腰痛がひどく朝起きられないという経験をしたことがある方はいませんか?実は腰椎椎間板ヘルニアやぎっくり腰、椎間板性腰痛の症状は朝に出現することが多いとされています。朝一番の腰痛に悩まされている方は、ベッドの種類、寝る時の姿勢に問題があるかもしれません。今回は、腰痛持ちの方が意識すべき寝具の選択方法と、正しい寝方についてご紹介します。
目次
起こりやすい症状
朝起きてすぐに出現する腰痛の多くには、時間経過とともに症状が和らいでいくという特徴があります。起きてまもなくは激痛で動けなくても、数分後には何事もなかったように動けるようになることもあります。
一見、寝ている間は安静状態を保っているため、むしろ朝には腰痛が治っていそうなイメージがありますが、実際には痛みが強く起き上がれない人や、痛みで目が覚めてしまう人がいます。これは、寝ている間に腰に何らかのストレスがかかっていることを示唆しています。
腰に負担がかかると、その周囲の神経にも影響を与えることになりかねます。腰から出る神経のほとんどは脚へと繋がっているため、お尻や太もも、ふくらはぎ、足首付近まで痛みやしびれが出現することがあります。
朝の腰痛の原因
椎間板内圧の上昇によるもの
椎間板とは、背骨ひとつひとつの間に存在する組織であり、内側の髄核とそれを取り巻く線維輪から構成されています。髄核はゼラチン状の柔らかい構造物であり、これが線維輪を押し出す、もしくは突き破ってしまう病態が椎間板ヘルニアです。
線維輪は10~20層の軟骨が輪状に重なったものであり、水分を多く含みます。この水分が脊柱の運動や荷重によって内外へ出入りすることで椎間板自体が変形します。これによりさまざまな方向への衝撃を吸収できます。椎間板内圧とは、文字通り椎間板にかかっている圧力のことで、荷重や水分量によって変化します。
基本的にはこれが高いほど椎間板に負担がかかっていること、すなわち腰痛の原因になりやすいことを示しており、腰椎椎間板ヘルニアや椎間板性腰痛とよばれる病態と密接に関係しています。椎間板内圧は、仰向けで寝ている状態が最も低く、ついでうつ伏せ、横向き寝、立位、座位の順に増加します。
ちなみに、前屈位と荷物を持つ動作は急激な椎間板内圧の増加が起こるため、座りながら前屈して荷物を持つことは最悪とされており、腰痛患者の生活指導ではこれを避けるように促すことが重要です。ではなぜ寝た状態では比較的椎間板内圧が低いのにも関わらず、朝起きた時に腰痛が出現してしまうのでしょうか。
これは椎間板の中の水分の量が関係すると考えられています。朝から夕方にかけて身長が縮んでいくという話を聞いたことはありませんか?これは、活動するにつれて脊柱に荷重がかかり、椎間板内の水分が外に押し出された結果生じる現象です。
この時外にでた水分は、夜間寝ている間に再び戻ってきます。その結果、水分を含んだ椎間板の内圧は高くなり、腰痛を引き起こす原因となります。起きてしばらく動き、水分が外へ出て椎間板内圧が減少することを考えると、起床後徐々に腰痛が少なくなっていく現象も納得できると思います。
クリープ現象によるもの
クリープ現象とは、組織に持続的な一定の力が加わった時、ゆっくりと変形していく現象のことです。プラスチックや金属で生じる現象ですが、人体でも同じような変化がみられ、ストレッチ後に一時的に体が柔らかくなるのはこの現象が関係しています。
朝起きてすぐに出現する腰痛も、クリープ現象が関係している可能性があります。長い時間同じ姿勢で寝ることで、脊椎に存在する靭帯が徐々に伸びていき、関節が緩くなった状態になります。伸びた靭帯は時間が経つともとの長さに戻りますが、力が加わった時間が長ければ長いほど、戻るのに時間がかかります。
そのため長時間寝ていると、靭帯が伸びて関節が緩み、関節の安定性が損なわれた状態が作られてしまいます。この状態のまま活動しようとすると、普段負荷の加わらない部分に力がかかり、腰痛が出現すると考えられます。
腰椎前弯の増強によるもの
腰の背骨を腰椎といいます。腰椎は生理的前弯とよばれる弯曲をもっており、この構造は脊柱にかかる荷重を分散させるのに役立っていると考えられています。
この生理的前弯は過剰になる(いわゆる反り腰のような状態)と、椎間板や靭帯の膨隆が強くなり、神経を圧迫してしまいます。その結果、腰痛や脚の痛み、しびれの出現の原因となります。仰向けをとった時に、腰椎が過剰に前弯する人がいます。
これは筋肉の硬さや脊柱の関節の形に依存します。このような人の場合、長時間寝て朝起きた時に、腰痛が出現する可能性があります。
朝の腰痛の解決方法
