貼ることで痛みを和らげてくれる優れもの。
「湿布」。
病院を受診しなくても、ドラックストアやコンビニエンスストアなどですぐに購入することができ、おまけに簡単で扱いやすいことから、特に腰痛でお悩みの方は、一度は「湿布」のお世話になったという方も多いのではないかと思います。
しかし、痛いところに貼るだけといった簡便さから使い続けた結果、症状が治まるどころか、悪化や別の問題を起こしたといった声も多く聞かれます。
もしかすると、そのような方は『湿布に誤った期待』を抱き、『自己流の使い方』になってしまっていることが原因かもしれません。
湿布に対するきちんとした知識と正しい使い方を知れば、湿布が持つ本来の効果・効能を最大に引き出し、より効果的に腰痛を和らげることができるようになります。
目次
湿布の使い分けが腰痛を和らげるカギになる
湿布は水分を含むか、含まないかで大きく2つの種類に分けられます。
まず、水分を多く含む湿布を『パップ剤』といいます。
「パップ(pap)」とはオランダ語を語源とした「泥」や「お粥」を意味する言葉1)です。
この言葉が表すように、日本では、昭和初期に大量の水分を含む泥状の薬剤として登場しました。その後、医療現場での使いやすさを求める声に応えるように、現在汎用されている薬剤の有効成分と水分を含む軟膏が塗布された「成形パップ剤」へと改良されました1) 2)。
『パップ剤』の特徴としては、主に以下の5つが挙げられます。
1.水分を多く含むことから患部の冷却や保湿に優れている
2.粘着性が低いため、はがれやすい
(皮膚が一緒にはがれる心配が少ない)
3.かぶれなどの皮膚症状が起こりにくい
(皮膚に成分が残ることが少なく、皮膚への刺激も少ない)
4.厚みがあるため患部の保護が期待できる
5.(背中や腰など)面積が広くて動きが少ない部位で使いやすい
特に乾燥した皮膚では薬剤の有効成分が浸透しにくくなることから、水分を多く含んだ『パップ剤』を用いることで、薬剤の有効成分がより浸透しやすくなるといえます。
よって、腰痛でお悩みの方で、乾燥肌やアレルギー肌の体質の方、高齢の方などには『パップ剤』の使用をオススメします。
一方、水分を含まないものを『テープ剤(プラスター剤)』といいます。
伸縮性が高いニットなどの基部に、薬剤の有効成分などが塗布されたものです。
代表的な商品名を挙げると、ロキソニンテープやモーラステープなどがこれにあたります。
『テープ剤』の特徴は、主に以下の5つが挙げられます。
1.粘着性が高く、はがれにくい
2.薄くて伸縮性があるため、カラダの動きを妨げにくい
3.関節などのカラダの中でよく動かす部分、肘や膝、手首や足首、指などの凹凸や曲がった形状をしてい
る部位で使いやすい
4.見た目が肌の色に近く、目立ちにくい
5.においが少ない
『パップ剤』に比べて粘着性が高いことから、腰痛でお悩みの方で、運動や作業をしながら湿布を使用する際は『テープ剤』の方が適しているといえます。
しかし、はがれにくい分、特に患部周辺での密封性が高くなり、体質に関係なく何らかの皮膚のトラブルを起こす可能性があります。
そのため、『テープ剤』を使用する際は、常に貼った場所の皮膚を観察しておくことが大切です。特にカラダを曲げ伸ばしすることで『テープ剤』の端の部分に力が加わるため、この部でかぶれが発生しやすくなります。このような場合は、力を分散させるために『テープ剤』の中心部や端に切れ込みを入れて使用すると良いでしょう。
基本的に『パップ剤』と『テープ剤』の効き目については、大きな違いはありません。
そのうち、『パップ剤』はもともと多く含まれている水分によって冷却効果が期待できる「冷湿布」と保温効果が期待出来る「温湿布」の2つのタイプがあります3)。
腰に痛みや熱などを伴った急性の炎症症状があらわれた場合は「冷湿布」が最適です。「冷湿布」に配合されているメントールなどが皮膚での冷感を高め、症状を鎮めてくれます。ただし、患部を十分に冷却するまでには至りませんので、その場合は氷嚢やアイスパックなどの使用をオススメします3)。
