腰痛が出現し、腰椎の手術を受ける。その術後の日常生活。前回は「退院後に運動できるのか?」という疑問にお答えしましたが、今回はもっと身近な問題、「退院後の日常生活はどうなるの?」という部分についてお答えしたいと思います。
実際に臨床の場で看護師として患者さんに指導している内容も盛り込んでいますので、どうぞ参考にしてみてくださいね。いま腰痛のある方も、腰痛悪化予防につながる体の動かし方として参考になりますよ。
目次
手術直後の日常生活は、コルセット装着が基本
手術後の日常生活は、その手術規模によりますが、多くの場合コルセットを使用して術後の安静を維持します。コルセットを使用することで、術後の腰痛の悪化や手術した腰椎にかかる負荷を軽減するためです。
中には、腰椎ベルトで済む事例もありますが、この場合はあまり日常生活に支障が出ることもないので、今回は割愛します。
腰椎を固定するコルセットには、体幹の前後屈や回旋を抑制する目的があります。体幹の動きの大部分を抑制するのは、術後の安静と腰痛防止を図る意味で患者さん自身もよく理解しているのですが、それでも日常生活動作に支障をきたすのは否めません。
では実際に、どのような使用が発生し、それを解決するためにできることについて見ていきましょう。
コルセットが正しく装着できているか
術後には腰痛悪化と腰椎の安静のために、コルセットを使用しますが、これが正しい位置に装着できていないと、きちんとした固定力が得られないばかりか、最悪の場合、固定した金属に負荷がかかり、かえって腰痛などの症状が悪化しかねません。
また、コルセットが上に上がることで胃部を圧迫し、食事摂取量が減ることがあります。そうなると栄養不足になり創傷治癒が遅延することもあるでしょう。
鏡を使用して、正しい装着の位置を確認する
コルセットは基本的に患者さんに応じてフルオーダーで作成されます。腰の安定性を高めるために、基本的には骨盤の上部までかかるように長さを出します。そこで正しい位置に装着できているか確認する目安は「骨盤」です。
骨盤の「腸骨稜(ちょうこつりょう)」と呼ばれる、前方のカーブを描いているラインも、コルセットに採型されます。この骨盤のカーブに沿わせコルセットを装着し、腹部側にあるベルトを固定します。
慣れるまでは鏡を見ながら位置を調節するとよいでしょう。姿勢を前屈しなくても装着できるので、装着後のずれも少なくできます。
ベッド上での寝返り
コルセットをしながらだと、体幹を固定されているので寝返りもなかなかうまくできません。しかし、コルセットを装着していないと、不用意な動きで腰痛が生ずることもあります。また、無理に行うと手術部位へ負荷がかかり、腰痛などの症状悪化の原因にもなります。
ベッド上で寝返りを行う際の方法
重要なのは、腰部を回旋させずに寝返りを打つことが重要です。まずは、膝を立て臥床します。その後まずは上半身の両手でベッド柵を持ち次いで立てた膝を向きたい方向に倒します。そうすることで体幹をひらずに、体が容易に向きたい方向に向くはずです。
これは動くことによって腰痛を感じるときにも有効な寝返り方法です。ぜひ手術前から練習し、試してみてくださいね。手術していない状態であれば楽にできるはずですが、実際には術後の腰痛があった状態でします。練習しておけば腰痛があった状態でも寝返りができるはずです。
ベッドからの起き上がり
近年では手術後は「早期離床」がうたわれていて、早ければ術後の翌日から離床行動が開始されます。しかし、コルセットをした状態で、腰痛も残存する状況で行いますので、これも練習しておいた方がよいでしょう。
ベッドからの起き上がり動作
まずは上に説明した通り、横向きになります。そのまま上方になる腕でベッド柵をつかみます。下方にある腕は肘をつき、起き上がり時の支点とします。起き上がる前にベッドから足を90度に曲げて下げます。肘と腕の力で上半身を起こし、同時に下肢も着地します。
着替え
腰椎術後には、コルセットを装着して過ごすのですが、これが前屈姿勢をとれない固定がなされます。前屈制限があるのは、実はとても不便で、とくに着替えは大変になるでしょう。着替えるときも腰椎の回旋や捻転が起こりやすいので、入浴時などは、最後にコルセットを外します。
前屈ができないことにより、更衣がままならなくて困るという患者さんも多く見られます。臨床の場で実際に行われている工夫は次にご紹介します。
足元の操作をするのに、マジックハンドや靴ベラを利用する
前屈して行う日常生活の代表的なものに「靴や靴下を履く」行為があげられます。つま先に近づくほど前屈姿勢をとる必要背があるので、実は苦渋する方法です。
靴を履くときには柄の長めの靴ベラを使用し、体を前屈しないようにして靴を履きます。また、靴下を脱いだり履いたりするときも工夫が必要です。足先にうまく靴下をひっかけたり、引き上げたりするときに、マジックハンドを活用すると容易になります。
できれば2個あると便利です。これも術前から練習しておくと、術後急に使うことになっても困ることもなくなります。整形外科の入っている病院の売店などでは、マジックハンドが売られていることもあります。
また、ホームセンターの介護コーナーなどでも取り扱いがある場合があります。
入浴中に足を洗う、背中を洗う
入浴中も前後屈や回旋することがあります。基本的に医師の許可が下りるまでは、コルセットを装着して入浴するのですが、それでも体動制限があり、しっかりと体が洗えなくて困っているという意見も多く聞かれます。とくに多いお悩みは「足先と背中」です
柄の長いボディブラシを活用する
体感の運動を制限して入浴するには、一般的なふろ用の椅子だと腰椎の屈曲が増強し負荷がかかります。そのため、使用する椅子は、背もたれのある背が高めの椅子を用意しましょう。そうなると、足先を洗うのに距離が生じ困ることになると思います。
その時に役立つのが「柄の長いボディブラシ」です。腰椎の過度な屈曲が起きずに、足先を洗えます。背中にも容易にブラシ先が届くので、腰痛が増強せずに洗うことができますよ。
まとめ
いかがでしたか?今回は術後の比較的急性期に聞かれる、患者さんの日常生活で困ることをまとめました。実際に病院で行われている方法なので、腰痛にお悩みで、手術を検討している方は、ぜひ練習してみてください。
本来であれば、手術前に練習をすることで、術後の日常生活動作も困らずにこなせるのですが、整形外科の手術は、手術前日入院となることが多いため、術後の生活を想定して練習する時間がありません今回の記事を読んで、腰痛改善のために手術を検討している方へ、少しでもお役に立ちましたら幸いです。