朝に出現する腰痛には上記した3つの原因が考えらえますが、これらには「同じ姿勢をとり続ける」という共通点があります。つまり、長時間にわたって同部位に負担が蓄積することが原因と捉えることができます。これを解決するには、適切な寝具を選択することが重要です。
適切な寝具の選び方
【マットレス編】
コイル式マットレス
マットレスの中にコイルが内蔵されているマットレスです。
具体的には、コイル同士が長で連結されており、弾力性や硬さのある「ボンネルコイルマットレス」、湿気はこもりやすいが、コイルが1つ1つのポケットに入っており、寝返りなどの振動が伝わりづらい「ポケットコイルマットレス」、ボンネルコイルの何倍もの密度でコイルが内蔵され、耐久性に優れている「高密度連続スプリングマットレス」があります。
ウレタンマットレス
体重や温度に反応して、身体がマットレスに沈みやすい「低反発マットレス」、耐久性に優れており、体重の負荷を分散可能で、寝返りしやすい「高反発マットレス」があります。
それぞれのマットレスに特徴があり、腰痛の程度によって向き・不向きはあると思いますが、マットレスの素材というのは、とても重要な点です。医療現場で腰痛がひどく、寝返りさえままならない方や、麻痺の影響により自分で寝返りを打てない方は、体重に合わせて体圧分散をこまめにしてくれるウレタンマットレスを使用することもあります。
寝具の硬さ
マットレスは硬すぎず、柔らかすぎないものが良いといわれています。さらに、背骨のS字カーブを保つことができるマットレスがおすすめです。しかし、実際に硬すぎず柔らかすぎないマットレスはどのようなものか分かりづらいものです。
柔らかすぎるマットレスとは
柔らかすぎるマットレスでは、身体が沈みがちとなり、腰を支えるために余計な負担がかかってしまいます。寝ている状態を横から見ると身体全体がくの字になっているように見え、腰痛を引き起こしやすいのです。
硬すぎるマットレスとは
硬すぎるマットレスでは、仰向けで寝てみると、身体が全く沈みません。しかし、頭と背骨の出っ張った部分に負荷がかかり、腰の部分がアーチ状になり、隙間ができることで、身体に余計な負担がかかってしまいます。結果、腰痛以外にも筋肉痛などの症状を引き起こしかねません。
仰向けで寝た場合の身体の沈み具合というのは、客観的に見ても分かりづらいため、マットレスを使う本人がベッドで横になって確かめてから、購入し使用するのが一番といえます。
体圧を適切に分散してくれているか、横になったときに腰痛が引き起こされないか、しっかりとマットレスで体感してから選ぶようにしましょう。
そして、腰痛のある方に適したマットレスは、自然な背骨のカーブを描き、寝返りがしやすい硬さかつ背骨にストレスがかからないものがおすすめです。また、大手家具店のスタッフや腰痛の専門医へ適切なベッドの種類などを相談しても良いでしょう。
【枕編】
枕の硬さ
寝返りがしやすいと思える硬さの枕を選ぶのがおすすめです。柔らかい枕だと寝返りが打ちづらく、腰へ負担がかかってしまいます。ラテックスやそば殻といった種類が好ましいでしょう。
枕の大きさ
寝返りを打っても頭が落ちることなく、腰への負担がかかりづらい、幅が広めの枕を使用することをおすすめします。
枕の高さ
枕の高さは中の素材により異なります。羽毛やそば殻、ビーズなどは自分の頭や首の位置に合わせて調整できるため、腰痛の方には適しているといえます。通気性や吸収性もよく、夏場には寝苦しさからも解消してくれるでしょう。
つまり、腰痛でお悩みの方にとって、枕は寝返りを打ちやすい硬めで、広い面積かつ高さ調整しやすいものを、マットレスは背骨のS字がゆるやかに保持でき、寝返りがしやすい、身体を支えてくれるものを選ぶと良いといえるでしょう。旅先などで、枕がどうしても合わない場面が多いと思いますが、バスタオルを重ねたり、ぐるぐると丸めたりし、高さを出して調整するのもおすすめです。
寝方
腰痛持ちの人は、適切な寝具を選んだ上で寝方を工夫するとよりよいでしょう。腰痛が生じにくい寝方に、セミファーラー肢位というものがあります。簡単に言うと、仰向けの状態で膝を立てて寝た姿勢です。
この姿勢をとると骨盤が後ろに傾き、腰椎の過剰な前弯が防がれます。セミファーラー肢位のまま、横向きに寝るのも腰痛軽減に効果的です。
結論
朝起きて出現する腰痛にはいくつかの原因が考えられますが、長時間同じ姿勢をとり続けることで生じるという共通点があります。
これを解決するには、適度に硬く寝返りがしやすい寝具を使用することが大切であり、個人の身体的特徴に合わせて選択する必要があります。また、寝ているとき姿勢を工夫することで、さらなる腰痛軽減の効果が期待できます。
【参考文献】
1)日本医事新報者 大瀬戸清茂:朝の腰痛への対処 59 2016
2)千住秀明 監修:日常生活活動(ADL)第2版 362-365