「あ、やっちゃった。」
こんなふうに、不意にやってしまうぎっくり腰。
ぎっくり腰の痛みは、実際になったことがある人にこそわかる、つらい腰痛のひとつです。激痛のあまりにその場で動けなくなることはもちろん、痛みの程度によっては、日常生活はおろか仕事にまで支障をきたすこともあります。そんなぎっくり腰は、ものすごい激痛が前触れもなく突然起きるため、ヨーロッパでは「魔女の一撃」とも呼ばれています。
1度ぎっくり腰になってしまった場合、ぎっくり腰はクセになりやすい傾向にあります。そして、その後も「あ、また腰やっちゃいそうだな」と、ふとした時に気になってしまうのも、ぎっくり腰の厄介な点です。事前に対処できれば心配ないですが、こればかりは予想ができません。また、ぎっくり腰になってしまった時に、誰かがそばにいてくれれば助けを求めることもできますが、いつもそうとは限りません。他にも、周囲の人が突如ぎっくり腰になった場合に、対処に困った経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このように、ぎっくり腰は手術などが必要ないものではありますが、私たちの健康を脅かす非常に怖い腰痛であります。そこで今回は、ぎっくり腰の原因や対処方法、そしてぎっくり腰になりにくい予防方法についてご紹介させていただきます。
目次
そもそも「ぎっくり腰」ってなに?
そもそも「ぎっくり腰」とは、一体どのようなものなのでしょうか?意外と知られていないぎっくり腰の正式名称や、くわしい症状についてみていきましょう。
一般的に「ぎっくり腰」と言われていますが、実はこちらは正式名称ではありません。正しい名称は「急性腰痛」といいます。腰まわりの筋肉や筋膜に、なんらかの動作によってダメージが加わることで起きた炎症による痛みが、ぎっくり腰の正体です。腰をひねるような動作で痛めてしまう腰椎捻転や、腰を覆う筋肉の膜が炎症を起こす腰椎筋筋膜炎などを総称して「ぎっくり腰」と呼ばれています。
ぎっくり腰になる原因は、人によってさまざまです。例えば、重いものを持ち上げた時、あるいは咳やくしゃみをした時、何気なくかがんだ時に腰を痛めた、という方もいらっしゃいます。日常生活以外にも、ゴルフをしていて腰をひねったら痛めた、あるいは野球の素振りをしていたら急に腰が痛くなるケースもあります。つまり誰にでも、そしてどこででも起こりうるのがこのぎっくり腰です。ぎっくり腰の数だけ原因があると考えてもよいでしょう。
ぎっくり腰の症状について、モデルケースでみていきましょう。まず、発症直後は腰に激痛があり、歩くことはもちろん、自分での寝返りも難しくなってしまいます。最初は壁や家具つたいでの移動もやっとです。数日経てば徐々に痛みが和らぎますが、腰まわりにチクチクとした痛みを感じる方が多い傾向にあります。そして1〜2週間後はかなり痛みが和らぎ、日常生活や仕事ができるようになる、とイメージすればよいでしょう。もちろん経過はぎっくり腰の程度によって個人差があります。もっと早く症状が軽快する方もいれば、さらに期間を要する方もいます。あくまで一例ですので、ご注意ください。
ぎっくり腰になりやすい5つの原因
前章にもあるように、ぎっくり腰はくしゃみやスポーツをしただけでなってしまう腰痛です。なぜこんなにも簡単な原因でなってしまうのでしょうか。ここからはさらに原因を深く掘り下げていきましょう。
ぎっくり腰の原因は個人差があり、詳細な原因の特定は困難です。しかし、これから紹介する5つの原因に当てはまる方が、ぎっくり腰になりやすい傾向があるといわれています。
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1.骨格の歪みがあり、柔軟性が低い
ぎっくり腰になりやすい原因のひとつに「骨格の歪み」が考えられます。特に、仕事で座りっぱなしや立ちっぱなしでいる方に関連する理由のひとつといえるでしょう。私たちは、常に同じ姿勢でいると、常に同じ筋肉を酷使しなければなりません。そうすることで、徐々に身体の「柔軟性」が失われていき、筋肉や骨格のアンバランスを招くことで、「骨格の歪み」を引き起こします。骨格が歪むと、身体もバランスをとろうと頑張り、本来その姿勢や動作では使わない筋肉も酷使することになります。そうして、徐々に筋肉の疲労が蓄積され腰痛になり、わずかな動作や負担でもぎっくり腰になりやすくなってしまうのです。
2.腰回りの筋肉が疲労している
実は、ぎっくり腰は「”急性”腰痛」といわれていますが、その裏には「筋肉の”慢性”疲労」を抱えている方が多いとされています。私達は日常生活や仕事を送る中で、知らない間に少しずつ筋肉の疲労を蓄積しています。そしてある時に、負担のキャパシティがオーバーしたタイミングとくしゃみなどが重なって、ぎっくり腰となってしまうこともあるのです。
