気を付けていても、時として起きる尻餅。あなたも経験したことはありませんか?尻餅をついた瞬間や直後は誰でも痛みを感じるものですが、痛みが長引く、動けないほど腰やお尻が強い、時間が経過してから腰痛やしびれが出てきたなどの症状があればそれは注意が必要なサインかもしれません。
今回は、尻餅と腰痛について詳しく解説していきます。
目次
尻餅ってなに?
尻餅は、大辞泉によると後ろに倒れて尻を地面に打ち付けるという動作を意味します。
「階段から滑り落ちた。」
「凍った地面を歩いていると滑って転んでしまった。」
「スノーボードで着地に失敗して後ろに倒れた。」
「重たいものを持ってバランスを崩し、手がつく前に地面に強くお尻をぶつけた。」
具体的にいうと、こういった状況がイメージしやすいでしょうか。
また子供の尻餅の状況では椅子に座ろうとした際、イタズラで椅子を後ろに引いたことで滑り落ちて尻餅をつくということもあります。後述しますが、尻餅は腰痛のみならず日常生活に影響を及ぼす症状が生じるともあります。イタズラで済むような行為ではないことを子供に伝えましょう。
尻餅で腰痛がおこる原因
尻餅をついた後に痛みが出る場所は大きく分けてお尻と腰ですが、今回は腰に着目します。
直接地面と接触するお尻の痛みはイメージがわきやすいですが、なぜ少し離れた腰が痛くなるのか?
尻餅での腰痛は、「脊椎圧迫骨折」の可能性が考えられます。
脊椎圧迫骨折とは?
脊椎とは、簡単にいうと背骨のことを指します。背骨は首からお尻につながる骨の集まりで、①体を支える(指示)②体幹を動かすために骨を動かす(運動)③背骨の中を通る神経を守る(保護)の3つの役割を担っています。
脊椎は4つにブロック分けされていて、上から頸椎、胸椎、腰椎、仙骨といいます。そのため、脊椎のうち頸椎で起こった骨折を「頸椎骨折」、腰椎では「腰椎骨折」など、折れた場所によって名称が変わります。
続いて、圧迫骨折とは背骨が押しつぶされて形が変わる(変形)骨折のことをいいます。尻餅をつくことで地面から上方向に強い衝撃がかかり、骨と骨がぶつかり合ってつぶれた場所が圧迫骨折となってしまうのです。圧迫骨折は1か所にとどまらず、ドミノ倒しのように複数の場所で折れてしまうこともあります。
尻餅による圧迫骨折が発症しやすい場所は、胸椎の一番下(第12胸椎)と腰椎の一番上(第1腰椎)と言われていて、これはちょうど腰を曲げるときの背骨の位置にあたります。
つまり尻餅での腰痛は脊椎骨折の中でも胸椎圧迫骨折、腰椎圧迫骨折が原因の可能性が高いと言えるでしょう。
脊椎圧迫骨折の治療法
尻餅で脊椎圧迫骨折になってしまったら、どのように治療するのでしょうか?骨折ではありますが、脊椎圧迫骨折の場合に手術することはほとんどありません。
治療の主流は、安静、コルセットによる体幹の固定、薬による痛みの緩和の3つです。
骨折した骨が固まるまでには 2~3か月と長い時間がかかります。骨の形や位置を元通りにするためや背骨の中を通る神経に影響しないよう、その期間はできるだけ腰を動かさないようにすることが大切です。しかし、2~3か月もトイレにも行けない寝たきりとなるレベルの安静は普通に生活を営んでいる人では困難といえるでしょう。またその間に筋肉の衰えやその他、体に与えるマイナスの影響は計り知れません。そのため胸から腰周りまでの体幹を支えるコルセットを装着し、過度な運動を避けてリハビリテーションを受けながら日常生活を送ってもらうことが治療となります。コルセットの装着期間は定期的な医師の診察により判断されますが、おおよそ2か月程度です。
