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心と脳にアプローチする「マインドフルネス」を使った治療法をご存知ですか?
痛みのコントロールや、ストレスを解消できると言われています。

慢性痛は、身体的な痛みの問題だけではありません。
痛みによって引き起こされる、苦痛・絶望感・無力感などの感情が、治療を困難にさせています。

この記事では、マインドフルネスが痛みに効果的である科学的根拠や、やり方をわかりやすくご紹介します。

痛みの種類

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・重いものを持ち上げようとしたら腰が痛くなった。
・交通事故で強く打ってしまった。

このような痛みは「急性の痛み」と呼ばれます。
原因がハッキリとしていて、長時間続くことはありません。
薬や手術などの処置で痛みがなくなります。

これに対し
・いつまでたっても痛みが取れない
・病院で、どこにも悪い箇所はない、と言われる

このような痛みは「慢性的な痛み」と呼ばれます。
原因が良く分からず、医学的な処置をしたとしても、改善しません。
その痛みが半年以上続いたり、一定期間ごとに繰り返されたりする場合は、慢性状態と言えるでしょう。

痛みの原因はこころ?

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「薬も効かないなんて・・・」と落ち込まないでください。

慢性痛の治療に重要なのは、痛みを、「脳のシステムの問題」と認識し直すことです。

痛みを感じるとき、脳内で活動が盛んになる領域があります。
これをペインマトリックスと呼びます。
この領域には、ストレスと大きく関係がある扁桃体や記憶を司る海馬などが含まれています。
脳全体で、様々な情報が神経ネットワークを通じてやり取りされた結果、痛みというものが生み出されています。

つまり、痛みは感情と大きく関係があるということです。

その証拠に、ストレス対処能力が高い人ほど腰痛が治りやすい、というデータもあります。
(引用論文:慢性腰痛患者におけるストレス対処能力に関連する因子についての検討

ストレスによる腰痛悪化のメカニズム

心理社会的ストレスが身体の機能的な症状に現れることを「身体化」と言います。「緊張型頭痛」や「過敏性腸症候群」、「心臓神経症」などが身体化に関係する疾患の代表格ですが、ストレスの症状が腰痛として現れることも多くあります。

心臓神経症はストレスにより冠動脈がスパズム(血管の攣縮)を起こすものと言われていますが、腰痛にも心理社会的ストレスによる脳機能の不具合を介したスパズム、筋の循環不良によって起こるものがあると考えられます

また、ラットに慢性的なストレスを与え、痛みとの関係を調べた研究では、ストレスを与えられたラットは痛みを調整する脳領域である中脳中心灰白質や吻側延髄腹内側部という部位が興奮していることが明らかになり、慢性的にストレスにさらされることで痛みに敏感になるメカニズムの一部が明らかにされました。

腰痛のイエローフラッグ

非特異的腰痛を悪化、慢性化させる因子として「心理・社会的因子」が挙げられ、注意する必要があることから「腰痛のイエローフラッグ(黄信号)」と呼ばれています。

代表的な腰痛のイエローフラッグには以下のようなものがあります。
・感情の問題
-恐怖心から、腰痛のことばかり繰り返し考えてしまう。
・診断と治療の問題
-恐怖心を抱かせるような診断名を告げられる。
・腰痛に対する不適切な態度と信念
-必要以上に腰痛を重大なもとのとして捉えてしまう。
・不適切な行動
-長期の安静・治療を必要以上に続け、回復を遅らせている。
・補償問題
-不適切な補償を受けることで、職場復帰への意欲が乏しくなる。
・家族の問題
-配偶者や家族の理解が得られない。または必要以上に心配をされる。
・仕事の問題
-仕事や人間関係で常にストレスにさらされている。

マインドフルネスとは

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メディアなどで見聞きすることが多くなった「マインドフルネス」。
世界的な一流企業や著名人が実践していることで、日本でも知名度が上がりました。

マインドフルネスを簡単に説明すると、「今の自分にただ、気が付いている状態」のことを言います。
ただ気が付く、とは、どのような意味なのでしょうか。

鎌倉一法庵の住職である山下良道氏は、このように説明します。

『私たちが常に、評価、好き嫌い、とらわれでできた映画の世界を生きていることを自覚したうえで、その映画の世界から外に出ること。(中略)私たちは映画を出たところから、すべてをマインドフルに観るのです。』

