2022年10月の「i-GIP 2022 四国 (inochi-wakazo.org)」のオンライン講演で医学生向けの内容になります。YO-TSU DOCTORの開発過程を紹介します。遠隔医療開発において現在病院で行っている腰痛治療をどのように再現したか、どのように再現したか、どの点で苦労しているか学生に知ってもらえればと思い講演しました。
目次
開発背景
先生との出会いや会社紹介
腰痛事情
株式会社ZEN PLACE
https://corporate.zenplace.co.jp/
日本No.1のピラティススタジオ数を誇る当社は、日本国内だけでなく中国をはじめ海外でもWell-beingを増進させるピラティス・ヨガのスタジオ事業・アカデミー事業を中心に展開を進めています。 DX化、新規事業のグロースにも力を入れ、 ヘルスアプリの開発やクリニック・訪問看護、さらに免疫や内蔵機能の調節など様々な生体機能に効果があるといわれているCBDを取り扱うECサイト運営を行っています。 既存の事業と新しい事業を融合させ、ZEN PLACEらしいユニークでシームレスな事業展開でHolistic WellnessとWell-beingを実現し、社会に変化をもたらします。
金岡 恒治
早稲田大学 金岡 恒治 教授
1988年筑波大学を卒業した脊椎専門の整形外科医師。筑波大学整形外科講師を務めた後に、2007年から早稲田大学でスポーツ医学、運動療法の教育・研究に携わる。シドニー、アテネ、北京五輪の水泳チームドクターを務め、ロンドン五輪にはJOC本部ドクターとして帯同。アスリートの障害予防研究に従事しており、体幹深部筋研究の第一人者。また、「腰痛のプライマリ・ケア」「一生痛まない強い腰をつくる」「金岡・成田式 腰痛さよなら体操(TJMOOK)」等の本も多数、執筆。
成田 崇矢
桐蔭横浜大学 成田 崇矢 教授
飛込競技の日本代表トレーナーとしてリオオリンピック、世界水泳に帯同するなど、スポーツ現場での理学療法に精通。また、「腰痛のプライマリ・ケア」「肩こりを治せば、老いも止められる(高橋書店)」「脊柱理学療法マネジメント−病態に基づき機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く(メジカルビュー社)」「腰痛がス~ッと消える(学研パブリッシング)」「金岡・成田式 腰痛さよなら体操(TJMOOK)」等の本も多数、執筆。日本体育協会公認アスレティックトレーナー、JOC強化スタッフ(医・科学)、日本水泳連盟科学委員、日本水泳連盟医事委員。
国民の1/4は腰痛とされている、約2800万人 参照:厚生労働省
2020年4月以降 在宅ワークが大幅に増えている 参照:総務省テレワーク実施状況
2020年 スマホ普及率は85%以上 参照:総務省デジタル活用の現状
アプリで腰痛改善を開発する目的
1)運動器疾患の現時点で適切と考えられる病態評価・運動療法を示す。
2)アプリによる治療成績から開発の改善をし続ける。腰痛の遠隔改善のモデルをみつける。
3)アプリによる効率的な治療により人的・経済的負担を軽減する。
打ち合わせ風景
参照セミナー・本
身体機能研究会は「金岡先生・成田先生の腰痛のセミナー」を開催しています。
直近ではzenplaceからも「金岡先生・成田先生の腰痛のセミナー」を開催することも増えてきました。
zenplaceの社員も何度もセミナーに参加し理解を深めています。
腰痛の治療や臨床について
腰痛の時間や程度の変化と患者のターゲットについて
慢性的に続く腰痛で
どの状態のものが運動療法で改善可能なのか、病院にいかなければいけないのかを解説します。
図の変化の推移のように、より悪化してくると見た目にでるようになってきます。
また腰痛の疾患の中には、まれにred flagとも呼ばれる、
・腹部大動脈瘤解離
・化膿性脊推炎
・脊椎腫瘍
・転移性腫瘍
などの早急に処置を要する病態もあります。これらの疾患では
・安静にしていても痛みが和らがない
・寝ていても痛みが続く
・発熱している、食欲がない、理由なく体重がへっている
といった症状があります。これらの症状を伴うときには、red flagを疑って早急に専門的検査や治療が行える病院に行きましょう。