腰に2週間以上に亘って鈍い痛みが続くような慢性的な腰痛が見られている場合は「温湿布」が最適です。「温湿布」に配合されているトウガラシエキスなどが皮膚での温感を高めながら症状を鎮めてくれます。しかし、患部を十分に温めるまでには至りませんので、その場合はホットパックや蒸しタオルなどの使用をオススメします。
湿布を用いるタイミングと扱い方が腰痛の予後を変える
腰痛の対処方法にはさまざまなものがあります。
中でも、『湿布』は全身の血流によってカラダの臓器に薬物(成分)が送られて効果を発揮する『外用薬』として位置づけられています。
痛い場所の皮膚から薬の成分が組織中に送られ、患部で起こっている炎症や痛みを直接的に鎮める『経皮吸収型製剤』としての効果が期待されています。
某製薬会社が行った「全国47都道府県に住む腰痛を抱える30代・40代の男女」を対象とした大規模調査の結果4)によると、最も腰痛人口が少なかった県の方々が行っている主な対処方法は、上位から順に
1.市販の外用薬(貼付薬)を使う
2.ストレッチやヨガ、体操をする
3.お風呂やシャワーなどで体を温める
4.市販の外用薬(塗布薬)を使う
5.整体院・整骨院・鍼灸院へ行く
の5つであったことが分かっています。
最も用いられている対処方法として『湿布』が挙げられている点からも、『湿布』が腰痛の症状を改善し悪化を防ぐことに役立っていることが伺えます。
しかし、見てお分かりの通り、腰痛の対処方法として挙げられているいずれの項目も特別な方法という訳ではありません。むしろ、誰もが一度は経験したことがありそうな方法ばかりが挙げられています。
では、なぜこの県では腰痛人口が少ないのでしょうか?
実はこの県に住む方々は『腰痛の症状が出てから対処をするまでのタイミングが早かった』のです。
同じ調査の結果4)から、腰痛人口が少なかった県では「腰痛の症状が出たらすぐに対処する」といった方々が非常に多かったことが分かっています。反対に最も腰痛人口が多かった県では89.5%の方が「腰痛の症状が出てもそのまま放置」し、全国でも平均して腰痛をお持ちの方の82.5%が「放置しがち」であったことも分かっています。
つまり、腰痛の症状が出てから対処するまでの時間が腰痛の予後に大きく関わってくるのです。
そのため、腰痛の対処方法として『湿布』を用いる場合は腰痛の症状が出たタイミングで用いることが最も重要なポイントであるといえます。
腰痛の症状が出るということは、腰で何らかの異常が起こっているという警告であるとともに、何らかの異常で傷ついた組織を修復しようとする反応(炎症)が起こりはじめたという合図でもあります。
傷ついた組織を修復しようとする反応が起こると、腰へ流れ込む血流量は次第に増えていき、その結果、腰では赤みや腫れ、熱感、痛みといった症状が強く見られるようになってきます。
そのため、このタイミングで『湿布』を用いることが、この反応で反動的にもたらされるカラダへの負担を軽減し、組織の修復を速やかに終わらせて『治癒』へとスムーズに移行させる手助けとなるのです。
だからといって、むやみに『湿布』を使用し続けると、いつまでたっても組織の修復が終わらず、治癒を遅らせてしまう可能性もあるため、さらなる症状の継続や悪化を引き起こしかねません。
『湿布』はあくまで「腰痛の症状を軽減させる」ものであり「腰痛そのものを根本から治す」ものではありません。
腰痛の症状が出たタイミングに合わせて使用し、常に用法・用量を正しく守ることを心がけましょう。
1) 藤岡美佐子:貼付剤雑感.JAPICNEWS.2016; 388: 2-3.
2) 木下光雄:外用薬・湿布剤.外科治療.2003; 7: 120-124.
3) 原景子,二宮洋子:実習で困らないくすりのミニ知識-いろいろな薬の使い方-.ナーシングカレッジ.2000;4: 72-73.
4) 30代・40代の全国47都道府県男女50,000人に聞く、肩こり・腰痛調査(2016.第一三共ヘルスケア株式会社調べ)