(出典:集英社 「マインドフルネス×禅」であなたの雑念はすっきり消える 山下良道著)

つまり、主観で物事を判断する自分から、脱却するという意味です。

あなたは腰が痛い、と思っていますね。
その「痛み」と名づけていること自体が、あなたの主観なのです。
また「ずっと治らなかったらどうしよう。」「こんなに痛いのでは旅行も楽しめない」
と考えていませんか?
これらもすべて主観です。
主観、つまりあなた自身の感情が、痛みを増幅させているのです。

自分が抱えている感情に気がつくために、マインドフルネス瞑想をしましょう。

今の自分の痛みを「ありのまま」に受け入れます。
「痛みなんて受け入れたくない」という思いも、そのまま受け入れましょう。

マサチューセッツ大学医学大学院教授であり、同大マインドフルネスセンターの創設所長であるジョン・カバット・ジン氏は自著でこのように表現しています。

『瞑想中に痛みとどうやってつきあうかを説明するときに、“座布団を差し出して、「どうぞいらっしゃい」という気持ちで”と教えています。(中略)出来るだけ中立的な立場で痛みに接触し、判断をいれずに観察し、実際にどんな感じがするかを細かく感じ取るということです。』
(出典:北大路書房 マインドフルネスストレス低減法 J.カバットジン著)

「痛み」と「自分自身」を分けて客観的に観察することによって、痛みが和らいでくることがわかっています。

瞑想の効果

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「そんなこと言われても瞑想って胡散臭い。」そんなあなたに、
米国健康維持機構で最大の組織、カイザーパーマネンテワシントン健康研究所の実験をご紹介します。

成人した慢性腰痛患者342人を無作為に

・CBT(悪い行動選択や否定的な考えを認識し、認知し直す治療法)を受けるグループ

・マインドフルネスストレス低減法(瞑想とヨガを組み合わせたプログラム)を受けるグループ
・通常のケアを受けるグループ

の3組に分けました。

それぞれ、週に8回、1回2時間ほどのプログラムを26週間受けてもらいました。
結果、従来の治療法で改善がみられた患者は44%だったのに対し、CBTでは58%、マインドフルネスストレス低減法を行った患者では61%に改善がみられました。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27002445/

マインドフルネスが、慢性腰痛の患者にとって効果的な治療選択肢であることを示唆しています。

マンドフルネスのやり方

腰痛に効果が期待できるマインドフルネス瞑想のやり方をお伝えします。

マインドフルネスヨガ

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常に「今の自分」を観察しながら行うヨガです。
ポーズの完成度は問いません。頭で考えず、心の声を聞きながらポーズをとりましょう。
ポイントは大きくゆっくりとした呼吸を繰り返すことです。
お布団の上でも出来る、簡単なヨガポーズをご紹介します。

①チャイルドポーズ

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1.四つんばいになります。肩の下に手のひら、腰の下に膝が来るようにセットしましょう。
2.息を吸って、吐きながらゆっくりとおしりをかかとに下ろします。
3.おでこをマットにつけます。手は楽な場所に置き直しましょう。
4.背中の力を抜き、深呼吸しましょう。

息を吸ったときお腹だけでなく、背中も膨らむ感覚を味わいます。
5回から10回ほど深呼吸します。

②ワニのポーズ

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1.仰向けになります。
2.左の脚は伸ばし、右の脚は曲げます。
3.左手で右ひざを掴み、息を吸って吐きながら左に膝を倒しツイストします。
4.両肩はしっかりとマットに付け、顔は右を向きます。