3.いきなりの過負荷が腰にかかる
こちらの原因は、高齢の方よりも若い方やスポーツ選手に多い傾向です。いきなりの振り返りや、急な切り替え、急な腰のひねりが継起となってぎっくり腰を起こしてしまうと言われています。「若いから大丈夫」「腰痛になんて悩んでいない」という方でも、急な過負荷によってぎっくり腰になることは十分に考えられます。
4.ストレスを抱えている
ストレスも、近年では腰痛のひとつの原因として挙げられています。ストレスを抱えていると、脳に備わっている痛みの抑制機構がうまく働かなくなってしまい、痛みがコントロールされないため、腰痛による痛みを過剰に感じやすくなる傾向があります。痛みに過剰に反応するようになると、無意識のうちに腰をかばうような動作が増え、徐々に腰に負担が蓄積されていきます。
そして負担が蓄積されたところで、くしゃみや重いものを持ち上げなければならない、となった時にぎっくり腰が起きやすいのです。
他にも、睡眠不足や栄養不足が続くと、日々蓄積されていく腰の筋肉の疲労を回復できず、腰痛を引き起こす場合もあります。
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5.運動不足である
運動不足もぎっくり腰を引き起こしやすい要因のひとつと考えられています。運動不足の人は、腰回りの柔軟性に欠けていたり、筋肉があまりついていなかったりする場合が多い傾向です。そうした場合に腰への急激な過負荷や衝撃が加わると、腰がその負荷に耐えられず、結果としてぎっくり腰になる場合が十分に考えられます。
他にも、肥満も腰痛の要因のひとつと考えられており、ぎっくり腰を招きやすい傾向にあるため、ダイエットを心掛けましょう。
ぎっくり腰になってしまった直後の対処法
ぎっくり腰になってしまったら、あまりの痛みからパニックになる方も少なくありません。ここからは、「ぎっくり腰になってしまった直後の対応」をご紹介します。
まず、発症直後はあまりの激痛で歩くのも難しいかもしれません。その場が安全な場所であれば、まずは横になりましょう。横向きに寝て、腰を丸めた姿勢をとると楽になります。その後は家族や知人、周囲の人に助けを求めましょう。
その後は車で病院に行くことをおすすめします。その際に、自分での運転は危険ですので、絶対にしないでください。家族か友人など、他の人に運転してもらいましょう。もし自分以外に運転できる方がいない状況であれば、タクシーの利用をおすすめします。車での移動の際も普段通りに座るのではなく、後部座席のシートなどで横になった方が楽かもしれません。
患部は炎症を起こしているため、冷やすことが望ましいでしょう。発症直後の場合は、患部が炎症を起こして熱をもっているため、温湿布よりも冷湿布をおすすめします。無い場合は保冷剤などを当ててあげることも有効です。
その後の対処方法
2~3日経過して痛みが徐々に落ち着いてきたら、できる範囲で日常生活を再開しましょう。
イギリスの医学誌に掲載された研究で、【1.ベッドでの安静】【2.治療家による施術を受ける】【3.できる限り普段どおりに日常生活を送る】という3つのグループに分けて経過をみた、という興味深いものがあります。研究の結果は、【3】のグループが最も回復が早く、次いで【2】、最も回復が遅かったグループは【1】という結果になりました。この他の類似する研究でも、長く安静でいた方が回復を妨げているという、意外が結果が明らかになってきました。つまり、痛いからといってずっと安静にしているのではなく、早い段階から動ける範囲で動くことが大切ということですね。
しかし、動くことが大切とはわかっていても、痛みがあると動くことが億劫になります。当然不安もあることでしょう。そこで、そんな方におすすめしたいのが「コルセットの着用」です。まず、コルセットを着けることで腰の可動性を抑えることができるため、痛みの緩和が期待できます。また、コルセットによって腰回りがホールドされることで、心理的にも安心感が得られ、動作の手助けをしてくれるのです。
時折、「コルセットを着けるとその分筋力が落ちるのではないか」と心配する声も聞かれますが、一時的な着用であれば問題ありません。もちろん長期的に着けた場合は、身体がコルセットに慣れてしまい、筋肉を上手く使えなくなることもありますので、注意してください。その点をふまえて使用するぶんには、コルセットは強い味方になってくれます。見極めて上手に使いましょう。
発症直後は患部が熱を持っているため、冷やすことをおすすめしましたが、熱感がとれた後は温めてあげることも有効です。入浴や温湿布などで腰回りを温めてあげることで、血流が良くなり、こわばった筋肉を柔らかくしてくれます。痛みと相談して、温めることと冷やすことを使い分けてみましょう。
動けるようになったけどしびれがある時って?