ちなみに急性期の腰痛、いわゆるぎっくり腰は痛くない範囲でなら動いても大丈夫なのですが、安静がよいと思います。痛みが強い場合は薬の処方もオススメします。
ぎっくり腰も原因が色々ありますので、よくぎっくり腰になる人は痛みが発生する原因に対しての施策をした方がよいと思います。
詳細
腰痛の痛みの原因・ステージの解説【金岡恒治先生】
ぎっくり腰と長引く腰痛の解説【金岡恒治先生】
腰痛の痛みの発生している原因組織(病態)を知る
脊柱の運動時の例として、図のように立位の前屈後屈の疼痛タイプを診てみましょう。
・前屈(図左)
医療現場では前屈動作を行わせて腰痛の再現や前屈制限の有無をみる時は、指先と床との距離(finger floor distance: FFD) を記録し、前屈制限の程度・重症度の評価指標や経時的に診た時の改善指標にします。
前屈動作によって椎間板内圧が上昇し、前屈痛を呈する場合には「椎間板障害」を疑います。
また「筋筋膜性腰痛」の場合には、前屈の途中で脊柱起立筋に遠心性収縮(伸ばされながら収縮する筋活動様式) が起き疼痛を生じます。
さらに「仙腸関節障害」でも,前屈時に腰痛が再現されることがあります。
・伸展 (図右)
検者によって他動的に伸展負荷を加えた際の腰痛の再現性や疼痛部位を評価します。伸展時(後屈)に腰痛が誘発される病態は多くあります。
伸展動作で最も頻度の高いものが「椎間関節障害」や「椎弓疲労骨折 (腰椎分離症)」 です。
次いで頻度が高いものが「筋筋膜性腰痛」で、伸展時に筋内圧の上昇や筋とその周囲組織との滑走障害により、疼痛が誘発されます。
「椎間板障害」は前屈で腰痛を再現することが多いのですが、まれに後方線維輪に損傷がある場合には伸展痛が出ます。
「仙腸関節障害」でも伸展挙動で腰痛が出現するタイプがあります。若年アスリートでは伸展動作時に棘突起同士がぶつかり合う(インピンジメント)ことによって、棘突起間の滑液包炎が生じて腰痛を生じることもあります。
斜め後ろ伸展、側屈、回旋などの動作の評価も重要視します。
参照
金岡恒治・成田崇矢 腰痛のプライマリ・ケア 文光堂 pp.3-4
腰痛のタイプ(病態)の評価方法と精度
病態の評価する方法をみていきましょう。
意外なことかもしれませんが、問診、画像所見は精度が低く、問診と画像所見の両方が一致したら病態が確定すると言われています。
ブロック注射はその組織ピンポイントで痛みを取ることで病態を確定させます。
次は病態評価で
内臓疾患や大動脈瘤などのRed flagの説明はここでは割愛します。
運動療法で治療でできるものの流れをみていきましょう。
運動療法の治療方略
①まずはどの病態(痛みの原因組織)を治していくのか決めます。
②病態の中で何が悪さをしているのかを特定していきます。
③どの組織への負荷を減らすか決めます。
④評価に基づいて理学療法を行います。
⑤予防
という流れで治療していきます。次はこの数字の項目ごとに例を用いて説明します。
どの組織、どこを治すのか?という狙いを持つ
では、背中に痛みがあり筋筋膜性腰痛と推定される患者さんの治療例を見ていきましょう。
何を治すのか?という狙いを持つ
筋筋膜性腰痛で痛みを発生させている悪化要因のイメージをいくつか書いてみました。
今回は筋緊張の改善に狙い介入していきます。
参照イメージ
ファシアと筋膜の違いと、筋膜に痛みが発生するイメージ
どのような組織への負荷を減らすか?という狙いを持つ
脊柱起立筋に負荷が加わる原因
体幹安定性不足・・・図左の腹筋(腹横筋)が使えていないイメージ
骨盤周囲筋のタイトネスによって股関節単独の伸展挙動が阻害され、脊柱起立筋を使っての骨盤前傾挙動によって下肢伸展動作を行っている。・・・図右
これら原因を何らかの施策により、脊柱起立筋の負荷を減らす
腰椎・骨盤が体幹筋群によって安定し、殿筋群を用いた股関節の単独挙動が行われる状態にもっていく
参照
金岡恒治・成田崇矢 腰痛のプライマリ・ケア 文光堂 pp.73 pp.76
評価に基づく理学療法
この映像は②の隣接関節可動性改善の理学療法例です。
脊柱起立筋に負荷が加わる原因を全て改善しましょう
①②③の原因を全て改善しないと脊柱起立筋の負荷が大きなままなため、再発する可能性が高い。
予防