体の力を抜きましょう。重力に身を任せます。
5回から10回ほど深呼吸します。
反対側も同様に行いましょう。

呼吸瞑想

マインドフルネスの基本、呼吸瞑想のやり方です。
いつでも、どこでも行えます。

1.楽な姿勢で座ります。自分がまるで富士山になったような気分で座ってみましょう。
自然と背筋が伸び、ゆったりとした気分で座ることが出来ます。

2.深呼吸を3回行います。この時お腹が大きく膨らむ、腹式呼吸を意識します。

3.軽く目を閉じ、自然な呼吸に戻します。

4.呼吸に意識を向けましょう。
鼻から吸った息が喉を通って肺に入り、体温と同じ温度になって鼻から抜けていく。
その様子を観察します。

5.「腰が痛い」「明日何を食べようかな」こんな風に頭の中はすぐに別のことを考え出します。そのことに気がついたら、優しく意識を呼吸に戻しましょう。

この時、考え事をしていることに善悪の判断をつけないようにしてください。
「ありのまま」受け入れます。

※途中、腰が痛くてどうしようもなくなったら、痛みの傍観者になったつもりで観察しましょう。
「耐えられない」「今すぐやめたい」そういった感情を受け流します。
ただ、今の体の痛みと一緒に呼吸を続けます。

まずは5分から10分を目安に行ってみてください。

マインドフルネス以外でメンタルを整えるには

認知行動療法

認知行動療法とは、物事の受け止め方である「認知」とそれと連動して実行される「行動」を変えていくことで心理的ストレスとそれに伴う身体化症状の軽減を目指す治療法です。

非特異的腰痛の治療に認知行動療法が有効であることが科学的に証明されており、日本の診療ガイドラインにおいても推奨されています。慢性的な非特異的腰痛に悩まされている方の多くが、強い心理・社会的ストレスにさらされることが知られており、恐怖回避思考に陥りやすく過度の安静により痛みの悪循環に陥っています。

認知行動療法によってネガティブ思考からポジティブ思考に変え、それに伴い前向きな行動を起こせるようになることで、腰痛のことばかり考えていた思考回路から、趣味など楽しく感じられることに注意が向けられるようになり、結果として腰痛が改善していくと考えられます。

このように物事の捉え方(認知)を変えて建設的な行動を起こすことを習慣化するためには、認知へのアプローチと行動へのアプローチを同時に行っていく必要があります。特に慢性腰痛の患者に対する認知行動療法としては、認知へのアプローチと並行して運動療法をおこなうことが推奨されています。

運動療法

運動療法には有酸素運動や筋力トレーニング、腰痛体操など様々な種類がありますが、最も重要なのは無理のない範囲で継続しておこなうことです。運動をしなくてはいけないと強迫観念にかられ、無理をしすぎて腰痛が悪化してしまっては本末転倒です。

腰痛改善を目的とした運動療法の一つにウォーキングがあり、認知行動療法の側面からも推奨されます。

万歩計やスマホのアプリなどで一日の歩数を計測し、無理のない自分に合った歩数の目標を立てます。
例えば、毎日2,000歩程しか歩いていなければ、来週は2,500歩を目標とし、達成できればまた少しずつ増やしていきます。大切なのは急に歩数を増やすのではなく、小さな目標をクリアしていくことです。

目標を達成できればしっかりと自分を褒めてあげ、ご褒美をあげるのも良いでしょう。また、達成できなければ目標を下方修正するか、まずは現在の歩数を維持することを目標にしましょう。

毎日の歩数と一緒に、その時の気分や頭に浮かんだことを記録できればなお良いでしょう。
「いつもの散歩コースに桜が咲いていた」、「今週は仕事が忙しかったから目標を達成できなかった。来週は帰りに一駅分歩いてみよう」、「友達と買い物をして楽しかったから腰の痛みを忘れていた」など何でも良いので記録しておくことで、後から振り返ったときに自分の気持ちと腰痛の関係について新たな発見があるかもしれません。

さいごに

マインドフルネスは「心のトレーニング」と言われています。
筋トレをして、1日で筋肉がつかないのと同じように、瞑想も、1.2回行ったらすぐに腰痛が改善するわけではありません。
少しずつで良いので、毎日、行うようにしましょう。

ただ、がんばりすぎは禁物です。
期待せず、忍耐強く、そして自分自身に愛情を持って瞑想を続けて行きましょうね。
あなたの毎日が、今よりも輝かしいものになりますように!

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

痛みや体の不調で悩むあなたへ、役立つ情報をお届け。

自分の体の状況(病態)を正しく理解し、セルフマネジメントできるようになることが私たちの目的です。

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