ぎっくり腰から1週間以上経過し、動けるようになったけれど「足にしびれがある」なんて方は少し注意が必要かもしれません。しびれがある、ということは、背骨の中を通る神経を痛めている可能性が考えられます。もしかすると、激痛のあまりに痛みの判別ができていないのかもしれません。「ぎっくり腰ではなくて病気になっていた」、あるいは「ぎっくり腰だったけど悪化させて病気に発展させてしまった」という可能性も否定できないのです。実際に「背骨を圧迫骨折していた」「放っておいたら椎間板ヘルニアになってしまった」というケースも耳にします。
そんな時は、まず整形外科を受診しましょう。MRIやX線画像を撮影することで、ぎっくり腰であるのか、あるいは別の病気であるのか判別をすることができます。
ぎっくり腰にならないためにできる5つのこと
ぎっくり腰は不意にやってくるため、なかなか予測ができない腰痛です。しかし、日頃からぎっくり腰になりにくい生活習慣や身体づくりを心がけることで、発症する可能性を低くすることは可能です。そこでここからは「ぎっくり腰にならないためにできる5つのこと」をご紹介させていただきます。
1.心身の休養を十分にとる
心身ともにしっかりと休養をとることはできていますか?休養がとれないと、心身に疲労が蓄積され、腰痛を抱えやすい状態になってしまいます。ストレスによって腰痛が慢性化するリスクも考えられるでしょう。仕事量をセーブしたり、休みをとったりすることも大切です。疲れが溜まって心身の限界がくる前に、休みをとって気分転換をしてみましょう。
2.無理な姿勢はとらない
無理な姿勢や動作をすると、腰に負担がかかってしまいます。動作方法を工夫することも心がけてみましょう。例えば、下にあるものは腰から曲がるのではなく、膝をまげてしゃがみましょう。寝る際には、仰向けで膝を立てる、または横向きで寝て膝にクッションを挟むことも有効です。
3.柔軟体操をする
身体がかたいと、筋肉がこわばり腰を痛めやすくなります。腰痛体操などのストレッチを行い、腰回りの筋肉を柔らかく保つようにしましょう。腰への負担を軽減するために、股関節を柔らかくすることで負担を分散させることも有効です。
4.腰まわりの筋肉を強化する
体幹の筋肉を強化することで、腰を痛めにくい身体をつくることができます。一般的に知られている上体起こしも有効ですが、方法を間違えてしまうとかえって腰を痛めてしまうので注意が必要です。
そこで、今回は寝たままできる簡単は体幹筋トレをお伝えします。
①まず仰向けに寝転がり膝を立ててリラックスしましょう。
②ゆっくり息を吐き出しながらお尻をきゅっと締め、そのままおしりを持ち上げます。
③ゆっくり息を吸いながら、徐々にお尻をおろして床につけましょう。
こちらの運動を10回で1セットとし、1日2~3セットを目安に取り組んでみてください。
5.肥満気味の場合は痩せる
肥満は腰に負担をかける要因のひとつです。肥満な方とそうでない方の場合では、肥満の方の方が体重が多い分、身体を支える腰への負荷が多いのです。また、お腹が前に出ている分、腰が反り腰となってしまうことも腰痛の原因といわれています。減量することで腰痛が軽減することが期待できるため、運動習慣や食生活を見直し、少しずつの減量を試みてみましょう。
腰痛ドクターを使ってみよう!
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参考:日本整形外科学会