コルセットの装着による治療のデメリットとしては、何よりもコルセットによる圧迫感や不快感を伴うことでしょう。スーツなど密着度の高い服を着る機会がある場合には見た目も気になるかもしれません。
大抵の場合、鎮痛薬を内服することにより一時的に痛みは軽快しますが、痛みが軽くなったからといって過度に運動や労働をすることは症状の悪化・治療期間の延長につながります。また薬によっては副作用が強いものもあるので、量や薬を飲む間隔は医師や薬剤師の指示を守りましょう。
腰痛や身の回りのことが十分にできないといった理由から手術をしなくても入院適応となる場合もありますが、完治するまで入院することはほぼありません。そのため正しい自己管理方法を知るここと身の回りの人の協力が不可欠です。
手術での治療は治療期間が短く、痛みが早く取れるというメリットがあります。しかし特殊であったり新しい治療方法の場合が多いので、手術を希望する場合は実施しているかも含めて医療機関に確認しましょう。
脊椎圧迫骨折以外の尻餅による腰痛
尻餅からの腰痛は脊椎圧迫骨折以外でも起こり得ます。
例えば着地の際に体勢を崩して背中から腰に掛けての筋肉を捻挫してしまう、ぎっくり腰を起こした痛みから尻餅をついてしまったなどの状況です。
腰には面積が広い筋肉や筋膜が数多くあり、様々な姿勢に影響します。捻挫やぎっくり腰はその筋肉や筋膜の損傷が原因です。このような腰痛の場合は骨折に比べて治癒期間は短いため、数日の安静とコルセットより柔らかいベルトの装着で痛みが改善することがほとんどです。もちろん痛みが強いときは鎮痛剤も処方されるでしょう。
脊椎圧迫骨折なのか腰回りの筋肉の損傷による痛みなのかは、CTやMRIといった検査で判別できるのでいずれにしても早めに医療機関を受診することが重要です。
尻餅による腰痛を防ぐには
尻餅による腰痛の予防は可能なのでしょうか?
前述したように尻餅による腰痛は骨や筋肉の損傷が原因です。そのため骨は強く、筋肉はしなやかに鍛えることが何よりの予防となるでしょう。
骨がスカスカで骨折しやすい状態を骨粗しょう症といいます。老化などからお年寄りの骨が弱くなることは安易にイメージできますが、近年は子供や若い人の骨粗しょう症が問題になっています。特に出産、閉経などの女性ホルモンが関係する体内イベントの後は女性にとって負担が大きく長期的に骨ももろくなりやすいので注意が必要です。
自分の骨の状態を把握するため、定期的に「骨密度測定」という検査をうけることをお勧めです。最近では検査に必要な費用負担を行っている自治体も増えています。
また転倒や尻餅を防ぐために運動は必須ですが、皮膚のすぐ下にある大きな筋肉を筋トレで鍛えるだけでは大きな筋肉が硬くなり、少しの衝撃で損傷しやすくなってしまいます。時間をかけて腰痛体操となるストレッチをする、体の深部にある筋肉を鍛えるコア(体幹)トレーニングを取り入れることをしてみましょう。
骨を強くするには短時間でも日光を浴びることが、効率よく体を鍛えるには屋内よりも屋外での運動がベターです。
骨を強くするにはカルシウムとカルシウムの吸収をよくするビタミンDの摂取が欠かせません。筋肉の素となる肉、魚、大豆製品などの良質なタンパク質の摂取も忘れてはいけません。いずれにしてもバランスの良い食事を適量食べることは重要です。
日常生活を少し工夫するだけで、尻餅や尻餅からの腰痛の予防はできます!
尻餅と言えども長く続く腰痛は笑い話では済みません。後々の生活に悪影響を与えることもあるので、予防法を知り尻餅をついてしまった時には慎重に対応していきましょう。
参考:日本整形外科学会