
3. スパイナルツイスト
あおむけで床に寝ます。両手は左右へまっすぐに伸ばし、アルファベットの「T」の姿勢をとります。目線は左の手をみるように、頭を左側へ回旋させます。左足を持ち上げ、右足を超えて反対側へクロスさせます。
この時、ゆっくりと息を吐きながら、背骨をひねり、ストレッチをかけていきます。片側を10回ずつ、両側のストレッチを行いましょう。このストレッチで腰背部の筋肉と、腰椎の関節回りをほぐしていきます。
4. キャット・ドッグ
手を肩の真下、膝を股関節の真下にそろえた姿勢で四つばいをとります。最初におなかをのぞき込むように、息を吸いながら、背骨を大きく丸めていきます。
この時、両手を内側へ捻り肩甲骨周りのストレッチも加えます。今度は、息を吐きながら背筋をしっかりと反らしていきます。この時は両手を外側へ捻ります。これをゆっくりと20回繰り返します。この体操で、背骨の屈伸と、肩甲骨回りをほぐしていきます。
5. クワドストレッチ
壁の近くに立ち、右手は壁を押さえ、体を支えます。左手で右足の甲を持ちそのままおしりへゆっくりと近づけていきます。
この時、おなかと太ももが一直線になるようにきれいな姿勢を意識しましょう。「クワド」とは太ももの中で最も大きな「大腿四頭筋」という筋肉です。片側のストレッチに30秒かけ、両側を行います。
ストレッチを継続して、痛みの変化を自覚してみましょう!
この研究では、痛みの軽減に加え「自己効力感」も改善したと報告しています。
自己効力感とは、「将来の状況を管理するための行動を整理して、実行する能力のこと」と定義されています。少々むずかしい話に聞こえますが、今回の場合では、将来の状況=「また生理痛が来る…」。
行動の整理と実行=「ストレッチで対策ができる!ストレッチをしよう‼」といった形です。こうした自己効力感の高まりは、問題の解決だけでなく、行動の継続にもつながるとされています。あなたがもし、本当に生理時の腰痛を改善したいとお考えであれば、生理時の痛みを10段階の数字で示し、記録しておきます(10=死にたくなるほど痛い~0=なにも痛くない)。
そして、1カ月後、2カ月後の変化を数字で確認してみてください。変化を自覚できるほど自己効力感の改善につながり、より継続できる力となっていきます。
まとめ
生理時のつらい腰痛に対し、ストレッチ体操を用いることで、腰痛を軽減させる方法についてご紹介しました。
これらの体操の目的は生理中の生体反応である腰痛に対し、ストレッチ体操を用いることで腰部・骨盤回りの血流の改善を促し、痛み・疲労物質の除去および改善を促すことを目的としています。
さらに今回、参考にした文献では腰痛のコントロールは自己効力感につながり、こうした自分で腰痛を管理できる能力の向上は痛みの軽減だけでなく、生理時の痛みに対する不安感の軽減にもつながることが期待されます。痛みの消失は難しくとも、「痛みが出てもどうにかできる」と思えるようになることも、こうした運動を通して体を管理できる効果の重要な一つであるといえます。
今回ご紹介した体操は、体調の優れない日であってもご自宅で簡単に行える体操です。周期的な生理時の腰痛にただ耐えるのではなく、まずはこうした簡単に行えるストレッチ体操から行動を始めてみてください。
しかし、腰痛の原因は人によりさまざまです。もし、腰痛の原因が生理時のホルモンバランスの変化だけでなく、関節や軟骨など、人体に器質的な損傷が生じている場合では、ご紹介したストレッチ体操だけでは解決ができない可能性があります。
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【参考文献】
1) Banikarim C、 Chacko MR、 Kelder SH. Prevalence and impact of dysmenorrhea on Hispanic female adolescents. Arch Pediatr Adolesc Med. 2000 Dec;154(12):1226-9.
2) Chen HM、 Chen CH. Related factors and consequences of menstrual distress in
adolescent girls with dysmenorrhea. Kaohsiung J Med Sci. 2005 Mar;21(3):121-7.
3) Chen HM、 Hu HM. Randomized Trial of Modified Stretching Exercise Program for
Menstrual Low Back Pain. West J Nurs Res. 2019 Feb;41(2):238-257.
4) Baird DT、 Cameron ST、 Critchley HO、 et al. Prostaglandins and menstruation. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 1996 Dec;70(1):15-7.