患者さん自身が、この動きをして痛みが改善した!など自覚することが重要になります。
アプリで再現した機能
治療方法の再現、病態の評価と運動療法
病院でしかできないこと、遠隔でできることを分けて、考えていきます。
画像所見・・・病院のみ。X線所見、MRI所見
姿勢評価・・・センサーやカメラなどを使えば可能
診断的ブロック注射・・・病院のみ。その病態をより正確に評価する場合や症状が強く治療的診断を行う時には、推定障害部位へのブロック注射が用いられます。どれだけ痛みが減ったかをみることにより評価が行われます。
現在のアプリでは
問診と運動療法による疼痛除去テストの組み合わせで病態を推定していきます。
疼痛除去テスト・・・疼痛推定部位(痛みが発生していると推定される部位)へのメカニカルストレスを減弱させ、腰痛の軽減の有り無しによって病態を判断する方法です。
痛みが減ったかをみて、病態を推定する点では診断的ブロック注射を同様ですが、医師以外の医療従事者やトレーナーも行うことができ、非侵襲的で医療コストもかからないことが利点です。
徒手療法を用いた評価はアプリではできないので、問診で推定したものに、運動療法あててみて改善するかを確かめていきます。
各問診やその組み合わせにより、病態を推定していきます。
病態別に改善効果の高い運動療法を疼痛除去テストとして用いていきます。
どの動きが、どの病態にどれくらい効果があるかデータベースに記録してあり、推定病態にスコアが高いものから提案していきます。
運動療法の表現
運動療法は、最初はアニメーションつきの動画で流れ、次に秒数のカウントなど、画像をみなくても動けるように提案しています。自社で撮影を行い何度も改良をしています。
継続率・離脱に対しての対策
ユーザーフォームでの離脱
医療では当たり前の氏名やメールアドレスもアプリでは最初の入力の時点で離脱率が高くなることがわかり、個人情報の入力を極力避けるように対応した。
問診での離脱
回答と離脱データを分析して、どのタイミングで離脱したかをみつけて対策していく
継続率の分析
継続しないという結果に対る要因は様々ある。
原因→施策も様々あり、すぐに何とかなるもの、直接患者に聴いてみないとわからないもの。いろいろ試している。
病態の確率の精度UP
椎間板付近で痛みがありそれがヘルニアかそうでないかの違い
脚の痺れがありますか?などの質問や、他の病態の運動療法で改善できるかをみて判断していきます。
MEMO:患者の回答と、実際アプリで表示される病態の違い
ヘルニアと診断された。20年前にヘルニアがあった、軽いヘルニアと言われた。1年前ヘルニアの手術をした。という患者さんの主訴も多くありました。患者さんは自分がヘルニアかな?と思う人も多いと思います。ですが違う病態が出ることもあります。こういった点での説明も信頼を高めるためアプリでもうまくやりたいと思います。
痛みの改善データ
アプリで推定された病態ごとの改善数やVAS値(0~10)の結果
傾向として読みとけること
アプリを使用する人はVAS値が4未満の人が多い
継続する人はVAS値が4以上で利用者平均より痛みが強かった人が多い
今後の展望
当社の理学療法士の石井龍太郎さん
8月からスタートしており、人を介さないと解決できない点も、わかってきました。
もっと運動療法の提案を細かくした方が良いとか、フィードバックがないので正しく動けてなくて痛みが取れていないなどです。
継続率は抜群に上がりますが、これをどう施策していくのか考えています。
2023年1月に体験サービスを停止しています。
金岡恒治先生のご紹介で2021年オリンピックの体操の採点に使用された、最新のAIカメラの導入を検討しています。今後こういった技術が遠隔医療で使えるようになっていくのではないかと感じています。詳細はQRコードかURLでみれますのでご覧ください。富士通のサイトにいきます。
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2021/10/8.html
現在開発中、センサーを用いて、運動療法時の骨盤の傾きなどを測っていきます。この技術も遠隔医療で使われていく可能性を感じています。
今、自分の動きや腰の状態が何点か見えるようになります。